COP16 (メキシコ・カンクン会合)
COP16報告② ~対極の孤立:日本の京都潰しか、ボリビアの母なる大地か~
2011年1月5日
12月11日未明、メキシコ・カンクンで開催されていたCOP16、CMP6が予想外の展開で幕を閉じました。
長い間、途上国と先進国の対立により合意形成ができなかった気候交渉ですが、カンクン最終日の午後に出された議長案がそのまま採決に至ったのです。これには、ボリビア以外のほとんどの国やNGOも議長であるエスピノーサ首相(メキシコ)の手腕を称え、会場は拍手喝采で包まれました。
しかしながら、採択された内容は、合意が必ずしも法的拘束力のある効果的な将来枠組みを作るために貢献し得るものではなく、逆に京都議定書の第二約束期間を危うくし、先進国に甘い枠組みを構築してしまう可能性があることがわかります。
決裂は逃れながらも不十分な結果に至った背景には、会期を通じた日本の非協力的かつ融通の利かない姿勢がありました。もし日本が誠意ある態度で交渉に臨んでいれば、カンクンでの大きな前進、さらにその先に気候変動の解決も期待できたかもしれません。
京都議定書を拒否した日本の孤立
日本政府は、温室効果ガスを削減するための唯一の国際法である京都議定書の第二約束期間を拒否しています。一部の国しか参加しない議定書の下で義務を課せられるのは不公平なので、米国や中国が参加しやすい緩い枠組みを構築し、そこに参加することを目指しています。
一方、EUや途上国は、法的拘束力を持つ削減義務を課すことのできる京都議定書を残しながら、批准していない米国や中国などが参加できる新しい枠組みと関連づけ、両方を強化していくことを望んでいます。
開催初日、日本は「いかなる状況でも第二約束期間は受け入れない」と宣言しました。その後、多くの国から説得を受けても最後までその態度を崩さず、その他の分野でも気候変動対策や途上国支援に消極的または弱体化させようとするよう働きかけを続けました。
日本国内ではCOP16の動きはほとんど報道もされず、日本が国際社会の中でどのような立場にあり、その主張が何を意味するのかの検証も議論もされずに、日本だけが正しいことを言っているような誤解が広まりました。その後、交渉に非協力的な日本に便乗するロシアのような国も出てきて、結果的に弱い合意内容に至ったことには、日本政府もその主張を支持する産業界も満足しているようです。
私たち日本の市民は、国際社会での日本の責任や言動を、政府の言葉だけから判断するのではなく、正しい情報と様々な視点からの意見を踏まえ公平かつ公正に評価しなければならないのではないでしょうか。
国連気候交渉の結果次第で、今後数十年の環境や経済、そして100年後に人類が生き残れるかも決まってきます。今後はさらに市民社会が関心を持って交渉を見守り、自国の政府が目先の利益にとらわれ、真の地球益に反することのないよう監視していかなければなりません。
最後まで母なる大地の権利を守ろうとしたボリビアの孤立
京都議定書の存続も危ぶまれ、先進国の責任が弱められた合意結果には、会議をまとめたメキシコを賞賛しながらも多くの途上国は「まだまだ多くの課題が残る」との認識を表明しました。そのなかで、唯一最後まで合意に反対の立場を貫いたのがボリビアでした。
この年の4月、世界中から市民、先住民族、科学者、そして政治家を集め民意を尊重したコチャバンバ気候変動会議を開催したボリビアは、COP16にコチャバンバの精神を掲げて参加しました。
ボリビアの主張には一切妥協がありません。温室効果ガスを排出し続けてきた先進国の責任を明確にし、その取り組みにおいてはいかなる「抜け穴」もあってはならないと市場メカニズムに反対しています。環境に負荷をかける恐れのある対策にも反対します。さらに、気候変動の影響に脆弱な人々や生態系を守るための公正な基金の設立を提案しています。
最終日、会場全体がまとまりかけた中で、反対し続けるボリビアの発言は空気を乱し、明らかに孤立していました。しかしながらその孤立は、会期を通して気候変動合意を弱めようとした日本の孤立とは正反対のものです。ボリビアは、気候変動合意が気候変動に脆弱な人々の民意を受けて強固なものとなることを求めたのです。
このようなボリビアの反対姿勢も、日本国内にはその主張の中身は伝えられず、交渉を妨害したという偏った報道しか流れませんでした。
日本の孤立に始まりボリビアの孤立に終わったカンクン交渉でしたが、彼らの主張や背景を十分に精査し、どこに正義があったのかを考えるべきでしょう。
内容は不十分ですが、ようやく次期枠組み合意の形が見えてきました。温室効果ガスを削減するための唯一の国際法である京都議定書存続の危機、そして抜け穴だらけの新枠組み、最後の詰めの段階まで残されたこれらの課題に対し、最終合意にクライメート・ジャスティス(気候の公平性)が反映されるよう市民社会からもさらなる働きかけが必要です。
これからダーバン会合(COP17)に向けて日本が誠意ある態度で交渉に臨めるようになること、そしてボリビアが最後まで民意を代表し続けることを期待します。