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インドネシア・インドラマユ石炭火力発電事業
国会審議:違法な変電設備工事ーJICAが借款供与した基本設計は適正か?
国際的なダイベストメントの流れにも逆行ー日本の石炭火力支援方針の見直しを
国際協力機構(JICA)が援助を続けるインドラマユ石炭火力・拡張計画(100万kW)。発電所などの本体工事に先立ち、2018年2月から工事が始まった変電設備のため、すでに10ヘクタールの農地が土砂で埋められ、そこに建設用の資材が搬入・保管されています。
しかし、その工事は違法に進められていました。2016年に作成された送変電設備の環境アセスメント(EIA)補遺版では、変電設備の事業用地はスクラ郡に限られています。にもかかわらず、インドネシア国有電力会社(PLN)は隣のパトロール郡の農地で土地造成を行なっていたのです。
5月9日、参議院「外交防衛委員会」で、井上哲士 議員(日本共産党)が同問題を取り上げました。
写真左:西ジャワ州環境局がWALHI西ジャワへの返答レター(18年7月31日付)で、EIA補遺版の修正が承認されるまで工事は中止すべきと認めた後も、PLNは変電設備の土地造成を継続(2018年9月)
写真右:PLNは土地造成が終わった変電設備の事業地に建設資材を搬入済み(2019年3月)
井上議員は、2018年7月に西ジャワ州環境局が違法性を認め、「EIA補遺版が修正されるまで、いかなる作業も停止」するよう求めているにもかかわらず、工事作業が進められたことを指摘。また、JICAのエンジニアリング・サービス借款の資金で作られた基本設計(東電設計などがPLNから受注)が適正だったのか質しました。
JICA田中理事は、「変電所の基本設計の成果物は、エンジニアリング・サービス業務の発注者である実施機関のPLNに提出されており、JICAでは入手はしていない。」と答弁。つまり、JICAは基本設計の中身が適正であるかを確認していないことがわかりました。
井上議員はさらに、日本の資金による基本設計が、違法と言われている事業にどのように関わっているかを検証する必要性を指摘。「外務省、JICAの責任で、この変電設備の基本設計の報告書」を入手し、開示するよう求めました。
これに対し、河野外務大臣からは、「指摘が事実であれば問題だと思うので、外務省としてはJICA任せにせず、外務省で一度きちんと確認をして、対応が必要な場合には対応したい。」との答弁がなされました。今後、外務省による事実確認と情報開示が求められます。
この他、同審議のなかで、井上議員は、国際的に石炭関連事業からの投資撤退が急速に広がっているなか、石炭火力発電に対する支援を続ける日本への批判が集まっていることを指摘。抜本的な方針の見直しを政府に求めました。
これに対し、河野外務大臣からは、「国際社会の流れとして、石炭火力からのダイベストメントが発展しており、また日本の姿勢についてNGOから批判があることも認識。気候変動が人類共通の喫緊の課題であり、今や目標は2度から1.5度になっていることを考えれば、我が国の方針も不断に見直しが行なわれなければならないと考えるので、政府として国際的な流れを踏まえ、必要に応じて、しっかりと見直しをしていきたい。」という以前より前向きな姿勢が示されました。
地元の農民が強く反対をし、違法性も指摘され、また、気候変動の観点からも問題視される事業――日本政府・JICAは、インドラマユ石炭火力・拡張計画への支援を早急に見直すべきです。
以下、同問題に関する2019年5月9日の参議院・外交防衛委員会での質疑内容全文です。
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参議院・外交防衛委員会(2019年5月9日)
>インターネット審議中継の映像はこちら [発言部分 01:36:40~]
https://www.webtv.sangiin.go.jp/webtv/index.php
●井上哲士 議員(日本共産党):
