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土地収奪 ~フィリピン・バイオエタノール事業~
【現地報告】農地収奪・作物転換の現状(続報)
2012年2月13日
整地を阻止した農民に警察から通知――デルフィン・アルバノ町で緊迫した状況に
「本来、こうした問題は村長の管轄事項なのに、警察から通知が来るというのは、自分たちのしたことは犯罪ですか?」
2月2日、デルフィン・アルバノ町ビラ・ペレダ村の農地にバイオエタノール事業者であるECOFUEL社のトラクターが整地にやってきたところを、複数の農民が阻止しました。自分たちの水田を守るためです。
彼らはここで1970年代から水稲の耕作を続けてきました。しかし2007年頃、トウモロコシ生産事業を始めた中国企業に、隣のトゥマウニ町パラグ村村長が勝手に水田の一部の利用許可を与えてしまい、その農地はトウモロコシ畑に転換されました。2011年にバイオエタノール事業のサトウキビ栽培が開始されると、そのまま、パラグ村村長がECOFUEL社とリース契約を結び、サトウキビが植えられたということです。
サトウキビに転換された農地(奥)と水田(前) 水田がトウモロコシ畑にされ、現在はサトウ キビを植えられた(奥)。手前は整地されたが 水捌けが悪いため何も植えられていない。 撮影:FoE Japan/2011年12月 |
今年に入ると、まだサトウキビ畑に転換されず、水田として残っていた一部の農地にも、ECOFUEL社のトラクターが整地にやってきたのです。
「ここまで取られてしまっては、自分たちの家族が生きていけない。死んでも、土地には入れないぞ!」
農民らは、決死の覚悟でトラクターを制止。ECOFUEL社は整地を諦めて戻っていったそうです。
しかし数日後、農民らは、ビラ・ペレダ村村長からデルフィン・アルバノ町警察からの通知を提示されました。2月4日付の通知には、「苦情が届け出られている件について、2月6日午後2時に警察に来るように」との内容が記されていました。
農民らが、「なぜ警察が関与してくるんだ」と警察に出向かなかったところ、2月9日に再度、村長から2枚目の通知が提示されたそうです。農民は言います。
「私たちと同じように勝手にサトウキビが植えられても、村長や警察が怖くて、声を上げられない農民もいるんです。」
地元の有力者らによる書類の偽造を事業者はどう精査できるか?
農地改革事務所に確認に行く農民 撮影:FoE Japan/2012年2月 |
農民らは2月10日、警察ではなく、町の農地改革事務所を訪問し、自分たちの農地の関連書類を要求しました。ここで、彼らは次のような内容の書類を確認できました。
・2011年にサトウキビがすでに植えられ、かつ、2月に整地しようとしたロット番号「H-U-43712(23ha)」の土地は、1960年代からDevelopment Bank of the Philippines(DBP)が土地権保持者である。
(パラグ村村長の祖父から農地をDBPに譲渡済みである)
・整地を制止した農民を含む10名は、農地改革法による農地分配の正当な受益者として、十数年前、農地分配の正式な申請書にすでに署名済みである。
これらの書類は、パラグ村村長が、この農地についてECOFUEL社とのリース契約を結ぶ権利がないことを示しています。
また、この農民らが長年、耕作してきたにもかかわらず、現在、パラグ村村長がサトウキビを植えようとしている別の区画番号の農地についても、次のような内容の書類を確認できました。
・ロット番号「PSU-157558(8ha)」の農地は、そこで耕作をしてきた農民4名が農地改革法による農地分配の正当な受益者として、十数年前、農地分配の正式な申請書にすでに署名済みである。
・トゥマウニ町パラグ村村長とその親戚が、「デルフィン・アルバノ町の住人で、DBPの土地(ロット番号「PSU-157558(8ha)」)の本来の占有者である。また、この土地の元の所有者はパラグ村村長の祖母である。」という内容の2012年1月18日付証明書に、ビラ・ペレダ村村長が署名している。
これらの書類は、後者のような書類の内容を地元の有力者らが偽造し、ECOFUEL社との契約の際の法的根拠として用いている可能性を示唆しています。
これまで、現地で事業を進めるGFII社とECOFUEL社は、「土地の所有権の法的状況が曖昧であったり、所有権に問題のある土地では契約しない」との見解を示し、契約後に問題が発覚した場合は契約を破棄することを示してきました(2011年6月、国際NGO調査団との会合で回答)。
しかし、このままでは、同事業で必要とされている11,000haのサトウキビ農地を確保するまでに、農民や先住民族の合意のないまま勝手にサトウキビが植えられてしまうケースは更に増えていくでしょう。事業者が、「法的に問題ない土地で契約している」状態を確保するには、今の対応ではあまりにも不十分です。
「法的には問題ないと見せかけている」土地での契約をどう見極め、回避していけるのか?
地元有力者や警察からの嫌がらせを恐れ、苦情すら口にできないケースにどう対処できるのか?
――日本企業側は対応を現地企業任せにせず、以下を早急に検討し問題を解決していくべきです。
・地元農民の苦情を適切に受け付け、迅速に解決を図るための苦情処理メカニズムを確立する
・各契約候補、あるいは各契約済みの農地について、関連諸機関における関連書類を丁寧に精査する
・所有権が曖昧である等の問題があり、また、本来の耕作者の合意のないまま、勝手にサトウキビが植えられたケースについては、耕作者が失った収入機会等に配慮し、適切な補償措置をとる
・フィリピンの関係当局に対し、軍・警察や地元有力者等の嫌がらせといった人権侵害の問題を提起する
(参照:グローバル・コンパクト10原則の原則2「人権侵害に加担しない」)