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インドネシア・チレボン石炭火力発電事業
住民勝訴の根拠を勝取るため「国家空間計画に関する政令」の司法審査を請求
丸紅・JERA(中部電力と東電の合弁)が出資し、国際協力銀行(JBIC)や三菱UFJ、三井住友、みずほなどの銀行団が融資して建設が進められている西ジャワ州チレボン石炭火力・拡張計画(2号機。100万kW)は、依然、違法リスクを突きつけられています。
5月10日、インドネシア環境フォーラム(WALHI)や同拡張計画の影響を受ける住民を含む市民団体・個人が、「国家空間計画に関する2017年政令第13号」の第114A項(政令13号144 A項)について、最高裁に司法審査を請求しました。
(写真左)2018年5月 JBIC前でインドネシアと日本のNGOが融資撤回を求める抗議アクション
(写真右)2019年4月 1号機(左側)の隣接地で進められている2号機の建設工事
同拡張計画では、環境許認可が西ジャワ州により不当に発行されたとし、住民が同許認可の取消しを求める行政訴訟を2016年12月に開始。2017年4月にバンドン地裁が住民の訴えを認め、一度、同許認可の取消しが宣言されました。(JBICは同判決の一日前に事業者と融資契約を締結。)
その時の判決の根拠は、同拡張計画の事業地がムンドゥ郡を含んでいるのに対し、チレボン県空間計画に石炭火力発電所の開発地として記載されているのがアスタナジャプラ郡のみであったことから、同県の空間計画に違反するというものでした。
しかし、その後、西ジャワ州が控訴し、行政訴訟が続いている最中、2017年7月に住民・NGOも知らぬ間に突如、新・環境許認可が西ジャワ州により発行されたのです。その根拠は、2017年4月に新しく発行された政令13号の144 A項でした。
政令13号144 A項では、県・市・州における既存の空間計画に規定されていない場合でも、国家戦略上の価値がある活動や事業については、許可の発行が可能とされています。つまり、同拡張計画が国家戦略事業と位置づけられている以上、チレボン県空間計画に石炭火力発電所の開発地として「ムンドゥ郡」が記載されていなくても問題がないということになります。
この新・環境許認可の下、事業者が建設を続行したのに対し、現地住民・NGOは、2017年12月に再び行政訴訟を開始。新・環境許認可の不当性を訴え、取消しを求めました。(JBICは訴訟が再び起こされると知りながら、2017年11月、事業者に対し、初回貸付を実行。)
しかし、地裁(2018年5月)、高裁(同年8月)、最高裁(同年11月)は、揃って「一事不再理」(何人も同一事項について再び訴訟を起こすことはできない)とし、住民の訴えを棄却しました。その根拠は、政令13号144 A項であり、同拡張計画に係る環境許認可の問題が、すでに同政令によって解決されたというものでした。
一方、政令13号144 A項は、政令より優位性をもつ法律、すなわち、「空間計画に関する2007年法律第26号」や「環境保護および管理に関する2009年法律第32号」の規定と整合がとれないため、違法であり、法的根拠とするのは不適当であるとの指摘が、原告である住民・NGOの弁護団からなされてきました。
今回、最高裁に請求された政令13号144 A項の司法審査では、同条項のこうした違法性が審査されることになります。
この政令13号144 A項は、同チレボン拡張計画のみでなく、他の開発事業でも、保護されるべき住民の生活空間や環境を脅かすことが懸念されるため、インドネシアの複数の市民団体が今回の司法審査請求に参加し、結果を注視しています。
同拡張計画に関わっている日本の官民は、インドネシアの空間計画法の内容やその法律の趣旨を十分に理解した上で、賢明な判断と適切な対応をとるべきです。「国家戦略事業」の名の下に、環境・人権・法律を蔑ろにして開発を進める行為は直ちに止めるべきです。
以下、現地NGOのプレスリリース(和訳)です。
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プレスリリース
2019年5月10日
公正な空間のための提言チーム
空間計画法に反すると考えられる「国家空間計画に関する政令」の実体が試される
2019年5月10日、ジャカルタ発 ― 「公正な空間のための提言チーム」のメンバーである複数の市民団体(CSOs)は、「国家空間計画に関する2017年政令第13号」の第114 A項について、司法審査を求める書類を提出しました。司法審査請求権による請求は、インドネシア環境フォーラム(WALHI)、および、インドネシア伝統漁業者協会(KNTI)によって提出されました。
まず、請求者は、国家空間計画に関する同政令の第114 A 項に疑問を呈しています。同政令は、県/市や州政府によって決定された空間計画(RTRW)と相反する幾つかの行為(国家空間計画に関する政令の付録において列挙されている)を許可するものとなっています。その列挙された事業は国家戦略事業に密接に関連したものと推定されます。国家空間計画に関する政令の第114 A 項により、同政令の付録で列挙された事業は、県/市や州の空間計画に含まれていない場合であっても、空間利用許可を取得することが可能となります。