昨日から京都で国連の気候変動に関する政府間パネル、IPCCの第49回総会が始まった。昨年10月の第48回総会では1.5度特別報告書が発表されて、気候変動の深刻な影響を回避するためには2度未満では不十分だと、1.5度未満を目指す必要が強調されている。そこで、今日はその焦点となっている火力圧電所問題に関連してお聞きする。
この間、欧米を中心に、石炭関連企業、事業からの投資撤退、ダイベストメントが広がっている。国内でも先月、三菱UFJファイナンシャル・グループが、石炭火力発電事業への新規融資を7月から原則中止ちう方針を固めている。さらに、昨年末の蘇我、今年1月の袖ヶ浦、4月の西沖の山(FoE Japan注:大阪ガスが撤退を発表。一方、J-Powerと宇部興産は計画変更をして新設計画の継続を表明)と、石炭火力発電の建設計画の中止も続いている。
そうしたなか、環境省が3月28日に、石炭火力発電建設の環境アセスメントの厳格化を発表している。その具体的内容はどういうものなのか。また、当時、原田環境大臣がこの厳格化に至った経緯というか、自分の思いを会見でも語っておられたが、それはどういうものなのか、ご紹介いただきたい。
●環境省 森下 哲 地球環境局長
環境アセスメントの更なる厳格化の具体的な内容だが、国内で計画中の石炭火力発電案件を対象として、環境影響評価の手続きの過程で地球温暖化対策の観点からの対策が十分に示されない案件については環境大臣意見において是認できない、すなわち中止を求めることとするというものである。
本件の公表に至った国際情勢に関する経緯としては、公表の際に、先程お話しがあったが、原田環境大臣からも申し上げたとおり、本年3月26日のIEA、国際エネルギー機関の発表によると、昨年のエネルギーからの二酸化炭素排出量は対前年比で1.7%増の約330億トンであり、その3分の1はアジアを始めとする石炭火力発電からの排出であると報告されている。
また、原田環境大臣は、昨年のCOP24、国連気候変動枠組条約第24回締約国会議に参加をし、世界がパリ協定の目標に向かって石炭火力の抑制と再生可能エネルギーの拡大へと大きく舵を切っているということに強い刺激を受けたとのことである。
原田環境大臣のこのような国際情勢認識が背景となり、本件の公表に至ったと考えている。
●井上議員:
このアセス厳格化が実効性あるものになるかについては注視をしていきたいと思うが、今もあったように、CO2の排出量の増加の3分の1がアジアを始めとする石炭火電で、世界が大きくその抑制に舵を切っていると、こういう認識が背景にあるということである。
ところが、一方で、アジアでの石炭火力発電へのODAによる支援が続いている。この間、インドネシアのインドラマユ火力発電所建設問題への支援問題を取り上げてきたが、世界の流れに逆行するとともに、私は深刻な人権侵害が起きているということを指摘してきた。同地域には既に火力発電が稼働していて、健康・環境被害が発生をしている。
農地と住む場所を奪われる上に、新たな火電の建設に対する反対運動への弾圧も行なわれてきたと。先月来日した現地住民の皆さんと懇談をする機会があったが、既に海や空気を汚され、さらに土地を奪われて、どうやって生きていけばいいのかと、土地は人権なんだと、こういう切実な声も聞いた。
JICAはこの事業に対してエンジニアリング・サービス借款の貸付をODAで行なっているが、今年になって新たに行なった貸付額および合計金額はどうなっているか。
●JICA田中理事(東南アジア・大洋州部、東・中央アジア部):
インドラマユ石炭火力発電事業に係るエンジニアリング・サービス業務に対して、2019年に約1,600万円の貸付実行を行なっている。これまでの貸付実行の累計総額は約6億1,500万円である。
●井上議員:
これらの資金が果たして適正に使われているのかどうかということだが、インドラマユ石炭火力発電所の計画には変電設備の建設が含まれていると承知している。この変電設備の基本設計業務は東京電力の子会社、東電設計が行なっている。この業務にもこのエンジニアリング・サービス借款の資金が使われたということでよいのか。その場合、その額は幾らになるか。
●JICA田中理事:
