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フィリピン・コーラルベイ・ニッケル製錬事業
フィリピン・パラワン州の河川底に堆積したヘドロと生態系への影響の可能性
――2011年10月の底質分析結果(2012年4月)
FoE Japan は 2009 年からこれまで、専門家の協力を得て、フィリピンのパラワン州バタラサ町で継続的な水質調査を行なってきました。
2011 年 10 月の現地調査では、採泥器(右写真)を利用し、リオツバ入江一帯の底にたまった堆積物を採取しました。
その底質を専門家に分析していただいた結果をご紹介します。
リオツバ入江の底に堆積した赤褐色のヘドロ
トグポン川を含む幾つかの河川が流れ込み、外海に流れ出していくリオツバ川の入江には、豊かなマングローブ林が広がっています。今回は、そのリオツバ川への流入河川の感潮域から外海までの底質を採取しました。
まず、写真からも見てとれるように、赤褐色のヘドロ状の物質が大量に堆積している実態が明らかになりました。そして、その赤褐色のヘドロは、トグポン川からリオツバ入江に流れ込こんできていることが強く示唆されています。
マングローブの生い茂るリオツバ入江と 奥に望まれるニッケル鉱山サイト、ニッケル製錬所 (2011年10月 FoE Japan 撮影) 底質の採取地点(地図)と赤褐色のヘドロ( 2011年10月 FoE Japan 撮影) |
金属分析の結果も、クロム Cr 、マンガン Mn 、鉄 Fe 、コバルト Co 、ニッケル Ni が、トグポン川感潮域できわめて高い数値を示し、その少し下流域等でそれに次ぐ数値となっていることから、トグポン川からの流入物がリオツバ入江に負荷を与えていることを裏付ける結果となっています。
2011 年 10 月の底質調査に関する専門家(大沼淳一氏/金城学院大学講師、元愛知県環境調査センター主任研究員)による分析結果はこちらでご覧になれます。
>リオツバ入江の底質分析結果(調査日 2011 年 10 月 21 日)
生態系への影響の可能性
今回の底質調査で明らかになったトグポン川を起源とするクロムやニッケルなどの重金属を高濃度で含有する赤褐色のヘドロ状の物質について、専門家は「リオツバ入江に広がるマングローブ帯、および開水域に広く沈殿し、この水域の生態系に大きな影響を及ぼしている可能性がある」とのコメントを出しています。
地元の漁民からは、
「ニッケル製錬所の操業以来、リオツバ入江一帯の魚類・貝類等が減少した。」
「ニッケル製錬所の操業以来、リオツバ川に流れ込むトグポン川の色が茶色になり、雨が降ると赤褐色になるようになった。」
との証言もあることから、 赤褐色のヘドロがリオツバ入江にもたらしている環境負荷の実態を早急に調査し、リオツバ入江の生態系の破壊が認められる場合には、適切な防止対策をとることが事業関係者に求められています。
リオツバ入江に広がる漁村( 2012年2月 FoE Japan 撮影) |
トグポン川で引き続き観測される高濃度の 6 価クロム
リオツバ入江に流れ込むトグポン川では、これまで、継続的に環境基準を超える 6 価クロムが観測されてきましたが、 FoE Japan が 2012 年 2 月に行なった現地調査でも 、 6 価クロム簡易検知管パックテストによる分析の結果、トグポン川、および、トグポン川感潮域で、 顕著な汚染( 6 価クロム 0.05 ~ 0.3mg/L )が確認されました。
発がん性、肝臓障害、皮膚疾患等が指摘される毒性の高い 6 価クロムは、日本の 「公共用水域の水質汚濁に係る環境基準」のうち、「 人の健康の保護に関する環境基準」( 0.05 mg/L 以下)が規定されています。また、フィリピン国内でも排水基準として、新 設の場合に 0.1mg/L 、 また、既設の場合に 0.2mg/L という規定があり、 人の健康保護のための水質基準として、 0.05 ~ 0.1mg/L の数値が定められています。
トグポン川感潮域 (2012/2 FoE Japan 撮影) |
トグポン川の数値は、日本の公共用水域の環境基準 0.05mg/Lの 2 ~ 6 倍に当たります。また、トグポン川感潮域でも、環境基準を超える 6価クロムの検出が見られます。
トグポン川の流量はかなりの水量であり、リオツバ川入江への 6価クロム負荷もかなりのものと考えられることから、この原因を解明し、適切な対策をとることが望まれます。
製錬所の事業者によれば、パートナーである鉱山会社とも協力し、今年の雨季に入る前に、 6 価クロムの流出を軽減する対策をとっていく予定とのことです。
今後は、事業者、および、日本の関係者がこうした前向きな姿勢を崩すことなく、 NGO との共同調査の受け入れ等、より積極的な対応をとっていくこと、そして、 いまだに特定されていない 6 価クロムの汚染原因、また、生成メカニズムが解明され、汚染防止対策が確立されていくことが期待されます。
これまでの調査をまとめた表と地図はこちらでご覧になれます。
>トグポン川の 6 価クロム分析結果[PDF]
(本調査は、高木仁三郎市民科学基金からの助成を受けています。)