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フィリピン・コーラルベイ/タガニート・ニッケル製錬事業
フィリピン・パラワン州の河川で降雨後に顕著な六価クロム水質汚染
―日本企業が関わるニッケル開発事業周辺地での2019年雨季の水質分析結果(2019年10月)
FoE Japanが専門家の協力の下、2009年から続けているフィリピンでのニッケル開発現場周辺の水質調査も、11年目に入りました。パラワン州リオツバで長年、日本企業が深く関わり操業しているニッケル鉱山・製錬所(詳細は下表1を参照)の周辺の河川水では、依然として日本の環境基準(0.05 mg/L)を超える六価クロムが検出され続けています。特に、今回の雨季の調査では、降雨後に鉱山地域から流れてくる河川において、六価クロムの値が急激に上がることが再確認されました。
写真1(左):リオツバ入江から見えるリオツバ・ニッケル鉱山開発地域と製錬所の煙突(2017年9月、FoE Japan撮影)
写真2(右):リオツバ・ニッケル開発地域から流れてくるトグポン川(2016年10月、FoE Japan撮影)
六価クロムは発がん性、肝臓障害、皮膚疾患等も指摘される毒性の高い重金属です。地元住民の健康被害等を未然に防止する観点からも、早急かつ有効な汚染防止対策の確立と実践が事業者に求められます。地元政府機関の甘い監視や規制の下、『ダブル・スタンダード』で公害輸出をすることがないよう、日本の関連企業・関連政府機関は、日本国内と同等の基準を遵守するための積極的な対応をとるべきです。
地図:パラワン州・北スリガオ州の日系ニッケル鉱山開発・製錬事業
表1:パラワン州・北スリガオ州における日系ニッケル鉱山開発・製錬事業
場所 | パラワン州バタラサ町 | 北スリガオ州クラベル町 | |
鉱山開発 | 企業 | リオツバ・ニッケル鉱山社 (ニッケル・アジア社(NAC*)60%、大平洋金属36%、双日4%) |
タガニート鉱山社 (NAC*65%、大平洋金属33.5%、双日1.5%) |
操業開始 | 1975年 | 1987年 | |
採掘許可 | 990 ha (2023年まで) | 4,682 ha(2034年まで) | |
製錬 | 事業者 | コーラルベイ・ニッケル社 (住友金属鉱山54%、三井物産18%、双日18%、RTNMC 10%) |
タガニートHPALニッケル社(住友金属鉱山75%、NAC*10%、三井物産15.0%) |
総事業費 | 第1製錬所 約1.8億米ドル 第2製錬所 約3.07億米ドル |
約15.9億米ドル | |
公的機関 | 第1製錬所 国際協力銀行(JBIC)融資 (7,031万5千米ドル) 日本貿易保険(NEXI)付保 第2製錬所 NEXI付保 |
JBIC融資 (約7.5億米ドル及び約1.08億米ドル) NEXI付保 |
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操業開始 | 第1製錬所 2005年4月 第2製錬所2009年6月 (年間生産能力計2万4千トン) |
2013年9月 (年間生産能力3万トン) |
●パラワン州バタラサ町リオツバでの水質調査(2019年10月)
この11年間の水質分析の結果から、リオツバ地域のニッケル鉱山・製錬所周辺のトグポン川で、日本の「公共用水域の水質汚濁に係る環境基準」のうち、「人の健康の保護に関する環境基準」(以下、環境基準)(0.05 mg/L以下)を超える六価クロム負荷が、雨季にほぼ常時起きていることが明らかとなっています(下表2を参照)。
表2:トグポン川における六価クロム分析結果 11年間の推移 (Unit: mg/L)
(注:太字で記載した数値は、日本の「公共用水域の水質汚濁に係る環境基準」のうち、「人の健康の保護に関する環境基準」である「0.05 mg/L以下」を超えたもの。)
