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インドネシア・チレボン石炭火力発電事業
西ジャワ州チレボン石炭火力:
既存の問題解決、および、拡張計画への公的融資拒否を求める要請書を提出
国際協力銀行(JBIC)が融資を検討しているインドネシア・西ジャワ州チレボン石炭火力発電事業・拡張計画(1000MW。総事業費約20億ドル。丸紅、中部電力出資)に関し、1月24日、日本のNGO4団体(※)から日本政府・JBICに対し、公的融資の供与を拒否するよう求める要請書を提出しました。
(※4団体=国環境NGO FoE Japan、「環境・持続社会」研究センター(JACSES)、気候ネットワーク、350.org Japan)
(写真左)首都ジャカルタの日本大使館前で、チレボン石炭火力拡張計画へのJBIC融資中止を求める住民・NGOの抗議アクション(2016年11月)
(写真右)チレボン石炭火力拡張計画(2号機)の事業予定地と周りに広がる塩田。アクセス道路の整備や土地造成作業が一部で始まっている。(2016年10月。WALHI西ジャワ撮影)
4団体は同要請書のなかで、主に以下の4点に関する状況を説明。今年3月には融資決定がなされるとの報道も流れているなか、JBICに対し、まず既存の問題の解決に向けた実効性のある対策の策定・実施を事業者に働きかけるよう求めています。また、JBICが地域住民や国内外の市民社会の懸念に留意するとともに、『環境社会配慮確認のための国際協力銀行ガイドライン』に違反する可能性から、拡張計画への融資決定を拒否するよう要請しています。
1.既存案件による生計手段への影響や公害に対する懸念に係る住民の異議申立て
(昨年11月に住民がJBICに申立て。現在、予備調査中)
2.係争中の環境行政訴訟と拡張計画の違法性
(昨年12月に住民が西ジャワ州政府を相手に訴訟を開始。現在、公判中)
3.(拡張計画に係る)環境アセスメントの不備
4.気候変動への影響を重視した国際的なダイベストメントの動き
(JBIC・邦銀とともに協調融資を検討中の仏・蘭の銀行の融資撤退の可能性)
以下、要請書の本文です。
>PDF版はこちら
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2017年1月24日
内閣総理大臣 安倍 晋三 様
財務大臣 麻生 太郎 様
国際協力銀行 代表取締役総裁 近藤 章 様
既存の問題解決と拡張計画への公的融資拒否を求める要請書
「環境・持続社会」研究センター(JACSES)
気候ネットワーク
350.org Japan
私たちはこれまで、国際協力銀行(JBIC)が融資を検討中の「インドネシア・西ジャワ州チレボン石炭火力発電所拡張計画」(2号機。1,000 メガワット)について、すでにJBICが融資を供与して稼働中の1号機(660メガワット)が現地で引き起こしてきた様々な環境社会影響を指摘するとともに、同拡張計画に対する地域住民の懸念の声を伝え、JBICにしかるべき対応と慎重な融資決定を求めてきました。また、同拡張計画については、JBICとともに協調融資を予定しているフランスやオランダの民間銀行に対しても、各国の市民社会から融資撤退を求める声があげられてきました。
しかし、報道等によれば、(注1) 同拡張計画について、今年の第一四半期を目処に同拡張計画の融資契約を締結するやの情報が流れており、私たちは深い憂慮の念を抱いております。というのも、同拡張計画を取り巻く状況は改善するどころか、より多くの課題が顕在化してきており、『環境社会配慮確認のための国際協力銀行ガイドライン』(以下、ガイドライン)への違反も多く見られるようになっているからです。ガイドラインへの各違反点については、添付資料1をご覧いただければと思いますが、私たちは特に以下で述べるような同拡張計画に係る状況下で、JBICが同拡張計画への融資を決定するべきではないと考えます。
1.既存案件による生計手段への影響や公害に対する懸念に係る住民の異議申立て
チレボン石炭火力発電所1号機の影響を受ける住民が、2016年11月、JBICガイドライン担当審査役に対し、異議申立書を提出しました。同申立書のなかでは、主に2つの問題点が取り上げられています。すなわち、生計手段や収入機会の喪失、および、大気汚染による健康状態の悪化に対する懸念です。
