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土地収奪 ~フィリピン・バイオエタノール事業~
フィリピン・イサベラ州バイオエタノール事業
「公害への対処を」 多くの住民から懸念の声―現地市民団体が調査実施
11月22~24日、バイオエタノール工場の影響に関するNGO環境調査が実施された |
フィリピン最大規模のバイオエタノール製造工場で、悪臭・煤塵・水質汚濁・土壌汚染等の公害問題に対する周辺住民の懸念の声が高まっています。同工場は、伊藤忠商事・日揮が出資する現地合弁企業Green Future Invovetion Inc.(GFII)がフィリピン北部イサベラ州に建設し、2012年7月に操業を開始。2年半が経過した今も、十分な対策はとられず、身体の不調を訴える住民も出ています。
工場周辺の警備は厳重。近隣河川での水サンプル採取も警備員が同行するなかで行なわれた |
住民への聞き取り調査を4村で実施 |
調査期間中も同事業からの煤塵が周辺コミュニティーの植物の葉っぱなどで確認された |
廃棄物が流れ込んだ近隣の池。一面緑で覆われていたが、水の色は黒色。オーバーフローすると、灌漑用溜池につながる小川に流れ込んでしまう |
廃棄物が流れ込んだ近隣の池の水。色は濃いコーヒー色。DOの値が基準値を下回った |
灌漑用溜池からもバイオエタノール工場が見える |
こうした住民の訴えを受け、11月22~24日、フィリピンの農民団体(フィリピン農民運動:KMP)/環境団体(AGHAM)などが中心となり、同工場が立地するサン・マリアノ町などで聞き取り調査(延べ123名)、および、環境調査を実施。24日午後、暫定の調査結果を現地コミュニティー向けに発表しました。
暫定調査結果の概要は、以下のとおりです。
・住民は長期間にわたり、同事業が引き起こしている強い不快な悪臭、また、煤塵に関する苦情を申し立ててきたが、事業者は対策を約束するのみで、効果的な対策は講じられていない。これは長期的に健康被害を及ぼす可能性がある。
・同事業による大気汚染、水質汚濁によって、健康被害を訴える住民がすでに出ていることが確認された。
・漁民によれば、工場からの排水が近隣の灌漑用溜池やピナカナワン川を汚染しており、魚類の減少が見られるとのこと(魚類が死亡したケースもある)。また、住民からは魚の味が落ちたとの声も聞かれた。
・同工場の廃棄物が流れ込んだ近隣の池の水を現場で分析したところ、溶存酸素量(DO)は0.27 mg/Lであった。これは、フィリピン環境天然資源省が定める(水界生態系の生存に必要な)最低基準5.0 mg/L を下回る値である。(したがって、仮にこの種の水が溜池や河川に流れ込んだ場合、魚類が死亡することが予測される。)
・同工場の廃棄物を液体有機肥料として使用した農地の近くで、ある井戸水(家庭用)を現場で分析したところ、酸性水(pH 6.43)であることが確認された。この状況は井戸に利用されている金属パイプの腐食の原因となり、飲料水に適さないものになる恐れがある。
(以上、暫定調査結果の概要)
今後、同市民団体は、工場周辺の河川等で採取した水サンプルの詳細な分析を行ない、住民への聞き取り内容とともに、最終報告書にまとめる予定です。
「環境にやさしい」イメージの先行するバイオ燃料ですが、同事業では工場の操業前から、原料となるサトウキビの栽培地11,000ヘクタール(東京ドーム2,353個分)の確保を巡る「土地収奪」、また、サトウキビ畑で働く農業労働者の労働条件等の問題が指摘されてきました。そして、工場の操業後は、日本でかつて起きたような公害問題をフィリピンで繰り返す形となっています。
日本の出資企業は、住民の訴えに真摯に耳を傾け、健康・生計・環境に対する被害の実態把握と原因究明のための徹底調査、また、調査結果に基づく、公害対策と被害への補償措置を早急に講じるべきです。
●同事業の詳細については、こちらをご覧ください。
●公害の状況についての現地レポート
フィリピン・イサベラ州バイオエタノール事業~つづく悪臭と大気汚染(2014年3月)