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インドネシア・チレボン石炭火力発電事業
現地グループが丸紅にダイベストメントを求める書簡提出
9月18日、インドネシア・西ジャワ州で日本の官民が推進するチレボン石炭火力発電事業(★)の影響を受けてきた現地住民グループ・ラペル(Rapel Cirebon)、および、その支援団体である現地NGO WALHI(インドネシア環境フォーラム)西ジャワが、丸紅に書簡を提出。最近報じられているチレボン石炭火力・拡張計画に係る贈収賄事件の他、違法性、大気汚染基準の違反、生計手段への影響など、同事業の問題が山積したままであることを伝え、丸紅に早急な投資撤退を求めました。
(写真左)2019年6月 操業を続ける1号機前で、丸紅の事業撤退を求める横断幕を掲げる住民ら(写真提供:WALHI西ジャワ)
(写真右)2019年3月 船を持たず沿岸で漁業を営む小規模漁民は、2号機の港湾設備の工事によって、すでにその影響を受け始めている。(写真:FoE Japan)
同日は、丸紅がちょうど1年前に脱石炭方針を発表した日にあたり、気候危機の観点から、脱石炭方針の強化を求める国際レター(15団体賛同)も丸紅に対して提出されました。脱石炭方針にもかかわらず、インドネシアのチレボン石炭火力・拡張計画(1,000MW)やベトナムのギソン2(1,200MW)、南アフリカのタバメシ(630MW)では、依然、その方針が実行に移されているとは言い難い状況が続いています。同国際レターでは、パリ協定との整合性をとるため、丸紅がこうした建設中の案件も早急に中止する必要があるとしています。
チレボン石炭火力・拡張計画には、丸紅とJERA(東京電力と中部電力の合弁会社)が出資し、国際協力銀行(JBIC。日本政府が全株式保有)と日本の3メガバンクが融資を行なっていますが、数々の未解決の問題、また、現地住民の懸念や意見を真摯に受け止め、日本の官民は投資撤退や貸付停止など、早急にしかるべき対応をとるべきです。
詳細は以下の書簡本文をご覧下さい。
>現地グループの書簡(和訳)PDFはこちら
>現地グループの書簡(英訳)PDFはこちら
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(原文はインドネシア語。以下は、WALHI西ジャワによる英訳のFoE Japanによる和訳)
2019年9月18日
丸紅株式会社
代表取締役社長 柿木真澄 様
インドネシア西ジャワ州チレボン石炭火力発電事業(1号機及び2号機)
継続的な反対と早急なダイベストメントに係る丸紅への強い要請について
私たちチレボンの住民グループRapel(ラペル:環境保護民衆)と(現地NGOである)WALHI(インドネシア環境フォーラム)西ジャワは、CEP及びCEPRの最大の出資者である貴社に対し、私たちがチレボン石炭火力発電事業に依然として強固に反対している理由、また、稼働中のチレボン1号機(チレボン1。660 MW)と現在建設中のチレボン2号機(チレボン2。1000 MW)に対する貴社の投資を早急に止める、もしくは、撤退するよう私たちが貴社に要求している理由をお伝えしたく、本書簡をお送りしています。もう一通の2019年9月18日付の貴社に対する国際レターで詳しく論じられている地球規模の気候危機に加え、貴社がチレボン石炭火力発電事業からのダイベストメントの動きを早急にとらなくてはならない主な理由は、以下のとおりです。
まず、チレボン2に係る贈収賄の件が、最近、裁判での過程や書類、また幾つかのメディアにおいて報告されています。私たちの見解では、この状況は、後段で詳述するとおり、地域コミュニティーの継続的かつ強固な反対や重大な法的瑕疵など、同事業において幾つかの致命的な欠陥があるなか、いかに通常のプロセスのみを通じて同事業を推進することが不可能かを暗に示していると言えます。また、前チレボン県知事の別件での贈収賄事件に係る2019年5月22日付の判決文書が、CEPRのHeru DewantoやTeguh、そしてCEPRとのEPC契約企業の一つである現代建設のHerry Jungといった人物の氏名まで言及するなど、チレボン2に関連する贈収賄の件の詳細を記していることも注目すべきです。