これまでの貸付実行の対象に、今ご指摘のあった変電所の基本設計作成業務は含まれている。エンジニアリング・サービス業務の対象となる成果物は多岐にわたるので、契約金額は基本設計等の成果物毎に計算されていないため、変電所の基本設計に使われた額のみ算出することは困難である。
●井上議員:
困難と言われたが、私は、やっぱり公金であるから、きちっとどういうふうに使われているということを把握していないということで済ますわけにはいかないと思う。
では、その資金で行なわれたこの変電設備の基本設計の内容については、JICAは承知しているのか。報告書は持っているのか。
●JICA田中理事:
変電所の基本設計の成果物は、エンジニアリング・サービス業務の発注者である実施機関のインドネシア国有電力公社に提出されており、JICAでは入手はしていない。
●井上議員:
基本設計の内容、報告書、成果物については把握していないと。しかし、融資をしておきながら中身もつかんでいないということで私はいいのかということを指摘したい。
先月12日に来日した現地住民とJICAが面談した際に、JICAは、変電設備の基本設計業務は17年には完了したと、こういう説明をしているわけで、完了した業務を説明できないというのは私はやはりおかしいと思う。
なぜ、この変電設備のことを問題にするかというと、大きな問題点が指摘されている。
インドネシア国有電力会社は、昨年2月以降、このインドラマユ石炭火力発電所に係る変電設備の土地造成を開始した。小農民が強く抗議しているにもかかわらず、10ヘクタールの肥沃な農地が造成をされてしまった。その際、警官や軍関係者も動員して重機が持ち込まれて、問答無用で強行された。
重大なことは、これが違法な工事だと住民が指摘をしている。環境アセスメントを補った補遺版で、変電所の事業地として認められた地域とは別の地域でこの工事の作業が進められていると。西ジャワ州の環境局も、この住民団体の指摘を受けて、昨年7月時点において文書で環境アセスメントのこの補遺版が修正されるまでは、いかなる作業も停止する必要があるということをPLNに求めている。にもかかわらず、それ以降も建設資材の搬入が断続的に強行されてきたと。住民からは、PLNは法規定を真摯に遵守しようとしていないじゃないかと、こういう厳しい批判がされている。
日本のこういう資金に関わる工事が現地で違法だと指摘されていても問題ないと、こういう立場なのか。
●JICA田中理事:
環境アセスメントに不備があるというご指摘については、本邦及び現地NGOとの直接の対話の機会や書面を通じて、私どもとしても承知している。インドネシア政府には、この指摘に対する懸念を伝えており、インドネシア側で必要な改訂手続きを取っていると承知している。
それから、JICAの環境社会配慮ガイドラインにおいては、プロジェクト本体に対する円借款に係る環境レビューにおいて、環境社会配慮上の要件を満たしていることを確認することを可としていると私どもとしては考えている。
●井上議員:
懸念は伝えたと言っているが、現実には引き続き違法の状態が続いているというのが住民の皆さんの訴えなわけであり、つまり、そういう違法と言われているものに日本の資金によるその設計がどういうふうに関わっているのかということを私はちゃんと見る必要があると思う。そうでなければ、適正に行なわれたと言いようがないと思う。
今仰った環境社会配慮から言っても、検証の必要があるわけであり、外務省、JICAの責任で、この変電設備の基本設計の内容報告書、成果物は見ていないということであるが、これを是非入手をして、開示をしていただきたいと思うが、いかがか。
●河野 太郎 外務大臣:
委員のご指摘のことが事実であるとすれば、これは問題だと思うので、外務省としては、JICA任せにせず、外務省で一度きちんとこの案件、確認をして、しっかりと対応が必要な場合には対応させていただきたいと思う。
●井上議員:
是非求めたいと思う。
住民の皆さんは外務省とも懇談をされており、大変貴重な機会だということは、その場でも外務省は言われているわけであり、是非求めたいと思う。
この間、私が指摘の際に、このES借款についてはこの本体工事と連続する密接不可分な事業である一方、ガイドラインに基づく判断は本借款の際に行なうのだと、こういう答弁があった。
