政策提言 個別事業モニタリング 気候変動と開発 資料室 参加しよう
インドネシア・チレボン石炭火力発電事業
つづく法廷闘争 ― 原告団が再審請求。JBICは貸付停止を!
贈収賄疑惑のあがっているインドネシア西ジャワ州・チレボン石炭火力発電事業・拡張計画(★)。日本の官民が推進している同事業ですが、違法性を争う行政訴訟も依然として続いています。
8月6日、現地住民・NGOが同拡張計画の環境許認可(2017年発行)の取消しを求め、最高裁の判決(2018年11月)に対する再審請求を行ないました。
(写真左)2019年6月 操業を続ける1号機前で、丸紅の事業撤退を求める横断幕を掲げる住民ら(写真提供:WALHI西ジャワ)
(写真右)2019年7月 1号機の隣接地で進められている2号機の建設工事。住民の生活の糧である多くの塩田が奪われた他、港湾設備の工事による小規模漁民への影響もすでに出ている。(写真:FoE Japan)
同事業では稼働中の1号機により、小規模な漁業や塩づくりなど住民の生計手段にすでに甚大な被害がもたらされてきました。住民はさらなる被害を食い止めようと、2016年12月、拡張計画(2号機)に反対する行政訴訟を地元で開始。その結果、2017年4月の判決で2号機の環境許認可(2016年発行)は取消され、拡張計画が違法であることが一度確定しました。
しかし、丸紅やJERA(東京電力と中部電力の合弁会社)が出資する事業者は、2017年7月に住民・NGOが知らぬ間に発行された2つめの環境許認可を根拠に、拡張計画の建設作業を継続。また、住民勝訴の判決一日前に融資契約を締結という前代未聞の決定を行なった国際協力銀行(JBIC。日本政府が全株式保有)と民間銀行は、2つめの許認可に対する住民訴訟が再び起こされることを知りつつ、2017年11月に同拡張計画への融資の支払いを始めました。
今回、現地住民・NGOが再審請求の手続きをとった行政訴訟は、2017年12月に2つめの許認可の取消しを求めて起こしたもので、2018年5月、8月、11月にそれぞれバンドン地裁、ジャカルタ高裁、最高裁が原告の訴えを棄却していました。
同拡張計画については、裁判所が上述の棄却の根拠としている「国家空間計画に関する2017年政令第13号」に係る司法審査請求も今年5月に行なわれ、依然結論は出ていません。
日本政府やJBICは、違法リスクや贈収賄のリスクを抱える同拡張計画への貸付実行をまずは控えるべきです。また、自分や子どもたちの未来の生活・環境を守ろうと、あくまでも同拡張計画の中止を求め、2016年から粘り強く法廷闘争をつづけている住民の意見・権利を尊重し、同拡張計画への融資供与を早急に見直すべきです。
以下、現地NGOのプレスリリース(和訳)です。
-------------------------------------------------------------
プレスリリース
2019年8月6日
気候正義のための提言チーム
インドネシア・チレボン石炭火力・拡張計画
環境許認可の訴訟に係る再審請求
2017年4月19日、バンドン地方行政裁判所はチレボン石炭火力発電所・拡張計画(1,000 MW×1基)の環境許認可(2016年5月11日発行)(以下、2016年環境許認可)が法的に無効であるとの判決を下した。同裁判所は、同許認可を発行した西ジャワ州投資局に同許認可を取消すよう命じた。
同許認可を取消すにあたって、当該判事は、チレボン県空間計画への違反を理由に同許認可に「法的瑕疵」があると考えた。同許認可に法的瑕疵があると明言した同判事の主な理由は、同許認可で許可された事業地の一部が石炭火力発電所の建設地として利用されることが意図されていなかったという事実であった。チレボン県空間計画では、アスタナジャプラ郡のみが石炭火力発電所の建設地として規定されていた一方、ムンドゥ郡は他の用途での利用が計画されていた。
『国家空間計画に関する2008年政令第26号の改正に関する2017年政令第13号』は、汚染をもたらす石炭火力発電事業の実施を加速させるための口実として使われている。同政令では、地域の空間計画と整合性のない国家戦略事業の推進を図るための(大臣による)勧告について規定されている。国家戦略事業を加速させるため、同政令(2017年政令第13号)は(訳者注:本来は必要とされる)地域/市および州の空間計画の修正に対する解決策になると考えられている。
