南極保全
【プレスリリース】
南極海洋保護区設置に合意できず
10月21日から二週間に渡りオーストラリアのタスマニア島で開催されていた第32回「南極の海洋生物保存に関する委員会(CCAMLR)」は、複数の海洋保護区(MPA)を南極東沿海域と、隣接するロス海に設置するという二つの提案を検討していましたが、海洋保護区設置自体に反対するロシアとウクライナに提案内容がまだ不十分とする中国が加わり、今回の設置は見送られることになりました。設置されればいずれの場合でも世界最大の海洋保護区となるはずでした。これに対し現地で見守っていたFoE Japanを含む環境団体のネットワーク・南極南大洋連合(ASOC)は、合意に失敗し提案が再度先送りされてしまった委員会の現状に対する強い危機感と失望をメディアを通じ国際世論へ伝えるとともに、会議場前で沈黙のプロテストを行いました。
二年以上かけて議論されてきたこれら二つの提案は、①南極で人間活動による影響をあまり受けていないロス海に、禁猟区を主体とした132万平方キロの海洋保護区を設置するというアメリカ、ニュージーランド共同提案と、②漁業活動を限定した複数の海洋保護区計160万平方キロを東岸海域に設けるというオーストラリア、フランス、欧州連合の共同提案です。漁業など人間活動の影響が僅かな基準領域を設け、生態系の保護・回復を図ると同時に気候変動の影響の研究とモニタリングに用いるという構想です。委員会は海洋資源保存を主目的に設立されましたが、南極生態系保護はその将来の資源利用に目を向ける国々の思惑により困難な状況に直面しています。
南大洋ではフランス、オーストラリア、韓国などが高級魚で高額で取引されるメロ類を、またノルウェー、韓国などが南大洋生態系の食物連鎖を底辺で支えるオキアミ漁を委員会の管理のもとで行っています。欧米は環境省など従来の漁業重視と異なる部門からの人材を交渉団に加えており、韓国も近年は環境団体のメンバーが加わっています。こういった背景が、交渉の終盤にノルーウェーや「この会議場を誇りを持って去りたい」と述べた韓国が支持表明を促した面は否めません。日本は明確な支持は表明しませんでしたが、ノルウェーと共に積極的に議論に加わり科学的根拠を問い提案の改善を促しました。提案国側は規模を縮小し設置期間に検討の要素を盛り込むなどして妥協を図りましたが合意には至りませんでした。
効果的な生態系の維持が漁業資源維持に不可欠であるとの基本認識が共有できず、交渉の終わりにロシアは反対理由を保護区は自国益に貢献しないからと述べました。世界が共有する南極でこそ、従来の漁業ありきから国益を超えた生態系維持へと視点の転換を実現させなければなりません。温暖化の進む南極の時間は限られています。ほとんどの国から支持を受けた提案国側は来年も提案を続けるとしており、地球環境を憂える市民は政府の一刻も早い実効ある行動を求めています。
(タスマニア発 小野寺ゆうり)
●関連情報:
ロシア・ウクライナ、南大洋海洋保護への世界の努力を再び阻害
>https://www.foejapan.org/climate/antarctica/pdf/aoa1101.pdf
AOAブログ〝Russia and Ukraine block again: Now what″(英語)
>https://antarcticocean.org/2013/11/russia-and-ukraine-block-again-now-what/
南極南大洋連合(ASOC)、インターベンションを発表
>https://www.foejapan.org/climate/antarctica/131101_2.html