先日の質問主意書で、ガイドラインの見直しについての答弁書で、このガイドラインの見直しについて、施行後10年以内のレビュー結果に基づいて包括的な検討を行なって、その結果、必要に応じて改訂を行なうと定めているということを踏まえてJICAが改訂作業を行なうというのが政府側の答弁書であった。
JICAとしては、具体的にこのガイドラインの見直しについてどう進めていくのか。そして、ES借款段階での適用ということも検討対象になるのか、お答えいただきたい。
●JICA本清理事(総務部、情報システム室(CIO)、広報室、人事部、企画部):
現在、JICAでは、環境社会配慮ガイドラインのレビュー調査を実施中である。6月以降にレビューの報告書案を取りまとめて、その後、ガイドラインの規定に沿って、この調査結果に基づき、改訂に関わる包括的な検討を行ない、必要に応じて改訂を行なう予定である。
議員ご指摘のレビュー調査においては、ES借款事業の環境レビュー実施の要否を論点案として含めているので、包括的検討においてきちんと丁寧に検討していきたいと、このように思っている。
●井上議員:
ぜひ、NGOなども求めているので、きちっと検討していただき、実現をしていただきたいと思う。
今後、本体工事への融資の要請が予測されるわけだが、今述べてきたように、このインドラマユへの支援は、環境社会ガイドラインに反するものと指摘がされている。さらに、国際的な流れにも反するのではないかと。
昨年3月にODA特別委員会で質問した際に、河野大臣は、一定の条件の国に限り、要請があった場合は、2015年のOECDルールの則って、超々臨界以上の発電設備について支援を検討すると、こういう答弁であった。
ただ、このOECDルールは、当時、抑制に一歩踏み出したとは言われたが、不十分だという指摘もずっとされてきた。
しかも、さらに、冒頭で述べたように、国際的にはその後状況が大きく変化しており、欧米を中心に石炭関連企業事業からの投資撤退が急速に広がっている。2018年末でいうと、千の投資家が撤退をして、その運用資産の合計が900兆円だと、こういうふうに報道もされていた。
そういうなかで、こういう石炭火力発電に対して支援を続ける日本の支援に昨年のCOP24でもNGOなどからいろんな批判がされたということになっているわけであり、先程環境大臣が、この世界が石炭火力抑制に大きく舵を切っているという認識を述べたということも紹介をされたが、そういうときであるから、私は、昨年ああいう答弁があったが、更に私は抜本的にこの火電への支援というのを見直すべきだと考えるが、大臣、いかがか。
●河野外務大臣:
国際社会の流れとして、石炭火力からのダイベストメントというのが発展をしており、また日本の姿勢についてNGOからご批判をいただいているということも認識をしている。
気候変動というのが、これはもう人類共通の喫緊の課題であり、今や目標は2度から1.5度になっているということを考えれば、我が国の方針も不断に見直しが行なわれなければならないというふうに考えているので、政府として、こうした国際的な流れを踏まえ、必要に応じて、しっかりと見直しをしていきたいと思う。
●井上議員:
是非、答弁どおりしっかりとして見直しを強く求め、質問を終わる。
(以上)
(※)インドネシア・西ジャワ州インドラマユ石炭火力発電事業
2,000 MW(1,000 MW ×2基)の超々臨界圧石炭火力発電所を建設(275.4 haを収用)し、ジャワ-バリ系統管内への電力供給を目的とする。1号機(1,000 MW)に国際協力機構(JICA)が円借款を検討予定(インドネシア政府の正式要請待ち)。すでにJICAは2009年度に協力準備調査を実施し、基本設計等のためにエンジニアリング・サービス(E/S)借款契約(17億2,700 万円)を2013年3月に締結。E/S借款は「気候変動対策円借款」供与条件が適用されたが、2014年の第20回気候変動枠組条約締約国会議(COP20)では、同石炭火力事業を気候資金に含んだ日本政府の姿勢が問題視された。
詳細はこちら → https://foejapan.org/aid/jbic02/indramayu/