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フィリピン・コーラルベイ・ニッケル製錬事業
フィリピン・パラワン州のニッケル開発事業周辺地における水質調査
―2013年度の水質分析結果(2013年4月(乾季)および9月(雨季))と
過去5年のデータ推移(2014年4月)
トグポン川(2013年9月 FoE Japan撮影) |
FoE Japanは2009年から、専門家の協力を得て、フィリピンのパラワン州バタラサ町で継続的な水質調査を行なっています。
これまでの水質分析の結果から、すでに同地域のトグポン川では、日本の「公共用水域の水質汚濁に係る環境基準」のうち、「人の健康の保護に関する環境基準」
(0.05 mg/L以下)を超える六価クロム負荷が、雨季にほぼ常時起きていることが明らかになっています。発がん性、肝臓障害、皮膚疾患等が指摘される毒性の高い
六価クロムは、フィリピン国内でも排水基準として、新設の場合に0.1mg/L、また、既設の場合に0.2mg/Lという規定があり、人の健康保護のための水質基準として、
0.05~0.1mg/Lの数値が定められている重金属です。
トグポン川が、リオツバ鉱山開発鉱区を経由して流下する河川であり、また、コーラルベイ・ニッケル社(CBNC)製錬所の排水を処理するテーリングダムからの
オーバーフロー水も流入する河川であることから、これまでFoE Japanは、日系企業が関わるニッケル開発事業周辺地域において、地元住民の健康被害等が起きないよう、
未然防止の観点からも、日本の関連企業・政府機関に対し、六価クロムの生成メカニズムの解明と環境負荷実態の解明、また、汚染防止対策の確立など、早急な対応を
とるよう求めてきました。
●2013年乾季の水質分析結果
2013年4月の乾季の現地調査では、トグポン川の六価クロムは日本の環境基準を超えませんでした。この点について専門家は、「乾季のために、リオツバ鉱山およびCBNC製錬
サイトでの雨水による溶出メカニズムがあまり働かなかったためであろう。」とコメントしています。
一方、鉱山サイトのストックヤードに積み上げられた鉱石を含む土砂の山に近接した水たまりでは、クロム含有量が6.81mg/L、ニッケルが96.9mg/L、マンガンが60.8mg/L、
コバルトが8.28mg/Lと、これまで検出されたことがなかった高濃度の重金属が確認されました。
トルポン川六価クロム簡易検知管検査による結果(2013年4月 FoE Japan撮影) (左) 水溜り②(後方にストックヤード)(2013年4月 FoE Japan撮影)(右) |
2013年4月の水質調査に関する専門家による詳細な分析結果とコメントはこちらでご覧になれます。
・大沼淳一氏(金城学院大学講師、元愛知県環境調査センター主任研究員)による
ニッケル開発・製錬事業周辺地における水質分析結果分析結果
(現地調査期間:パラワン=2013年4月13日~15日)
リンク https://www.FoEJapan.org/aid/jbic02/rt/press/2013Apr_rt.pdf
・添付資料「パラワン州水サンプル採取場所地図(2013年4月)」
リンク https://www.FoEJapan.org/aid/jbic02/rt/press/pdf/2013Apr_rt_map.pdf
●2013年雨季の水質分析結果
2013年9月の雨季の現地調査では、六価クロム簡易検知管パックテストによる分析の結果、トグポン川で再び、日本の環境基準を超える六価クロム0.15mg/Lが確認されました。
また、鉱山サイトのストックヤードに積み上げられた鉱石を含む土砂の山に隣接した水たまりでは、濁っており簡易分析値が正確ではなかったものの、日本に持ち帰ってから
高周波誘導結合プラズマ質量分析計(ICP-MS)により測定したクロム含有量から、環境基準の約10倍の六価クロムが含有されていることが示されました。
トルポン川六価クロム簡易検知管検査による結果(2013年9月 FoE Japan撮影) (左) 水溜り①(ストックヤードに隣接)(2013年9月 FoE Japan撮影)(右) |
2013年9月の水質調査に関する専門家による詳細な分析結果とコメントはこちらでご覧になれます。
・大沼淳一氏(金城学院大学講師、元愛知県環境調査センター主任研究員)による
ニッケル開発・製錬事業周辺地における水質分析結果分析結果
(現地調査期間:パラワン=2013年9月20日~23日)
リンク https://www.FoEJapan.org/aid/jbic02/rt/press/2013Sep.pdf
・添付資料「パラワン州水サンプル採取場所地図(2013年9月)」
リンク https://www.FoEJapan.org/aid/jbic02/rt/press/pdf/2013Sep_map.pdf
●過去5年のデータ推移
2009年からこれまで5年間の水質分析の結果、トグポン川定点では、日本の「公共用水域の水質汚濁に係る環境基準」のうち、「人の健康の保護に関する環境基準」
(0.05 mg/L以下)を超える六価クロムが、雨季に常時検出されてきました。
表:トグポン川における六価クロム分析結果 5年間の推移 (Unit: mg/L)
(*) 高周波誘導結合プラズマ質量分析計(ICP-MS)による日本での分析結果。
(**) 六価クロム簡易検知管パックテストによる現場での分析結果
(***) 降雨出水時サンプル。六価クロムは上清、全クロムは濾液。
製錬所の事業者によれば、パートナーである鉱山会社とも協力し、2012年から鉱石置き場のキャンパスシート掛け、また、沈殿池からトグポン川の排水出口に活性炭を
設置するなど、六価クロムの流出を軽減する対策をとっているとのことです。
しかし、現場では、2012年以降も日本の環境基準を超える六価クロムが検出されていることから、事業者側の軽減策の効果について、今後も注視していく必要があります。
また、事業者、および、日本の関係者は前向きな姿勢を崩すことなく、NGOとの共同調査の受け入れ等、より積極的な対応をとっていくことが期待されます。