まず、前者については、1号機の建設・操業に伴い、沿岸地域の非常に豊かであった生物多様性が破壊された結果、小漁業やさまざまな種類の貝採取を営んできた住民が漁獲・採取量の減少を訴えています。また、1号機の建設後、近隣の塩田でも生産した塩の質が落ちてしまうなどの影響が見られ、収入の減少につながっているとのことです。同事業地近くの農地でも、発電所の操業以来、ほぼ5年間、コメやその他の作物の収穫が激減したとの報告が農民によってなされています。しかし、これらの生計手段への影響に対し、事業者による「実効性ある対策」はとられていないことが指摘されています。
このように既存の発電所1号機による生計手段への影響は以前として有効な対策がとられていないとともに、こうした状況は「プロジェクト実施主体者等は、移転住民が以前の生活水準や収入機会、生産水準において改善または少なくとも回復できるように努めなければならない」というガイドラインの規定に明確に違反しています。今後、同拡張計画による2号機の建設にあたっても、同様の生計手段への影響と住民の生活悪化が起きることが懸念されますが、現在のところ、後段3.で言及するとおり、環境アセスメント(AMDAL)で適切な影響評価がなされていないばかりか、1号機の経験・教訓を踏まえた形での小規模漁業、製塩、農業等に従事する住民への適切かつ実効性ある対策は見られません。したがって、同拡張計画でも、上記のガイドライン規定に違反する状況、つまり、生計手段への影響から住民の生活が悪化し、同様の問題が繰り返されることが懸念されます。
また、住民は同申立書のなかで、2012年に商業運転を開始した1号機の事業地から、近接する家々や公共施設に飛来してくるフライアッシュについても指摘し、同拡張計画も合わせた、呼吸器系疾患のさらなる罹患率増加の可能性など、コミュニティーの健康に対する長期的な影響を懸念しています。実際、同拡張計画の環境アセスメントのなかでは、因果関係等は明記していないものの、ここ3年間で同事業地周辺の住民が罹患した疾病のなかで最も割合の高かったものが急性上気道感染症(ISPA)であった(注2)としています。
しかし、2号機の発電所に設置が予定されている大気汚染対策技術は1号機の当時の設置予定技術と比較しても、それ程、改善されたものとは言えず(添付資料2を参照)、フライアッシュを含む大気汚染が本当に起こらないのか、また、健康状態が悪化するのではないかという住民の懸念を払拭できるような対策にはなっていないのが実態です。また、1号機と同様、日本の石炭火力発電所で利用されているような高性能かつ利用可能な最良の技術も利用されないことになっています。この点において、JBICは「日本等の先進国が定めている基準またはグッドプラクティス等をベンチマークとして参照する」とするガイドラインを遵守できていません。
以上のとおり、同事業においては、住民が異議申立書のなかで取り上げているような1号機による生計手段への影響や大気汚染の状況について、依然として実効性のある対策が検討も実施もされておらず、ガイドラインの規定も遵守されていない状況がみられます。これは同様の問題が起こることが予測される拡張計画においても同じです。このまま実効性のある対策が提示されなければ、同拡張計画のガイドライン違反は免れません。したがって、JBICは住民が異議申立書で指摘している問題の解決が適切かつ実効性のある形で図られるとともに、それらが拡張計画への対策にも活かされ、ガイドラインを遵守できる状況が確保できるまでは、同拡張計画への融資を決定するべきではありません。
2.係争中の環境行政訴訟と拡張計画の違法性
同事業の影響を受ける地域住民が原告となり、2016年12月、同拡張計画の環境許認可(番号660/10/19.1.02.0/BPMPT/2016。2016年5月11日発行)が西ジャワ州政府によって不当に発行されたとし、西ジャワ州バンドゥン行政裁判所に同環境許認可の無効を求める行政訴訟を起こしました。同訴訟の要旨については、添付資料3をご参照いただければと思いますが、以下の内容に係る違法性が指摘されています。
(1)チレボン県空間計画の未修正
(2)戦略的環境アセスメントに関する考慮の欠如