請求者は、国家空間計画に関する政令の第114 A 項により、空間計画に関する2007年法律第26号(空間計画法)が確立した空間計画の法的構造が害されると考えます。つまり、国家空間計画に関する政令の第114 A 項による(許可)取得が、空間計画が「相補性と階層性」からなると想定している空間計画法で確立された法的秩序を崩すものになると考えています。
WALHIのエネルギー・都市問題キャンペーナーであるドゥウィ・サウンは、実際にあった文脈のなかで、どのようにこの第114 A 項が運用されているかを話しました。「当該地域の空間計画に相反していたため、明らかに許可取得に不備が生じていた事業があります。チレボン石炭火力発電事業2号機のケースでは、空間計画に違反することから、環境許認可の無効が宣言され、取消しが命じられさえしました。しかし、(西ジャワ州)政府は控訴を取り下げ、代わりに国家空間計画に関する政令の第114 A 項を根拠に再び環境許認可を発行したのです。」
司法審査を請求した別の根拠は、KNTI代表マルティン・ハディウィナタから述べられました。それは、空間計画の草案段階で統合されるべきプロセス、特に戦略的環境アセスメントが軽視されることに関連したものです。「これまで、伝統的な漁業者は、石炭火力発電所からNCICD(国家首都統合沿岸開発)事業におけるスーパー堤防に至るまで、インフラ開発によって脅かされる生活空間を守るため、あらゆる空間利用許可や戦略的環境アセスメントを監視することも含め、可能な法的手段を利用し、尊重されてきました。」
「国家空間計画に関する政令の第114 A 項は、独断的な方法で事業を押し付けるための近道であり、生活空間としての土地や領海に対する漁業者の権利を侵害するものです。」とマルティンは述べました。
司法審査請求権による請求は、RUJAK、インドネシア環境法センター(ICEL)、インドネシア法律扶助協会(YLBHI)を含む複数の個人と市民団体も支持しています。
RUJAK事務局長のエリサ・スタヌドゥジャジャは、第114 A 項がもたらす中央集権的な意味合いに遺憾の意を表明しました。「国家空間計画(に関する2008年政令第26号)の改正、特に第114 A 項は、実際、インドネシアの空間計画政策を中央集権的なもの、つまり、トップダウン的で権威主義的な方針に後戻りさせました。中央政府がさまざまな空間計画に統合されたインフラ開発の誕生を期待したとしても、中央集権的にすることだけが解決を意味するわけではありません。中央政府が地域との間での協力関係を促進すべきです。」さらに、エリサによれば、この改正が、住民の利益との間でさらなる不和を招くということです。つまり、住民は市・県・州といった地方政府を通じて要望をいつでも伝えることができたにもかかわらず、突如、国家戦略事業の名の下にそれを否定されるからです。
請求者は、最高裁判所が司法審査請求の根拠すべてを客観的に検討し、司法審査請求権による請求を承諾することを期待します。加えて、請求者は、国家戦略事業の建設に携わっている事業者らに対し、県・市・州の空間計画において当該事業、および/もしくは、行為が欠如している(含まれていない)ことを重大な法的リスクとして考慮するよう、また、空間利用許可の取得プロセスにおいて、第114 A 項に依存するべきではないことを注意喚起します。
連絡先:
インドネシア法律扶助協会(YLBHI)
インドネシア環境フォーラム(WALHI)
インドネシア伝統漁業者協会(KNTI)
(★)インドネシア・西ジャワ州チレボン石炭火力発電事業
1号機は、丸紅(32.5%)、韓国中部電力(27.5%)、Samtan(20%)、Indika Energy(20%)の出資するチレボン・エレクトリック・パワー社(CEP)がインドネシア国有電力会社(PLN)との間で30 年にわたる電力売買契約(PPA)を締結。総事業費は約8.5億米ドルで、融資総額5.95億ドルのうちJBICが2.14億ドルを融資した。2012年に商業運転が開始されている。
2号機は、丸紅(35%)、JERA(10%)、Samtan(20%)、Komipo(10%)、IMECO(18.75%)、Indika Energy(6.25%)の出資するチレボン・エナジー・プラサラナ社(CEPR)がPLNとの間で25年にわたるPPAを締結。総事業費は約22億米ドルにのぼり、うち8割程度について、JBIC、韓国輸銀、日本・オランダの民間銀行団(三菱UFJ、三井住友、みずほ、ING)が融資を供与する(JBICはうち7.31億ドル)。現場では、アクセス道路の整備や土地造成作業などが終わり、本格的な工事が始まっている。2022年に運転開始見込み。
詳細はこちら → https://www.foejapan.org/aid/jbic02/cirebon/background.html
●関連WEBサイト
「JBICの石炭発電融資にNo!」プログラムについて → https://sekitan.jp/jbic/