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インドネシア・チレボン石炭火力発電事業
住民グループがJBICに2号機建設への融資を拒否するよう要請
5月23日、インドネシア・西ジャワ州チレボン石炭火力発電事業(丸紅、中部電力出資)の問題について、現地NGO WALHI(インドネシア環境フォーラム:FoEインドネシア)が国際協力銀行(JBIC)に対し、住民グループの要請書(2016年4月付)を手交しました。
同事業では、JBICがすでに融資を行なった発電所1号機が2012年から操業していますが、地元住民の生計手段に甚大な影響が及んでおり、これから本格的に建設が始まる2号機についても、地元住民から問題の拡大を懸念する声が聞かれます。
住民グループは、発電所1号機による既存の問題についてJBICが調査をし、適切な対応をとるとともに、2号機建設への融資検討を行なわないよう求めています。
以下、要請書の和訳です。
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(原文はインドネシア語。同英訳を和訳)
2016年4月
国際協力銀行(JBIC)
代表取締役総裁 渡辺 博史 様
インドネシア・西ジャワ州における
チレボン石炭火力発電事業に関する懸念と要請
コミュニティー連合であるラペル(Rapel, Rakyat Penyelamat Lingkungan:住民環境救助)・チレボンは、(Astanajapura郡)Kanci Kulon、Kanci、Buntet村、Mundu郡Waruduwur、Citemu、Bandengan、Luwung村の3,000名以上のメンバーで構成されています。私たちはそのコミュニティー連合を代表し、国際協力銀行(JBIC)が2010年3月にチレボン・エレクトリック・パワー社(CEP)と融資契約を締結したインドネシア・西ジャワ州チレボン石炭火力発電事業(第1基)による私たちの生活・環境への実際の悪影響に関し、JBICの注意を喚起したいと思います。これは、私たちにとって重要、かつ、緊急性の高い問題です。というのも、チレボン拡張計画、つまり、第2基の建設が今年開始される予定になっており、チレボン・エネルギー・プラサラナ社(CEPR)もまたJBICの融資を要請しようとしているからです。事業者がJBICの融資なしで、同事業を推進することは困難であることに鑑み、私たちは、JBICが「環境社会配慮確認のための国際協力銀行ガイドライン」(ガイドライン)に則り、同事業に関連した問題がこれ以上起きないよう、早急かつ不可欠な対応をとるべきであると考えます。
私たちのグループ、ラペル・チレボンは、2007年に立ち上げられ、生計手段の喪失や損害、環境破壊、健康被害、脅威・脅迫、社会の分裂など、第1基事業の悪影響に関する懸念を提起し続けました。私たちは、同事業に対する抗議活動を数度にわたり行ない、地元チレボン政府に対し、同発電所の建設を中止するよう要求しました。私たちはCEP社に直接30回以上も声明文を提出しましたが、彼らからの回答はありませんでした。結果、私たちがあげた事業反対の声は、当時、実を結ぶことなく、2012年に第1基の(試)運転が開始されました。
私たちの地域コミュニティーの主な生計手段は、小規模漁業、貝類の採取、塩づくり、テラシ作り、農業でしたが、第1発電所によって甚大な影響を受けました。石炭火力発電事業の(始まる)以前は、さまざまな収入源があり、私たちの生活はよりずっと楽でした。事業者が2007年に第1発電所の建設を始めて以来、この地域の生計手段のなかには完全に消え去ったものもありますし、また、損害を被ったものもあります。
Kanci Kulonに現在建てられた石炭火力発電所と埠頭のある沿岸地域は、Kanci Kulonの約2,000人の小規模漁業者、貝類栽培者、貝類採取者にとって、非常に重要です。かつては、さまざまな種の貝類や小エビ類、魚類の非常に生産性の高い漁場だったからです。レボンと呼ばれる小エビは、まさにその名にちなんでこの場所がチレボンと命名されたわけですが、漁獲され、この地域の特産物であるテラシが作られていました。漁網を使う小規模漁業者のなかには、漁獲量が減ったため、すでに止めてしまった人たちもいます。彼らによれば、2007年に事業が始まる前の漁獲量と比べると、魚類やエビ類の漁獲量は半減以下になったということです。同事業の以前は、ほぼ毎日、干潮時になると、沿岸地域の泥のなかから、多くの種の貝類やその他の小型の生物相を採っていました。しかし、もし貝類やその他の生物相を採り続けたいなら、私たちは現在、他の場所に出かけなくてはなりません。以前は、他地域の人々がここに魚や貝類をとりにきていたくらいですから、(現在は私たちにとって)非常に厳しい状況です。
同事業地の近くの塩田の生産性も、同事業後に影響を受けています。地域住民は乾季に塩づくりに従事しており、かつて、同地域産の塩は質がよいことで知られていました。現在、私たちが塩田に行ってみると、塩田のなかには、色がより濃く、つまり、黒ずんでしまっているものも見られます。塩づくりに従事している人たちは、数枚の塩田を使い、水をきれいに、濾さなくてはなりません。また、製品を洗浄し、黒い粉末を除去しなくてはなりません。こうして、塩づくりに事業以前よりも長い時間がかかるのです。塩づくりに従事している人たちは、塩の製品の質が落ちてしまったため、大きな損失を受けています。これはまた、彼らが雇っている労働者の解雇にもつながっています。実際、私たちのコミュニティーの約500人の労働者が生計手段を失いました。さらに、塩づくりに従事してきた人たちは、塩づくりの商売を維持しようとするより、土地を売却する傾向にあります。こうした黒い物質や汚染物質が石炭火力発電所から海を通じて来ているものか否かは依然として不明ですが、私たちは、塩づくりに従事してきた人たちが、事業以前にこの種の汚染を経験したことがなかったということは言うことができます。
