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フィリピン・コーラルベイ/タガニート・ニッケル製錬事業
フィリピン・パラワン州および北スリガオ州でつづく六価クロムによる水質汚染
―日本企業が関わるニッケル開発事業周辺地での2018年雨季、2019年乾季の水質分析結果(2019年7月)
リオツバ入江から見えるリオツバ・ニッケル鉱山開発地域と製錬所の煙突(2017年9月)
リオツバ・ニッケル開発地域から流れてくるトグポン川(2016年10月)
タガニート村から見えるタガニート・ニッケル鉱山開発地域と製錬所の煙突(2018年5月)
タガニート鉱山開発地域から流れてくるタガニート川河口での浚渫作業(2018年5月) (撮影:FoE Japan) |
FoE Japanが専門家の協力の下、2009年から続けているフィリピンでのニッケル開発現場周辺の水質調査も、11年目に入りました。パラワン州リオツバ、および、北スリガオ州タガニートで、長年、日本企業が深く関わり操業しているニッケル鉱山・製錬所(詳細は下表1を参照)の周辺の河川水や湧水では、依然として日本の環境基準(0.05 mg/L以下)を超える六価クロムが検出され続けています。特に、タガニート鉱山周辺である住民グループが日々の生活に利用している湧水では、この11年間で最大の基準超えとなる数値(約0.6 mg/L)が出るなど、鉱山開発地域における水源の深刻な六価クロム汚染が改めて確認されました。
六価クロムは発がん性、肝臓障害、皮膚疾患等も指摘される毒性の高い重金属です。地元住民の健康被害等を未然に防止する観点からも、早急かつ有効な汚染防止対策の確立と実践が事業者に求められます。地元政府機関の甘い監視や規制の下、『ダブル・スタンダード』で公害輸出をすることがないよう、日本の関連企業・関連政府機関は、日本国内と同等の基準を遵守するための積極的な対応をとるべきです。
【地図】
パラワン州・北スリガオ州の日系ニッケル鉱山開発・製錬事業
表1:
パラワン州・北スリガオ州における日系ニッケル鉱山開発・製錬事業
* NACに対する住友金属鉱山の出資比率は26%
●パラワン州バタラサ町リオツバでの水質調査(2018年10月、2019年3月)
この11年間の水質分析の結果から、リオツバ地域のニッケル鉱山・製錬所周辺のトグポン川で、日本の「公共用水域の水質汚濁に係る環境基準」のうち、「人の健康の保護に関する環境基準」(以下、環境基準)(0.05 mg/L以下)を超える六価クロム負荷が、雨季にほぼ常時起きていることが明らかとなっています(下表2を参照)。
表2:トグポン川における六価クロム分析結果 11年間の推移 (Unit: mg/L)
(注:太字で記載した数値は、日本の「公共用水域の水質汚濁に係る環境基準」のうち、「人の健康の保護に関する環境基準」である「0.05 mg/L以下」を超えたもの。)
(*) 高周波誘導結合プラズマ質量分析計(ICP-MS)による日本での分析結果。
(**) 六価クロム簡易検知管パックテストによる現場での分析結果
(***) 降雨出水時サンプル。六価クロムは上清、全クロムは濾液。
FoE Japanが行なった2018年雨季(10月)の水質調査結果では、以前の雨季に比べて河川流水量が少なかったことを反映し、六価クロムの基準超過は大きくはありませんでしたが、乾期と比べれば濃度は高く、トグポン川合流点では基準を超過(0.055 mg/L)しました。また、2019年乾季(3月)の水質調査結果では、これまでの乾季と同様、トグポン川での環境基準を超える六価クロム負荷は見られませんでした。
こうした結果を受け、専門家は、以下の点を指摘しています(詳細は水質分析結果の資料を参照)。
・改めて六価クロムの発生原因が鉱山エリアおよびプロジェクトエリアにおいて雨水によって溶出されたものであることが確認された。
・事業者らによって(2012年頃から)取り組まれている鉱山置き場のシート掛けや活性炭処理、沈砂池の掘削などの汚染対策は生ぬるく、効果を発揮していないものと考えざるを得ない。
・住友金属鉱山は、その原料サプライチェーンであるリオツバ鉱山社との共同の責任において、抜本的な汚染対策を早急に講じるべきである。また、抜本的対策策定のために、NGOとの合同現地調査を行うべきである。
・トグポン川の水質改善にとどまらず、すでに重大な汚染を被って重大な破壊を受けているリオツバ入江のマングローブ生態系の回復のための対策が講じられるべきである。