(**) 六価クロム簡易検知管パックテストによる現場での分析結果
(***) 降雨出水時サンプル。六価クロムは上清、全クロムは濾液。
FoE Japanが行なった2019年雨季(10月)の水質調査結果では、前回の乾季に比べてトグポン川の河川流水量は多く、降雨前でも六価クロム簡易検知管の値は基準ぎりぎりの0.05mg/Lを示しました。そして、調査二日目の午前の水サンプル採取後、低地でも大雨が1時間ほどあり、その後に採取したトグポン川の水サンプルでは、六価クロム簡易検知管で大幅な基準超過の値が見られました。日本でのラボ調査でも、降雨前の水サンプルは0.0471 mg/Lであったものが、降雨後は0.172 mg/Lの六価クロムを検出。基準値の約4倍でした。トグポン川で降雨前後に撮影した下記写真3および4を比較しても明らかなように、降雨後は、鉱山側(西側)から流れてくる水の色が明らかに赤茶けていました。
写真3(左):トグポン川の降雨前(午前)の様子(2019年10月、FoE Japan撮影)
写真4(右):トグポン川の降雨後(同日の夕方)の様子(2019年10月、FoE Japan撮影)
こうした結果を受け、専門家は、以下の点を指摘しています(詳細は水質分析結果の資料を参照)。
・雨季でも降水が少なければトグポン川は外観的には清澄であったが、六価クロムは基準値ギリギリである(No.1とNo.2)。全地点ND(検出なし)だった前回(2019年3月:乾季)のようなことはない。そして、強めの雨が鉱山域で1時間ほど降っただけで、川は赤褐色に濁り、六価クロムが基準の約4倍となった。
・今回の結果は、改めて六価クロムの発生原因は鉱山エリアおよびプロジェクトエリアにおいて雨水によって溶出されたものであり、これまで取られてきた対策が効果を示していないことが再確認された。
・住友金属鉱山社によって取り組まれているシート掛けや活性炭処理、沈砂池の掘削などの汚染対策は生ぬるく、効果を発揮していない ものと考えざるを得ない。早急に抜本的な対策を講じるべきである。昨年と本年の会合でも提案したように、六価クロムを三価クロムに還元する処理を現場で行うことが望まれる。
・住友金属鉱山は、その原料サプライチェーンであるリオツバ鉱山社との共同の責任において、抜本的な汚染対策を早急に講じるべきである。また、抜本的対策策定のために、前々から我々が提案している合同現地調査を行うべきである。
・トグポン川の水質改善にとどまらず、すでに重大な汚染を被って重大な破壊を受けているリオツバ入江のマングローブ生態系の回復のための対策が講じられるべきである。
・2019年10月29日の交渉時に、住友金属鉱山はマングローブの植栽を開始していると述べたが、より抜本的な環境回復策が望まれる。例えば、トグポン川河口に大量に堆積した重 金属含有量の高い汚泥の撤去など、リオツバ入江の漁業が甦ることを目指して対策を立ててほしい。
写真5(左):六価クロム簡易検知管検査の結果(左は地点番号3(反応なし)、中左が地点番号1(0.05 mg/L)、中右が地点番号2(0.05 mg/L)、右が地点番号6(0.2 mg/L))(2019年10月、FoE Japan撮影)
写真6(右):オカヤン村の先住民族移転地(GKサイト)道路沿いに事業者が設置した水供給プログラム。2018年6月頃から水が届かなくなったままの状態。(2019年10月、FoE Japan撮影)
>2019年10月の水質調査に関する専門家による詳細な分析結果とコメントはこちらでご覧になれます。
・大沼淳一氏(金城学院大学元非常勤講師、中部大学元非常勤講師、元愛知県環境調査センター主任研究員)によるパラワン・ニッケル開発・製錬事業周辺地域における水質分析結果
(現地調査期間:2019年10月1日〜2日)
・パラワン州水サンプル採取場所地図(2019年10月)