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フィリピン・コーラルベイ・ニッケル製錬事業
フィリピン・パラワン州のニッケル開発事業周辺地における水質調査
――2016年4月(乾季)の分析結果
FoE Japanは2009年から、専門家の協力を得て、フィリピンのパラワン州バタラサ町で継続的な水質調査を行なっています。
この7年間の水質分析の結果では、日本企業が関わる同地域のニッケル製錬所周辺のトグポン川で、日本の「公共用水域の水質汚濁に係る環境基準」のうち、「人の健康の保護に関する環境基準」(0.05 mg/L以下)を超える六価クロム負荷が、雨季にほぼ常時起きていることが明らかとなっています。発がん性、肝臓障害、皮膚疾患等が指摘される毒性の高い六価クロムは、フィリピン国内でも排水基準として、新設の場合に0.1mg/L、また、既設の場合に0.2mg/Lという規定があり、人の健康保護のための水質基準として、0.05~0.1mg/Lの数値が定められている重金属です。
FoE Japanは、地元住民の健康被害等が起きないよう、未然防止の観点から、日本の関連企業・政府機関に対し、六価クロムの生成メカニズムの解明と環境負荷実態の解明、また、汚染防止対策の確立など、早急な対応をとるよう求めてきました。しかし、7年間にわたり同河川の汚染状況がなかなか改善されない実態を踏まえ、今年4月には、汚染源の究明を目的としたNGOとの共同水質調査、および、効果的な汚染対策の実施を求める要請書を日本企業に提出しました。
●2016年乾季の水質分析結果
2016年4月の現地調査では、乾季のため、トグポン川の流量も少なく、全ての地点で六価クロムは日本の環境基準(0.05 mg/L以下)を下回りました。
トグポン川(左) 地点番号1:トグポン川、六価クロム簡易検知管検査による結果(反応なし)(右) (いずれも、2016年4月 FoE Japan撮影) |
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昨年雨季との比較 トグポン川(左) 同地点 六価クロム簡易検知管検査による結果(0.1 mg/L)(右) (いずれも、2015年9月 FoE Japan撮影) |
今回の結果をうけ、専門家は、「改めて六価クロムの発生原因は鉱山エリアおよびプロジェクトエリアにおいて雨水によって溶出されたものであることが確認された。前報でも述べたように、企業によって(2012年から)取り組まれているシート掛けや沈砂池の掘削などの汚染対策は生ぬるく、効果を発揮していないものと考えざるを得ない。早急に抜本的な対策を講じるべきである。前々々報で推察した『主に雨水によってプロジェクトエリアおよび鉱山エリアから六価クロムが溶出、流出そして移送され、それらがトグポン川へと集水されてリオツバ入江へと注ぎ込んでいる』という汚染の全体構造に関する仮説はほぼ間違いないものと考えられる。」とコメントしています。
※2016年4月の水質調査に関する専門家による詳細な分析結果とコメントはこちらでご覧になれます。
・大沼淳一氏(金城学院大学元非常勤講師、中部大学元非常勤講師、元愛知県環境調査センター主任研究員)によるニッケル開発・製錬事業周辺地における水質分析結果(現地調査期間:パラワン=2016年4月15日~16日)
>https://www.FoEJapan.org/aid/jbic02/rt/press/pdf/2016Apr_rt.pdf
・添付資料「パラワン州水サンプル採取場所地図(2016年4月)」
>https://www.FoEJapan.org/aid/jbic02/rt/press/pdf/2016Apr_rt_map.pdf
日本の関連企業・政府機関は、地元政府機関の甘い監視や規制の下、『ダブル・スタンダード』に甘んじて公害輸出をするべきではありません。効果的な汚染防止対策を講じるためにも、まずは六価クロムの生成メカニズムを解明するなど、日本側の早急かつ真摯な対応が望まれます。