(3)環境アセスメントの策定プロセスへのコミュニティーの参加の欠如
(4)環境アセスメントにおける分析の不備(他事業との累積的影響に関する配慮の欠如)
(5)グッド・ガバナンスのための一般原則に違反
ガイドラインでは、「相手国の法令や基準等の遵守」が規定されていますが、同拡張計画について上記のような法令違反が判決で確定すれば、明確なガイドライン違反となります。また、ガイドライでは、カテゴリAプロジェクトについて、「環境社会影響評価報告書及び相手国政府等の環境許認可証明書の提出」が要件とされていますが、判決で環境許認可が無効とされた場合には、ガイドラインの要件を満たさないこととなります。
したがって、現在、同訴訟の公判が今年1月11日から始まっていますが、JBICは同訴訟に係る判決が確定するまでは、同拡張計画への融資を決定するべきではありません。
3.環境アセスメントの不備
上記2.でも「(4)環境アセスメントにおける分析の不備」が指摘されていますが、国際NGOからも以下のような同拡張計画の環境アセスメントにおける「大気質および水質汚染に係る不備」が指摘されています。詳細は添付資料4をご参照ください。
(1)周辺大気環境への排出物による健康影響に関する評価が不十分
A) 大気汚染物質による健康への影響について十分な範囲の評価がなされていない
B) 二次的PM(粒子状物質)の形成について十分な評価がなされていない
C) 大気汚染物質の地理的スコーピングの設定が適切でない
D) (同一事業の複数の汚染源による、および、異なる事業の汚染源による)累積的影響が評価されていない
E) 現在のモニタリング値を大気汚染の拡散予測モデル等に利用していない
(2)(大気汚染対策における)BAT(利用可能な最良の技術)の不使用
・ NOx、SOx、PM対策においてBATが利用されていない
・ インドネシアの大気汚染基準のレベルが非常に低い(点を十分に考慮していない)
(3)温排水による地元の生態系への悪影響に関する評価が不十分
・ 温排水による水温の上昇から、海岸沿い6km、沿岸から500mの範囲内の生態系に深刻な影響が及ぶ可能性。つまり、漁民の生計手段へも影響が及ぶ可能性
・ インドネシア水質基準(2004年第51号:KEPMEN LH)に違反の可能性
(4)生計手段の喪失に関する評価が欠如
これらの点は、上記1.の異議申立書でも住民が取り上げている生計手段や収入機会の喪失、および、大気汚染による健康状態の悪化に対する懸念にどのように対策すべきか、ひいては、ガイドラインの遵守状況を確保できる対策を考える上で非常に重要な情報になります。したがって、JBICは添付資料4で指摘されている各点について確認し、しかるべき対策が確保できるまでは、同拡張計画への融資を決定するべきではありません。
4.気候変動への影響を重視した国際的なダイベストメントの動き
気候変動への影響を考慮し、欧米をはじめとする各国の公的機関が海外の石炭関連事業への融資を制限し、さらに、各国が炭素排出を減らす役割を担うこととなったパリ協定が発効したにもかかわらず、この先、何十年も炭素排出を続けることになる新規の石炭火力発電所に現在も着手している日本の姿勢に対しては、国際的な批判の声があげられてきました。(注3)
また、近年、すでに民間銀行の間でも、新規の石炭火力発電事業からの融資撤退の方針を自主的に示す動きが出ています。実際、インドネシア・中ジャワ州タンジュンジャティB石炭火力発電所の拡張計画については、JBIC・邦銀とともに融資を検討中であったフランス大手銀行ソシエテ・ジェネラルとクレディ・アグリコル銀行が、昨年末ですでに同事業への融資検討を止めたことを確認しています。(注4)(注5)両行は昨年10月、気候変動への影響を重視し、あらゆる石炭火力発電事業からの融資撤退の方針をすでに示していました。
チレボン石炭火力発電所の拡張計画も、JBIC・邦銀とともにクレディ・アグリコル銀行、および、オランダのING銀行が融資を検討中ですが、前者は上述のとおり昨年10月、後者も2015年11月に新規石炭火力発電事業からの融資撤退方針を示しています。ヨーロッパの市民社会から両行に対し、同拡張計画からの融資撤退を求める声もさらに強まってきています。(注6)(注7)したがって、日本政府・JBICもこうした国際的な石炭関連事業からのダイベストメントの動きを直視し、同拡張計画への融資をしないという賢明な対応を真剣に考えるべきときにきています。