写真左:トグポン川
写真右:六価クロム簡易検知管検査の結果(左は反応なしの検体、真ん中が地点番号1(0.05 mg/L)、右が地点番号5(0.75 mg/L))(2018年10月14日、FoE Japan撮影)
写真左:トグポン川(緑の藻が発生)
写真右:六価クロム簡易検知管検査の結果(反応なし)(2019年3月22日、FoE Japan撮影)
>2018年10月の水質調査に関する専門家による詳細な分析結果とコメントはこちらでご覧になれます。
・大沼淳一氏(金城学院大学元非常勤講師、中部大学元非常勤講師、元愛知県環境調査センター主任研究員)によるパラワン・ニッケル開発・製錬事業周辺地域における水質分析結果
(現地調査期間:2018年10月14日)
・パラワン州水サンプル採取場所地図(2018年10月)
>2019年3月の水質調査に関する専門家による詳細な分析結果とコメントはこちらでご覧になれます。
・大沼淳一氏(金城学院大学元非常勤講師、中部大学元非常勤講師、元愛知県環境調査センター主任研究員)によるパラワン・ニッケル開発・製錬事業周辺地域における水質分析結果
(現地調査期間:2019年3月22、23日)
・パラワン州水サンプル採取場所地図(2019年3月)
●北スリガオ州クラベル町タガニートでの水質調査(2018年12月)
前回2018年5月の調査と同様、同地域のハヤンガボン川とタガニート川の2箇所の河川水では、引き続き、日本の環境基準(0.05 mg/L以下)を超える六価クロムが検出されました(0.075~0.15 mg/L)。
また、タガニート鉱山開発の影響を受ける先住民族ママヌワが移転地での生活に利用している近くの湧水からも、引き続き、日本の環境基準、および、水道法基準(0.05mg/L)を超過する六価クロムが検出された他、日本の水道法の管理目標値(0.01mg/L)を超過するニッケルが検出されました。特に、ママヌワの移転地近くに暮らす住民グループが主に利用しているという湧水では、約0.6 mg/Lの六価クロムが検出されました。
こうした結果を受け、専門家は、以下の点を指摘しています(詳細は水質分析結果の資料を参照)。
・ミンダナオ島北スリガオ州タガニート地区全域にわたって、深刻な六価クロム汚染が河川水や住民が生活用水や飲用に使用している浅い地下水に広がっていることが再び判明した。
・パラワン島リオツバ地区において同様の汚染が判明していることと併せて考えると、熱帯域のラテライト層の露天掘りが普遍的に六価クロム汚染を発生させているのではないかという仮説が成り立つ。
・いずれにしても、パラワン島及びミンダナオ島におけるラテライト鉱山およびニッケル現地製錬プラントにおいて、一刻もはやく対策を立てて実行しなければならない。住民の健康被害及び内湾や沿岸域の生態系破壊が懸念されるからである。もし対策が立たなければ、プロジェクトの中止も考慮されるべきである。
タガニートでは、日本企業だけでなく、中国などもニッケル鉱山開発を行なっており、同地域の一帯で広く深刻な六価クロムによる水源汚染が起きている実態が明らかになったと言えます。日本企業は他企業や地元政府・自治体とも連携しながら、六価クロムの生成メカニズムの解明と環境負荷実態の解明、また、汚染防止対策の確立と実践など、早急な対応をとることが求められています。
写真左:タガニート川と漁業者
写真右:No. 5 先住民族ママンワの移転地入口から入り、左手に下ったところ(移転地外)で汲める湧水(カグジャナオ村)。(2018年12月13日、FoE Japan撮影)
写真左:No. 6 同移転地入口から道路沿いに下ったところで汲める水
写真右:六価クロム簡易検知管検査の結果。左からSDMP飲料水供給プログラム(反応なし)、No.6 (0.04 mg/L)、No. 4(0.08 mg/L)、および、No. 5(1.0 mg/L。2検体)(2018年12月13日、FoE Japan撮影)
>2018年12月の水質調査に関する専門家による詳細な分析結果とコメントはこちらでご覧になれます。
・大沼淳一氏(金城学院大学元非常勤講師、中部大学元非常勤講師、元愛知県環境調査センター主任研究員)による北スリガオ州タガニート・ニッケル開発・製錬事業周辺地域における水質分析結果
(現地調査期間:2018年12月12日~13日)
・北スリガオ州水サンプル採取場所地図(2018年12月)
>今回のタガニートでの水質調査については、こちらのブログでも詳細を報告しています。