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フィリピン・コーラルベイ・ニッケル製錬事業
フィリピン・パラワン州の河川で引き続き顕著な水質汚染
――2011年10月の水質分析結果
2012年1月
FoE Japanは専門家の協力を得て、フィリピンのパラワン州バタラサ町で継続的な水質調査を行なっています。
2009年1月、FoE Japanがニッケル製錬所周辺の5つの村で計133世帯に聞き取り調査を行なったところ、133世帯中85%が咳(74.4%)や頭痛(40.6%)の慢性化、あるいは、皮膚病(37.6%)の発症といった健康上の変化を訴えました。そこで、その原因特定の試みの一つとして水質調査等を開始。これまで、2009年7月、10月、2010年3月、8月、2011年10月と計5回の現地調査と水質分析を行なってきました。
直近に行なった2011年10月の水質分析の結果を含め、これまでの経緯と分析結果を報告します。
ニッケル開発現場の周辺地域における水質汚濁の可能性と水質分析の結果
トグポン川本流で水サンプル 採取 (地点番号11) トグポン川感潮域上端 (地点番号2) ツバ川入江トグポン川流入点 (地点番号4) |
これまでの調査で、継続的に環境基準を超える数値が出ているのが、トグポン川の6価クロムです。
発がん性、肝臓障害、皮膚疾患等が指摘される毒性の高い6価クロムは、日本の「公共用水域の水質汚濁に係る環境基準」のうち、「人の健康の保護に関する環境基準」(0.05 mg/L以下)が規定されています。
フィリピン国内では、新設の場合に0.1mg/L、また、既設の場合に0.2mg/Lという排水基準が定められています。
下表は、ニッケル開発現場の敷地内を通って流下するトグポン川の河川水に関し、2009年から2011年まで計5回の専門家による水質分析の結果をまとめたものですが、顕著な汚染(6価クロム0.1~0.3mg/L)が観測されています。
この数値は、日本の公共用水域の環境基準0.05mg/Lの2~6倍に当たります。
また、トグポン川感潮域上端でも、6価クロムが約0.1~0.15mg/L検出されています。トグポン川の流量はかなりの水量であり、ツバ川入江への6価クロム負荷もかなりのものと考えられることから、この原因を解明し、何らかの対策をとることが望まれます。
6価クロム簡易検知管検査 反応無の検知管(左) トグポン川流入点(中左)、感潮域中間(中)、 感潮域上端(中右)、トグポン川本流(右)の結果 |
*2011年10月の詳細な分析結果はこちらからご覧いただけます。
>大沼淳一氏(金城学院大学講師、元愛知県環境調査センター主任研究員)による水質分析結果
>水サンプル採取場所地図(2011年10月)
リオツバ入江の底に堆積した赤褐色のヘドロと生態系への影響の可能性
地点3 トグポン川感潮域中間部(左)と 地点4 ツバ川入江トグポン川流入点の底質 |
2011年10月の現地調査では、採泥器を利用し、岸辺と流入河川感潮域にマングローブ林が発達したリオツバ入江から外海までの底質を採取しました。
底質は未分析ですが、写真に見られるよう、トグポン川から流入したと思われる赤褐色のヘドロがリオツバ入江に堆積している実態が明らかになりました。
「ニッケル製錬所の操業以来、魚類・貝類等が減少した」との漁民の証言もあることから、生態系への影響の可能性も懸念されます。
汚染源の特定に向けて
専門家によれば、6価クロムの起源として考えられるのは、
・製錬プラントそのもの
・プラントで発生する汚泥を処理する沈殿池の上清
・敷地内に散らばるラテライト鉱
・露天掘り地域のラテライト鉱から雨水で溶出されたもの
等ですが、6価クロムの汚染源を特定するためには、事業者側の協力を得て、
・高品位・低品位の鉱石
・露天掘り地域やプラント敷地内水たまりの水
・Tailing damからのオーバーフロー水(上清)、もしくは、(海域への排出)パイプラインの途中の水
などのサンプリングと分析が不可欠です。あるいは、事業者側が自ら調査し、その結果を情報公開することが求められます。
これまで、FoE Japanが行なってきた調査では、依然として、製錬所敷地内等でのサンプリングと分析は実施できていません。また、トグポン川の6価クロムについては、事業者側からの明確な回答もまだないのが現状です。
トグポン川の水は飲料用に利用されているわけではありませんが、この河川水が流れ込む海域にはコミュニティーがあり、漁業等を営む住民もいます。汚染原因が現段階では特定されていないとはいえ、製錬所の近隣でこのような汚染が起きているのは事実です。
FoE Japanは、今後も引き続き、同地域での水質調査を行なう予定ですが、今後の地元住民の健康被害の未然防止と安全のためにも、汚染源の解明や情報公開など、日本関係者の積極的な対応と協力が期待されます。
(本調査は、高木仁三郎市民科学基金からの助成を受けています。)