繰り返しになりますが、チレボン石炭火力発電事業においては、すでに1号機の建設・操業が始まって以来、地域住民が生計手段への甚大な影響に苦しんできました。JBICは、まずこうした既存の問題の解決に向けた実効性のある対策の策定・実施を事業者に働きかけるべきです。また、私たちは同拡張計画について、JBICが地域住民や国内外の市民社会の懸念に留意するとともに、ガイドラインに違反する可能性に鑑み、融資決定を拒否するよう強く要請します。JBICは同拡張計画に係る状況の事実確認、および、ガイドラインの遵守状況を確認するにあたり、事業者側の情報のみに依存するのではなく、地域住民や現地NGO、国際NGO等のステークホルダーからの情報も重視し、客観的な判断を行なうべきです。
以上、日本政府・JBICにご考慮いただき、適切な対応をとっていただけますよう、よろしくお願い致します。
【連絡先】
国際環境NGO FoE Japan(担当:波多江秀枝)
〒173-0037 東京都板橋区小茂根1-21-9
Tel:03-6909-5983 Fax:03-6909-5986
Cc: 経済産業大臣 世耕 弘成 様
独立行政法人 日本貿易保険 理事長 板東 一彦 様
丸紅株式会社 代表取締役社長 國分 文也 様
中部電力株式会社 代表取締役社長 勝野 哲 様
(注1)https://finance.detik.com/energi/3379996/proyek-pltu-2000-mw-di-jepara-dan-cirebon-dapat-dana-3-bulan-lagi
(注2)同拡張計画に係る環境アセスメント(AMDAL)の2.1.6.1 Kasus Penyakitを参照
(注3)https://www.foejapan.org/aid/jbic02/batang/160519.html
(注4)https://www.foejapan.org/aid/jbic02/cirebon/170103.html
(注5)https://www.credit-agricole.com/Actualites-et-decryptage/Actualites/Le-Groupe/Precision-du-Credit-Agricole-sur-le-projet-de-centrale-a-charbon-de-Tanjung-Jati-B-2-en-Indonesie
(注6)脚注4と同様
(注7)https://fairfinanceguide.org/ffg-international/news/2016/ing-still-invests-hundreds-of-millions-in-polluting-coal-companies/
※インドネシア・西ジャワ州チレボン石炭火力発電事業について
1号機は、丸紅(32.5%)、韓国中部電力(27.5%)、Samtan(20%)、Indika Energy(20%)の出資するチレボン・エレクトリック・パワー社(CEP)がインドネシア国有電力会社(PLN)との間で30 年にわたる電力売買契約(PPA)を締結。総事業費は約8.5億米ドルで、融資総額5.95億ドルのうちJBICが2.14億ドルを融資した。2012年に商業運転が開始されている。
2号機は、丸紅(35%)、Indika Energy(25%)、Samtan(20%)、Komipo(10%)、中部電力(10%)の出資するチレボン・エナジー・プラサラナ社(CEPR)がPLNとの間で25年にわたるPPAを締結。総事業費は約20億米ドルにのぼり、うち8割程度について、現在、JBIC、韓国輸銀、日本・フランスの民間銀行団が融資を検討中。現場では本格着工に向け、アクセス道路の整備や土地造成作業などが進められている。2020年に運転開始見込み。
詳細はこちら → https://www.foejapan.org/aid/jbic02/cirebon/background.html
●関連WEBサイト
「JBICの石炭発電融資にNo!」プログラムについて → https://sekitan.jp/jbic/