CEPRやそのEPC契約企業の特定人物の氏名が裁判文書で詳細に綴られているという事実自体、軽視されるべきではありません。私たちは、CEPR自身、また、丸紅を含むCEPRへの出資者が、現在のところ、同贈収賄のケースに関して依然十分な説明責任を果たしていないと考えています。CEPRとその出資者は、仮に同事業において贈収賄のケースが一切ないのであれば、チレボン2に関連したあらゆる資金フローについて透明性のある形で公表できるはずです。
第二に、チレボン2に関連した訴訟プロセスは依然結着していません。私たちが2回目の行政訴訟でチレボン2に対する新・環境許認可の取消しを求めた訴えについては、最高裁が2018年11月29日に棄却しましたが、私たちはすでに弁護団と協力して2019年8月6日に再審請求の手続きを行ないました。加えて、CEPRがチレボン2に対する新・環境許認可の法的根拠であると主張している『国家空間計画に関する2008年政令第26号の改正に関する2017年政令第13号』についても、2019年5日10日以降、司法審査のプロセスが継続中です。したがって、同事業は依然として法的リスクを伴っている、つまり、チレボン2の実行可能性は依然危うい状態にあるということです。
私たちが起こしてきたチレボン2に係る一連の訴訟ケースは、いかに上述の『国家空間計画に関する2017年政令第13号』(2017年4月12日発行)、あるいは、『チレボン県空間計画(2018~2038年)』(2018年6月7日発行)なしで同事業を推進することが不可能かを露呈してもいます。CEPRが2016年にチレボン2のアクセス道路や土地造成作業を開始した後に、2017年政令第13号やチレボン県空間計画(2018~2038年)が制定されたということに留意しなくてはなりません。バンドン行政裁判所が2017年4月19日付の判決で、チレボン2に対する元々の環境許認可(2016年5月11日発行)の無効を宣言した後、CEPRは事業地での作業を一切停止する必要がありました。しかしながら、CEPRは、新しく制定された2017年政令第13号の恩恵を受け、新・環境許認可(2017年7月17日発行)の下、作業を狡猾に推進してきています。仮に、私たちが申し立てている司法審査請求の結果として、2017年政令第13号の無効が言い渡されたとしても、CEPRは新しいチレボン県空間計画(2018~2038年)を引き合いに出し、建設作業を依然として続けることでしょう。CEPRが既存の法規定を無視するようなやり方でのみ利益をあげ続けていることを貴社は認識すべきです。
第三に、以下の表で示したとおり、チレボン1もチレボン2もともに、大気汚染防止のためのBAT(利用可能な最良の技術)を設置できておらず、また、インドネシア国内の大気汚染基準も遵守できていません。環境森林省の下、新たな大臣規則(火力発電所の排出基準に関する2019年環境大臣規則第15号。同新基準は依然弱いとして、議論を呼んでいる。)が2019年4月23日に施行したため、チレボン1はSOxの基準(550 mg/Nm3)及びNOxの基準(550 mg/Nm3)を満たしていません。同様に、チレボン2は現在の計画通り(SOx =625 mg/Nm3)に操業するなら、SOxの基準を満たさないことになります。加えて、中部電力(CEPRの出資者であるJERAの50%株保有者)は明らかに、チレボン1及び2で利用されている技術よりも相当良い技術を28年も前から同社所有の碧南石炭火力発電所で利用してきています。結果として、チレボン1は地域コミュニティーの生計手段や健康に著しい悪影響を及ぼし続けており、私たちはこうした生計手段や健康への影響がチレボン2によって悪化しうると考えています。CEPRがダブル・スタンダードを利用して、日本で使われている技術と同等のものを(チレボンで)使わず、またインドネシア国内の基準さえ満たしていない一方で、CEPRが「クリーン・エネルギー」や自身の「クリーン・コール技術」を非常に誇りに思っていることは皮肉なことです。
