南極保全
【プレスリリース】
「南極 - もう一つの国際温暖化交渉と日本の動向」
オーストラリア南東、ニュージーランドとの間にあるタスマニア島で、地球上で温暖化が一番進んでいる地域の一つである南極の保護を巡り、2002年ヨハネスブルク地球サミットから始まった国際交渉が大詰めを迎えています。
11月1日まで続く交渉で合意されれば、南極東岸海域とロス海域に世界最大の海洋保護区が2つ生まれることになります。
今年9月末に発表されたIPCC報告でも南極の急速な温暖化が指摘されていますが、1950年からこれまでに年平均で2.8℃、特に海氷や氷河の後退が認められる西部南極半島周辺はこの間の冬場の気温が6℃も上昇しています。氷床や氷河に覆われている南極はそれが溶ければ数メートルを超える海面上昇をもたらします。
さらに、周辺の海域は世界を還流する海水の起点ともなっていますが、それらの仕組みや南極温暖化がもたらす世界への影響は未だ科学的に解明されておらず更なる調査が必要です。また、そこにはプランクトンからペンギン、アザラシ、鯨等の大型哺乳類まで多様な生物が住む豊かな生態系が存在します。
近年マグロに代表されるように漁業資源の世界的乱獲や絶滅が懸念されており、これまで隔離され手付かずに近い状況であった南大洋でもオキアミや高級魚メロなどの漁獲や密漁が広がっています。南極はどこの国の領土ではありませんが、複数の条約や国際合意からなる南極体制が資源や環境の共同管理にあたっており、82年発効した「南極の海洋生物資源保護条約 (CAMLR条約)」が海洋生態系保護と漁業資源管理を担います。日本は条約発効時からのメンバー国です。
25ヶ国が集まった今回の年次会合では、米国とニュージーランドが提案するロス海周辺と、欧州連合、豪仏による南極東岸海域の複数保護区からなる提案が、数年来の議論の佳境を迎えています。西部とは対照的に大陸東部では温暖化はまだ顕著となっておらず、提案国側は気候変動がこのまま進んだ場合、ロス海と東岸海域が生態系の最後の避難場所となる可能性が保護理由の一つに挙げられています。
漁業の操業拡大を目指すロシアは長期的な保護区設置に反対していますが、漁業国である日本やノルウェーはむしろ産卵地を含む生態系保護が持続可能な漁業に貢献するという視点から設置場所や規模の科学的根拠、その期間や将来の見直しの手続きについて積極的に発言しています。
保護区案の本格的協議が始まった28日には会議場前に市民団体が集まり、保護区設置の必要性を各国代表にアピールしました。環境NGOを代表する南極南大洋連合(ASOC)は条約設置の時から関わっておりFoE Japanもそのメンバーです。
今回の保護区設置案は今後南極だけでなく北極海へと続く世界的な生態系保護の一連の動きの一部とも見られ今週の交渉の行方が世界の注目を集めています。
(タスマニア発 小野寺ゆうり)