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土地収奪 ~フィリピン・バイオエタノール事業~
現地報告(1):工場の操業開始――地元住民の戸惑いと懸念の声、続々と
2012年7月
>現地報告(2):サトウキビ調達現場で続く問題――大きなコスト・リスク負担は農民に
「こんな、まるで飛行機のような音がするなんて。」
5月中旬から1週間程、2キロ強離れたサン・マリアノ町の中心地まで断続的に鳴り響いた轟音に、地元住民は驚きの声と不安の色を隠せませんでした。バイオエタノール製造工場の試運転が始まったのです。
工場が建設されたサン・マリアノ町マラボ村の周辺には学校施設もあるため、「この状況が続くようであれば、子供たちの授業の妨げになるのでは」という声も聞かれました。
「外に干した白い洗濯物が黒くなる」
といった苦情もマラボ村の住民からあげられ、工場の煙突から排出される煙の影響が懸念されるようになりました。
左) 商業運転を始めた工場。トウモロコシ畑(手前)のすぐ上に工場廃水用の貯水池が作られた 右) 工場の煙突から排出される煙 [2012年7月/FoE Japan撮影] |
しばらくして、騒音や煙の状況は幾分解消されましたが、6月になると、工場周辺で養魚池の魚が死んでしまう事故が起こりました。工場廃水を敷地外に流す前に一時的に滞留させておく貯水池から、養魚池に排水が流れ込んだためでした。
「水田の灌漑用水に使われる水源が、貯水池からの排水経路と重なっている。今はまだ作付期でないので実害も出ておらず、影響はわからないが、貯水池からの排水が作物に影響を及ぼすのでは。」
本格的な作付期を前に農民の不安は募ります。
また、マラボ村の村長は、これから雨季に入るこの地域で、貯水池の廃水がオーバーフローを起こし、直下にある農地や河川にも悪影響を及ぼす可能性を指摘しています。
「(養魚池の事故後、)本来の排水経路が閉められたとのことで、貯水池から廃水が流れる経路が確保できているのか定かでない。今後、大雨が降った場合に、貯水池の廃水がそのまま直下に流れ出るしかない状況だと、水田やトウモロコシ畑、ピナカ・カナワン川が被害を受けるのでは。」
左) 工場廃水を一時的に滞留させておく貯水池 右) 直下には田畑、河川が広がる [2012年7月/FoE Japan撮影] |
「風向きによっては、家にいても悪臭が感じられることもある」
大気や水質に関する懸念のほか、マラボ村では、悪臭への苦情も出ています。
主要な幹線道路からマラボ村に続く道は工場敷地のすぐ脇を通っていますが、その付近でも時に強烈な悪臭が感じられるようになりました。
マラボ村の村長は、こう言います。
「着工前に、環境影響につい事業者から説明はあったが、いいことばかり言われ、悪影響については何も言われなかった。例えば、灌漑用水の水源を通る貯水池の水は、水田にとっても肥料の役割を果たすと言われた。しかし、魚が死ぬような水が水田の肥料になるのか非常に疑問だ。」
本来であれば、事業者であるグリーン・フューチャー・イノベーション(GFII)社が、短期間であれ、長期間であれ、悪影響が起こる可能性があることを地域住民に事前に説明すべきで、その悪影響に対する適切な回避・軽減措置や補償措置を検討すべきだったと言えます。
6月上旬に商業運転に入ったばかりのバイオエタノール製造工場ですが、今後も被害を出しながら操業を続けるのではなく、地域住民の懸念する大気(悪臭含む)・水質・(農地の)土質への影響に関する調査を透明性の高い形で行ない、地域住民の納得のいく対策を講じることが事業者に求められています。
>現地報告(2):サトウキビ調達現場で続く問題――大きなコスト・リスク負担は農民に