最後になりましたが、大事なことの一つとして私たちが繰り返し述べたいことは、チレボン1の事業後、地域コミュニティーは生計手段への甚大な影響を被ってきたということです。CEP/CEPRは、CSRとして、漁網や養殖魚といった生計支援プログラムを提供してきています。しかしながら、私たちが知る限り、そうしたプログラムは地域コミュニティーの生活を以前のレベルに回復することはできておらず、また、地域コミュニティーの持続可能な生活を保障する解決策にもなりえません。チレボン1よりも規模の大きいチレボン2によって、現在続いているこうした地域コミュニティーの生計手段への悪影響が悪化するのではないかという自然な恐れから、私たちはチレボン2に対する懸念や強い反対の意を表明し続けてきました。2019年6月21日の海上でのアクションもその一例です。同アクションの後、警察が地域コミュニティーの数人に対し、彼らの漁船を押収する可能性に言及するなど、脅迫をしてきました。しかし、こうした人権侵害のある地元の困難な状況のなかでも、私たちは、現世代の、そして次世代の地域コミュニティーのため、いかなる平和的手段を用いてでも、チレボン2を中止させるための闘いを決してあきらめません。なぜなら、私たちが上述したような懸念は、特にチレボン2の港湾設備の建設で小規模漁民が悪影響を受けるなど、すでに現実のものとなってきているからです。
したがって、私たちは、貴社が贈収賄や法的リスク等を含む、上述の地域コミュニティーの懸念や議論を呼んでいる問題を考慮し、稼働中のチレボン1と現在建設中のチレボン2に対する貴社の投資を早急に止める、もしくは、撤退するよう、改めて強く要請します。
貴社として、本件に関し、多大なご配慮と賢明なご検討を行なっていただけますよう、宜しくお願い申し上げます。
(ラペル・チレボンのリーダー2名、および、WALHI西ジャワ代表による署名)
Cc: 財務大臣 麻生 太郎 様
経済産業大臣 菅原 一秀 様
株式会社 国際協力銀行 代表取締役総裁 前田 匡史 様
株式会社 日本貿易保険 代表取締役社長 黒田 篤郎 様
韓国輸出入銀行 副頭取 Seung-Joong Kang 様
株式会社三菱UFJフィナンシャル・グループ 取締役 代表執行役社長 グループCEO 三毛 兼承 様
株式会社三井住友フィナンシャルグループ 執行役社長 太田 純 様
株式会社みずほフィナンシャルグループ 執行役社長 坂井 辰史 様
Mr. Ralph Hamers, CEO and chairman Executive Board, ING Group
株式会社JERA 代表取締役会長 佐野 敏弘 様
株式会社JERA 代表取締役社長 小野田 聡 様
(★)インドネシア・西ジャワ州チレボン石炭火力発電事業
1号機は、丸紅(32.5%)、韓国中部電力(27.5%)、Samtan(20%)、Indika Energy(20%)の出資するチレボン・エレクトリック・パワー社(CEP)がインドネシア国有電力会社(PLN)との間で30 年にわたる電力売買契約(PPA)を締結。総事業費は約8.5億米ドルで、融資総額5.95億ドルのうちJBICが2.14億ドルを融資した。2012年に商業運転が開始されている。
2号機は、丸紅(35%)、JERA(10%)、Samtan(20%)、Komipo(10%)、IMECO(18.75%)、Indika Energy(6.25%)の出資するチレボン・エナジー・プラサラナ社(CEPR)がPLNとの間で25年にわたるPPAを締結。総事業費は約22億米ドルにのぼり、うち8割程度について、JBIC、韓国輸銀、日本・オランダの民間銀行団(三菱UFJ、三井住友、みずほ、ING)が融資を供与する(JBICはうち7.31億ドル)。現場では、アクセス道路の整備や土地造成作業などが終わり、本格的な工事が始まっている。2022年に運転開始見込み。
詳細はこちら → https://www.foejapan.org/aid/jbic02/cirebon/background.html
●関連WEBサイト
「JBICの石炭発電融資にNo!」プログラムについて → https://sekitan.jp/jbic/