しかしながら、(大臣による)当該勧告は、アスタナジャプラ郡に限定される石炭火力発電事業について(訳者注:ムンドゥ郡で実施することに関し)明確に説明しているものではない。
依然として継続されているチレボン石炭火力・拡張計画が、以前からチレボン県空間計画に規定されていたことを鑑みれば、チレボン県空間計画に係る修正の法的確実性はない。
政府は2017年に新・環境許認可を発行したが、その新・許認可が発行されたプロセスには、手続的また本質的な瑕疵がみられる。すなわち、それらの瑕疵は以下のとおりである。
1. チレボン石炭火力・拡張計画の2017年に発行された新・環境許認可に係る判決は、当該許認可の発行が『環境保護および管理に関する2009年法律第32号』、および、同実施規則に規定されている環境許認可の発行手続きに違反していることから、適切ではない。
2. チレボン県における石炭火力発電所の建設事業がチレボン県空間計画に整合しないことは、バンドン地方行政裁判所の判決(第124号)によって立証されており、また、2017年の新・環境許認可の発行時には、依然としてチレボン県空間計画の修正は行なわれていなかった。
3. 2017年政令第13号を新・環境許認可の発行の根拠として用いるのは誤りである。なぜなら、新・環境許認可の発行はチレボン県空間計画の規定に基づくべきであり、また、2017年政令第13号は、環境保護および管理の改善に必要な方針の修正を考慮していないためである。
4. 同発電事業は環境だけでなく経済、社会、また文化的側面においてコミュニティーに悪影響をもたらしている。これは、環境許容量のデータなどに注意を払っていないため、環境破壊の影響を有しうる同地域の(環境的な)配分に変化が生じているためである。
したがって、上述を考慮し、私たちは以下を主張する。
1. 最高裁が、原告により提出された再審請求を受け入れ、2017年の新・環境許認可を取消すこと。
2. 農地・空間計画大臣が、チレボン県における石炭火力発電計画により直接影響を受ける住民の利益を注視し、チレボン県空間計画の評価を行なうことが適切かつ妥当であること。
3. チレボン県(空間計画)において、これ以上石炭火力発電事業を含まないよう、内務省や海洋水産省、また農地・空間計画省のレベルで、チレボン県空間計画に係る協議・修正のプロセスが進められることが適切であること。
連絡先:
インドネシア環境フォーラム・西ジャワ(WALHI West Java)
バンドン法律扶助協会(LBH Bandung)
(★)インドネシア・西ジャワ州チレボン石炭火力発電事業
1号機は、丸紅(32.5%)、韓国中部電力(27.5%)、Samtan(20%)、Indika Energy(20%)の出資するチレボン・エレクトリック・パワー社(CEP)がインドネシア国有電力会社(PLN)との間で30 年にわたる電力売買契約(PPA)を締結。総事業費は約8.5億米ドルで、融資総額5.95億ドルのうちJBICが2.14億ドルを融資した。2012年に商業運転が開始されている。
2号機は、丸紅(35%)、JERA(10%)、Samtan(20%)、Komipo(10%)、IMECO(18.75%)、Indika Energy(6.25%)の出資するチレボン・エナジー・プラサラナ社(CEPR)がPLNとの間で25年にわたるPPAを締結。総事業費は約22億米ドルにのぼり、うち8割程度について、JBIC、韓国輸銀、日本・オランダの民間銀行団(三菱UFJ、三井住友、みずほ、ING)が融資を供与する(JBICはうち7.31億ドル)。現場では、アクセス道路の整備や土地造成作業などが終わり、本格的な工事が始まっている。2022年に運転開始見込み。
詳細はこちら → https://www.foejapan.org/aid/jbic02/cirebon/background.html
●関連WEBサイト
「JBICの石炭発電融資にNo!」プログラムについて → https://sekitan.jp/jbic/