南極保全
南極の貴重な生態系保護のために海洋保護区の設置を
(C)John Weller |
南極ロス海の生命体の豊富さは目を見張るものがあり、陸地で言えばアフリカ大陸の大草原のように価値あるものです。クジラやペンギン、アザラシ、アホウドリなど、他の海域では激減してしまったような動物種も多数生息する、地球上で最も手つかずの自然を残す海洋と言えます。
南極海東岸海域もまた、アクセスは困難ながら生態学的に貴重な海域であり、多数のペンギンやその他の海鳥、アザラシ、クジラが見られます。
7月11日-16日、ドイツのブレマーハーフェンで「南極の海洋生物資源の保存に関する委員会(CCAMLR)」の会議が開催され、これらの貴重な生態系を守るための海洋保護区(MPA)設置に関して討議されます。
現在提案されているMPA案(ロス海MPA提案、 南極東岸海域MPA提案)に関するさらなる議論が持たれます。
本来、昨年11月に開催されたCCAMLRの年次会合での合意が期待されていましたが、残念ながら参加国の全会一致に至らず、結論は今年の会議に持ち越しとなりました。
FoE Japanが参加する南極南大洋連合(ASOC)は、南極大陸およびそれを取り巻く南極海の環境保護を目的に、世界の30以上のNGOからなるネットワークです。南極海連盟(AOA)と共にロス海および南極海東岸海域において永続的な海洋保護区(MPA)のネットワークの設立が実現されるよう、現行保護区案への賛同を日本政府をはじめとするCCAMLR参加国に求めています。保護区案は本年のCCAMLR年次総会にて採択されるべきものですが、そのためには今、日本政府の支持を確実にする必要があります。
日本はCCAMLR参加国の中でも漁業等の利害関係を持ち、南極海の資源に対して大きな責任があります。ロス海および南極海東岸海域での永続的な海洋保護実現に向け、今年、日本ほかCCAMLR参加国による合意が達成されるように見守りましょう。
私たちにできること
『南極海ウォッチ』に参加して、南極海をめぐる国際的な議論を見守ろう
>参加はこちらから
日本政府代表団の意思決定者にメールを送ろう(英語ページ)
>https://antarcticocean.org/our-impact/#japan
FoE Japanの参加するASOC及びAOAでは、今後もブレマーハーフェン会議の議論の最新情報を発信していきます。
参考:https://www.nationalgeographic.co.jp/news/news_article.php?file_id=20130703003
ロス海および南極海東岸海域における海洋保護区の設立を巡る議論
>農林水産省顧問へのレター
■ ロス海および南極海東岸海域に関する海洋保護区案
アメリカ、ニュージーランドの2ヶ国は共同でロス海海洋保護区指定案を作成し、昨年、2012年の「南極の海洋生物資源の保存に関する委員会 (Commission for the Conservation of Antarctic Marine Living Resources, CCAMLR) 」年次総会に提出しました。残念ながら同会合では全会一致に至らず、この保護区案の採択は持ち越しとなりました。ロス海を完全な形で保護するためには保護区案はさらに強化される必要がありますが、現状の保護区案は、ロス海保護実現のため大きな第一歩となるものであり、保護区指定は本年度中にすべて実現されることが急務です。CCAMLRの全ての加盟各国が賛同すべきです。
■ 海洋保護区案に対する現状の日本政府の立場
日本はCCAMLRに、そして南極条約にも、創始段階から加盟しています。南極開拓の歴史で大きな役割を果たしただけでなく、南極調査研究活動でも長い歴史を誇る国です。
南極海の未来が問われている今、日本の果たし得る責務は重大です。しかし、日本政府は漁場としての南極海にもまた高い関心を持っており、そのためCCAMLRに提示されている2つの海洋保護区案には疑問や懸念を少なからず抱いているというのも事実です。そうした疑問、懸念を日本は、昨年のCCAMLR年次総会の場で表明しています。
ブレマーハーヘン会議に向けた日本政府およびCCAMLR加盟国への提言
◎提言1:海洋保護区・禁漁区に期限は無用
一部の加盟国からは、海洋保護区・禁漁区指定は期限付きで行うべきという声が出始めています。海洋保護区・禁漁区の適用が自動的に終了するような期限を設けることは、海洋保護という概念の根幹に反するものです。長期的な保護という目的に見合わず、真の海洋保護と言えなくなってしまいます。 |
◎提言2:海洋保護区・禁漁区指定に予防的原理の適用を
ロス海および南極東岸海域の2つの海洋保護区案に合意、実施できて初めて、予防的保護という課題に対する実行力を発揮できると言えます。それにより、海洋生命体の保護に予防的原理を取り入れてきた先駆者としてのCCAMLRの地位は確立されるでしょう。 |
◎提言3:海洋保護区・禁漁区は気候変動・海洋酸性化への適応の糸口となる
ロス海や南極東岸海域などに広大な海洋保護区を設立することは、健全な海洋生態系の機能を科学的に検証できる貴重な場を確保することにつながります。漁業等の負の影響を減らし、またなくすことは、南極海の生物群の適応性を高めることにつながり、気候変動など刻々と変化する環境にも順応し得る可能性が高まるでしょう。海洋保護区・禁漁区の存在が気候変動や海洋酸性化に歯止めをかけるわけではありませんが、気候変動に適応する最善の方法を追求し、見出していく上で効果的な施策の一環となる存在なのです。 |
◎提言4:南極海は未来への遺産
ロス海および南極東岸海域という2つの海洋保護区案は、世界的にも傑出した未来への遺産を確立するまたとない機会です。海洋保護区や重要な禁漁区の設立に向け、CCAMLR加盟各国は足並みを揃え協力することが肝要です。海洋保護が永続的に運用されていくためにも、海洋保護区制定と保護の実施、また関連する研究や継続監視に対する各国の協力は不可欠です。今年のブレーマーハーフェン会合はCCAMLR加盟各国が公約を実現に移す好機であり、そのリーダーシップや先見性を発揮し、デリケートな海洋生態系の望ましい管理体制を誇示すべき場です。 |