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フィリピン・コーラルベイ・ニッケル製錬事業
フィリピン・パラワン州のニッケル開発事業周辺地における水質調査
―2014年10月(雨季)の分析結果
FoE Japanは2009年から、専門家の協力を得て、フィリピンのパラワン州バタラサ町で継続的な水質調査を行なっています。
これまでの水質分析の結果から、すでに同地域のトグポン川では、日本の「公共用水域の水質汚濁に係る環境基準」のうち、「人の健康の保護に関する環境基準」(0.05 mg/L以下)を超える六価クロム負荷が、雨季にほぼ常時起きていることが明らかになっています。発がん性、肝臓障害、皮膚疾患等が指摘される毒性の高い六価クロムは、フィリピン国内でも排水基準として、新設の場合に0.1mg/L、また、既設の場合に0.2mg/Lという規定があり、人の健康保護のための水質基準として、0.05~0.1mg/Lの数値が定められている重金属です。
トグポン川が、リオツバ鉱山開発鉱区を経由して流下する河川であり、また、コーラルベイ・ニッケル社(CBNC)製錬所の排水を処理する第1テーリングダムからのオーバーフロー水も流入する河川であったことから(日本企業によれば、現在利用している第2テーリングダムからのオーバーフロー水はないとのこと)、FoE Japanは、日系企業が関わるニッケル開発事業周辺地域において、地元住民の健康被害等が起きないよう、未然防止の観点から、日本の関連企業・政府機関に対し、六価クロムの生成メカニズムの解明と環境負荷実態の解明、また、汚染防止対策の確立など、早急な対応をとるよう求めてきました。
●2015年雨季の水質分析結果
2014年10月の雨季の現地調査では、トグポン川(0.2 mg/L)、および、トグポン川河口(0.05~0.1mg/L)など、すべてのサンプルで六価クロムに関する日本の環境基準(0.05 mg/L以下)を超える数値が検出されました。
トグポン川(左) 地点番号1:トグポン川、六価クロム簡易検知管検査によるの結果(0.2mg/L)(右) (いずれも、2014年10月 FoE Japan撮影) |
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トグポン川とリオツバ入江の合流地点より上流の地点 赤茶けた色が目立つ(左) 地点番号2 トグポン川河口上端、6価クロム簡易検知管検査の結果(0.1mg/L)(右) (いずれも、2014年10月 FoE Japan撮影) |
この点について専門家は、「主に雨水によって、製錬事業地および鉱山エリアからの六価クロム溶出や流出および移送のメカニズムが加速され、それらがトグポン川へと集水されてリオツバ入江へと注ぎ込んでいるという汚染の全体構造に関する仮説を裏付けている。」「過去のデータからも、トグポン川では毎回六価クロムが検出されており、流出は常時起きていると考えられる。とりわけ、雨季に今回の結果のような状態が継続しており、その負荷量は莫大。早急な対策が望まれる。」とコメントしています。
※2014年10月の水質調査に関する専門家による詳細な分析結果とコメントはこちらでご覧になれます。
・大沼淳一氏(金城学院大学講師、元愛知県環境調査センター主任研究員)によるニッケル開発・製錬事業周辺地における水質分析結果(現地調査期間:パラワン=2014年10月5日~7日)
>https://www.FoEJapan.org/aid/jbic02/rt/press/pdf/2014Oct_rt.pdf
・添付資料「パラワン州水サンプル採取場所地図(2014年10月)」
>https://www.FoEJapan.org/aid/jbic02/rt/press/pdf/2014Oct_rt_map.pdf
●過去6年のデータ推移
2009年からこれまで6年間の水質分析の結果、トグポン川定点では、日本の「公共用水域の水質汚濁に係る環境基準」のうち、「人の健康の保護に関する環境基準」(0.05 mg/L以下)を超える六価クロムが、雨季に常時検出されています。
表:トグポン川における六価クロム分析結果 6年間の推移 (Unit: mg/L)
(*) 高周波誘導結合プラズマ質量分析計(ICP-MS)による日本での分析結果。
(**) 六価クロム簡易検知管パックテストによる現場での分析結果
(***) 降雨出水時サンプル。六価クロムは上清、全クロムは濾液。
製錬所の事業者によれば、パートナーである鉱山会社とも協力し、2012年から鉱石置き場のキャンパスシート掛け、また、沈殿池からトグポン川の排水出口に活性炭を設置するなど、六価クロムの流出を軽減する対策をとっているとのことです。
しかし、現場では、2012年以降も日本の環境基準を超える六価クロムが検出されていることから、事業者側の軽減策の効果について、今後も注視していく必要があります。また、事業者、および、日本の関係者は前向きな姿勢を崩すことなく、NGOとの共同調査の受け入れ等、より積極的な対応をとっていくことが期待されます。