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フィリピン・ニッケル鉱山開発・製錬事業
フィリピン・パラワン州ニッケル鉱山拡張問題:現地NGOが日本企業に森林生態系の破壊を懸念するレターを提出
複数の日本企業が深く関わっているリオツバニッケル鉱山社(RTNMC)。ニッケル・アジア・コーポレーション(NAC)、大平洋金属、双日がそれぞれ60%、36%、4%の株を保有しており、筆頭株主のNAC社の株25%を保有しているのは住友金属鉱山です。RTNMCはフィリピンの一大観光地である自然豊かな島、パラワン島の南部リオツバ村で40年以上にわたりニッケルの露天掘りを続け、主に日本向けに鉱石を輸出してきました。
RTNMCは、10年以上前から、既存の鉱山開発地域に近いブランジャオ山でニッケル鉱山開発の拡張も計画しています。一方、現地コミュニティやNGOは生活や環境への悪影響を懸念。RTNMCによるブランジャオ山でのニッケル鉱山拡張計画に対し、許可を出さないよう地元政府機関に求めるなど、強い反対の声をあげてきました。その結果、拡張計画は遅々として進まない状況が続いてきました。
しかし、現在、既存の開発地域でのニッケル埋蔵量があと数年で寿命に達することを見越し、RTNMCは拡張計画を進めようと再び動きを活発化させてきており、現地コミュニティーの間でも不安が広がっています。
こうした現地の状況を受け、2019年4月、現地NGO環境法律支援センター(Environmental Legal Assiatance Center, INC: ELAC)はブランジャオ山のニッケル鉱山拡張計画に関し、住友金属鉱山に対するレターを提出。生物多様性の豊かな森林生態系が失われることに対する強い懸念を表明するとともに、同鉱山拡張計画がフィリピンの複数の法規定に違反することを指摘しました。そして、ブランジャオ山の鉱山拡張による環境社会影響に真摯に配慮するよう住友金属鉱山に求めました。
環境保護指定地域であるブランジャオ山での鉱山拡張は、スンビリン川の流域に暮らす先住民族や農民に甚大な影響を及ぼすことが懸念されます。FoE Japanが既存のリオツバニッケル鉱山周辺の河川等で行ってきた水質調査の結果にも現れているように、ニッケル鉱石を露天掘りすることで、ヘドロや毒性の高い重金属である六価クロムによって河川が汚染されてしまう可能性も否めません。
住友金属鉱山はNACを通じてRTNMCに関与している他、RTNMCから低品位鉱石の提供を受けて現地で製錬所を操業しています。すなわち、このブランジャオ山での鉱山拡張が進まなければ、同製錬所での事業もいずれは継続できないことになります。住友金属鉱山は、生物多様性や現地コミュニティーの持続可能な生活を破壊しないよう、NACを通じた、また、サプライチェーンを通じた適切な対応・判断を検討し、実行に移していくべきです。
以下、現地NGOのレター(和訳)です。
レターのPDF版はこちら
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2019年4月13日
住友金属鉱山株式会社
代表取締役 社長 野崎 明 様
拝啓
私たちはパラワン州の生物多様性保護、コミュニティー・エンパワーメント、環境ガバナンスに関わっている市民社会グループのネットワークのメンバーです。私たちが10年以上も取り組んできた主要な問題の一つとして、鉱山活動が自然林、河川流域、主要な生物多様性地域、先祖伝来の領域を脅かす影響があげられます。
ニッケル・アジア・コーポレーション(NAC)社を通じて住友金属鉱山株式会社が株を保有している(※訳者注:原文では「住友金属鉱山株式会社の子会社である」)リオツバニッケル鉱山社(RTNMC)が、ブランジャオ山脈(ブジャンジャオ山、もしくは、MBMR)で鉱山事業の拡張を提案していることに対し、現在、私たちネットワークとパートナーであるコミュニティーは懸念を抱いています。なぜなら、それが、特にブランジャオ山の自然林や生物多様性の破壊につながるためです。
ブランジャオ山は河川流域であり、重要な森の生態系です。この山脈が寄与する生態系の機能価値は、2011年1月に持続可能な開発のためのパラワン評議会(PCSD)職員とパラワン州立大学が実施した総経済価値(TEV)評価と費用便益分析(CBA)において確認されています(同研究のコピーを資料として添付します)。TEVとCBAの研究は、鉱山と比較して、ブランジャオ山の森林生態系の重要な価値を示しました。
複数のある政府機関や役人が提案された鉱山拡張を支持している一方で、私たちは複数の書簡を通じて、過去10年間、このような政治的決定に対する疑問を投げかけ続けてきました。 PCSDがそのような鉱山拡張に対する許可証を発行する決定を下すことは、パラワンの戦略的環境計画法(SEP法。フィリピン共和国法7611号)に違反するため、法的瑕疵があることになります。SEP法第9条では、あらゆる種の自然林が最大限保護される地域、つまり、コア・ゾーンとみなされることが明記されています。すなわち、
「ここに含まれるあらゆる種の自然林とは、原生林、未墾の森林と手付かずの森林の境界部、標高1,000m超の地域、急斜面をもつ山頂やその他の地域、絶滅の危機に晒されている生息地及び絶滅危惧種や希少種の生息地です。」
加えて、ブランジャオ山での鉱山開発は、既存の鉱山政策である2012年フィリピン大統領令第79号(フィリピン鉱山セクターにおける規定及び実施の改正。2012年7月6日発行)、同附属文書である指令書(2012年7月6日発行)、および、2012年(環境天然資源)省令第7号(※訳者注:2012年フィリピン大統領令79号施行細則)に違反しています。特に、2012年7月の指令書は、環境天然資源省(DENR)とPCSDに「パラワンにおける鉱山申請手続きを停止する」よう指示しています。
私たちは同様に、パラワンの自然林に関連するSEP法の規定、また、パラワンが観光開発地域に含まれており、重要な地域と島の生態系をなしている点から、同州が鉱山禁止地域(大統領令第79号第1条)(※訳者注:原文では「4条」となっているが、同問題に関するELACによる他の書簡等の内容から誤記であることを確認)の対象になることを強調します。大統領令第79号第1条(※訳者注:左に同じ)では、同大統領令第79号の施行とともに、鉱山申請禁止地域に位置する未決定の鉱山申請がすべて却下されたとみなされることが規定されています。
私たちは、貴社がブランジャオ山の鉱山拡張による環境社会影響について真摯な配慮をしてくださると信じています。
私たちはこの重要な問題について、貴社の担当者との対話にいつでも応じることができます。どうぞ宜しくお願い致します。
Environmental Legal Assistance Center (ELAC) 事務局長
Grizelda Mayo-Anda
Institute for the Development of Educational and Ecological Alternatives, Inc.(IDEAS)事務局長
Roger Garinga
本件に関する問い合わせ先:
国際環境NGO FoE Japan
〒173-0037 東京都板橋区小茂根1-21-9
Tel:03-6909-5983 Fax:03-6909-5986