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土地収奪 ~フィリピン・バイオエタノール事業~
工場建設労働者が正当な利益供与を訴えストライキ――現地からの報告
左:建設現場に集まりストライキを行う労働者 右:ストライキ参加者の署名を集める [撮影]FoE Japan |
2012年1月29日
1月25日、フィリピン・イサベラ州で伊藤忠商事と日揮が進めているバイオエタノール製造工場の建設現場の入口で、204名の労働者が正当な利益供与を訴え、ストライキを行ないました。
ストライキを行なったのは、現場で工場建設を進める日揮の下請業者の一つMETAPHIL社が下請契約をしているBNR社(本社セブ市)の労働者です。彼らの訴えから、次のような問題が明らかになりました。
1.「13ヶ月給与」支払遅延・支給額不足(12/24までに基本給1ヶ月分を支給するフィリピン労働規定)
・支給が繰り返し延長され、1月24日まで遅れ
・1月24日に提示された支給額は、基本給1ヶ月分ではなく、「雇用期間(○ヶ月)×2日分/月×日当」という計算方法で算出
・上記の支給額から、2011年12月にBNR社が「クリスマス・ボーナス」と説明して全労働者に一律支給した1,000ペソ(約1,800円)を差し引き
・結果として、15ペソ(約27円)、あるいは、82ペソ(約148円)という支給額を提示された労働者もおり、多くの労働者は不服を申し立て、受け取りを拒否
2.労働者の差別と不当解雇
・1月24日に「13ヶ月給与」を支給されたのは、イサベラ州近隣の出身者のみ
・これについて、セブ市出身の労働者が日揮に直接不服を申し立てたところ、BNR社からセブ市に戻るよう通告。事実上の解雇(約20名)
空欄のある権利放棄証書・空欄のある辞表 |
3.労働者に不利な内容の書面への署名の強要
・「クリスマス・ボーナス」ととして支給された1,000ペソを受け取る以前に、日付や支給額の欄が空欄のままの「権利放棄証書」に署名するよう企業が強要
・6ヶ月毎の雇用契約更新時、雇用契約書等に日付が空欄のままの「辞表」を添付。労働者が内容に気付かぬまま、署名してしまうケース
・上記を含む契約書類等はすべて英語で書かれており、労働者が内容を十分に理解できていないケース
4.残業手当や休日出勤の賃増し分の未支払い
・残業手当が支払われていないケース
・週7日間働いても、休日出勤の賃増し分が支払われていないケース
5.法定最低賃金以下の給与/福利厚生の未提供の可能性
・イサベラ州を含むフィリピン第2地方の非農業労働者最低賃金は日当237~245ペソ(約427~441円)
・BNR社の労働者は、溶接工や石工といった職種でも、日当220ペソ(約396円)のケース
(これは、フィリピン第2地方の農業労働者の最低賃金233ペソ(約420円)よりも低い給与)
・給与から社会保障システム(SSS)等の控除がなされていない(日当220ペソ分を満額受け取っている)ケースが見られ、SSS等への加入をしていない労働者がいることが懸念される(給与明細が各労働者に渡されていないケースがあり、控除の有無の確認も困難)
6.不確実な賃金増しの約束
・労働者によれば、日揮、および、下請企業は、2011年10月1日以降、一日当たり90ペソ(約162円)の賃金増しを行なうと約束
・労働者によれば、日揮、および、下請企業は、賃金増し分は、完工まで働いた労働者に対し、完工予定の2012年2月末以降、一括で支給すると約束
・しかし、上記に関しては口頭のみで、書面の約束ではないため、支給されるか不透明
・上記2の不当解雇された労働者に対しても、2011年10月1日以降の労働日数の賃金増し分が支給されるか不透明
1月26日現在、労働者はストライキを停止し、仕事に戻ったものの、BNR社は依然として、「13ヶ月給与」から1,000ペソを差し引き、支給前に空欄のある書類への署名を労働者に迫っています。
セブ市からイサベラ州まで出稼ぎに来て7ヶ月で不当解雇された労働者が、惨状を説明してくれました。
「日当220ペソでは、110ペソが自分の食事に消え、セブ市に残してきた家族への仕送りは1日当たり110ペソ。それで子どもをどうやって養っていけるというのでしょう。実際、自分たちの食事代は建設現場近くの食堂へのツケが多く、今も借金が残っているような状態です。 |
同バイオエタノール事業では、これまで、バイオエタノールの原料となるサトウキビの栽培をめぐり、農地の収奪(米・トウモロコシからサトウキビへの作物転換の強要等)や農業労働者の労働条件(低賃金、賃金未支払い、不十分な福利厚生等)の問題が指摘されてきました。
日本企業のパートナーである現地企業は、現地住民の訴えから、こうした問題を把握しているものの、真摯な対応を取っているとは言えず、問題は解決されないまま現在に至っています。
完工間近の工場 |
工場の建設工事はこの2月にほぼ終わり、5月には商業運転の開始が見込まれていますが、このままでは、地元で様々な問題が拡大してしまう一方です。
従来のサトウキビ栽培をめぐる問題だけでなく、今回の建設労働者の問題も含め、日本企業は、現地企業任せの対応ではなく、自らのCSR方針、また、国連グローバル・コンパクト10原則等に則ったより積極的な対応を求められています。
現地の労働組織、農業労働組合イサベラ州支部(UMAMI)のプレス・ステートメントはこちら
>UMAMI プレス・ステートメント(和訳)
(本調査は、平成22年度の地球環境基金助成金を受けて実施されています。)