農民に対する私たちの聞き取りでは、事業地近くの農地約7ヘクタールを所有する40名以上の地権者が、彼らの作物へのさまざまな影響を感じています。同事業のために実際は収用されることになっていた農地で、農民らは雨季(12月~3月)には雨水に依存した水田耕作を、また、(乾季である)(4月~6月には、)緑豆、キャッサバ、トウモロコシなど、他の作物を依然として耕し続けています。しかし、コメもその他の作物も、ほぼ4年間、収穫が激減してきました。コメの籾が空のものもあり、つまり、収穫がないものもあります。農地のなかには、事業地によって水の流れが遮られてしまったため、排水、ひいては、洪水の問題があるところもあることは確かです。しかし、私たちは、事業地からのフライアッシュや石炭の粉塵が、風向によっては私たちの作物に降下していることも懸念しています。
(また、)地権者が同事業のために土地を売却してしまったため、現在、約400人の小作・地権者が生計手段を持たない、あるいは、失業した状況です。
私たちの地域コミュニティーのなかには、個別に、上述のような生計手段の問題について、CEPに口頭で苦情を伝えてきた人もいます。しかし、問題の解決に向けた対応、あるいは、効果的な軽減策は見られません。結果として、現在まで、多くの地域住民が同事業のために生計手段・収入機会の喪失、もしくは、減少に苦しんでいます。この状態は、「プロジェクト実施主体者等は、移転住民が以前の生活水準や収入機会、生産水準において改善または少なくとも回復できるように努めなければならない。」と規定するJBICガイドラインに明確に違反しています。
私たちの地域コミュニティーはまた、環境問題があることも認識しています。風向によって、事業地からフライ・アッシュが飛来してくるのです。風向は通常、3月から11月にかけて北、もしくは、北東の風が吹き、12月から2月にかけて西風が吹きます。この問題は、個々人の家から小学校のような公共施設に至るまで見られます。
私たちは、事業地の周辺地域で咳がより出るようになったと感じています。同地域における急性上気道感染症(ISPA)の患者数のデータをみると、同事業のホスト・コミュニティーに近い他の地域よりも多くなっています。
事業者は日本がクリーン・コール技術、あるいは、最良の公害対策技術を有していると言うかもしれません。一方で、日本のNGOの報告によれば、日本の石炭火力発電所で利用されている技術は、チレボン第1発電所を含む、JBICが支援した、もしくは、今後支援するであろう海外での石炭火力発電所には装備されていないことが明らかとなっています(付属文書を参照)。この点において、JBICは日本のグッドプラクティスを参照できておらず、また、グッドプラクティスからの大きな乖離について、その理由を確認できていません。これはJBICガイドラインに明確に違反します。
2014年9月の爆発事故のため、Mundu郡Waruduwur村とAstanajapura郡Kanci Kulon村では、ひびが入るなどの損害を被った家もありました。事業者の職員が事故後に確認しにきましたが、そうした損害への補償について説明はなく、また、実際に補償金も一切支払われませんでした。そのため、彼らのなかには自分の家を自費で修理した人たちもいましたが、財政的に十分でなく、現在まで修理できていない人たちもいます。
また、上述のように私たちがすでに経験してきた実際の影響に加え、AMDALや土地収用のプロセスにおける不備についても指摘をしたいと思います。一般的に、環境アセスメント(EIA)のプロセスは、事業に関するいかなる決定もなされる前に、建設よりもずっと先の段階でなされるものです。チレボンのケースの場合、第1発電所の建設が2007年7月頃に始まった一方、EIA報告書が地元の環境局に提出されたのは2008年4月でした。同事業が開始される前に、徹底した環境影響に関する分析や代替案に関する分析がなかったことは明らかです。また、私たちは同事業の環境社会影響だけではなく、同事業自体について知る適切な機会を与えられず、建設が開始される前にも後にも、私たちの懸念や意見を適切に議論する機会を与えられませんでした。結果として、上述したような私たちの生計手段への影響に対する適切な回避策や軽減策、補償策はとられませんでした(緑貝や小エビなど)。
土地収用プロセスの不備、つまり、透明性の欠如は、汚職の事例を引き起こす可能性があります。チレボン第1発電所事業では、CEPと地元政府が2007年に1平方メートル当たり14,000ルピア(の土地補償額)を申し出ました。しかし、後にこの土地補償額は変化し、たとえば、2010年には県知事が1平方メートル当たり225,000ルピアを申し出ました。しかし、農民のなかには、この額でも土地売却を依然として拒否した人たちもいます。
土地収用プロセスのなかで、チンピラ(プレマン)の脅迫もありました。2007年、チレボン県レベルの政府役人は、もし補償額に合意しないなら裁判所に行く必要があると発言し、脅迫しました。2007年2月に1度、地権者のみに対する(漁民は含まない)ソーシャライゼーション会合を開いた後、チレボン政府、警察、チンピラ、ブローカー、CEPは家や食堂などで、個別に地権者との交渉を行ないました。
現在、チレボン拡張事業に向けたAMDALと土地収用のプロセスが進められています。そして、第1発電所事業と同様の問題がすでに見られます。AMDALに関し、選抜された人たちだけが協議会に招待され、参加できるような形になっており、地域コミュニティーとの適切な協議はなされていません。小作や漁民だけでなく、地権者のなかにも協議会に招待されていない人たちがいました。CEPRがAMDALに合意した村長毎に1,000万ルピアを提供していたこともわかっています。また、第2発電所のための土地収用も透明性がありません。
こうした(数々の)不備は、JBICガイドラインの多くの(規定)違反を意味します。たとえば、「プロジェクトを実施するにあたっては、その計画段階で、プロジェクトがもたらす環境への影響について、できる限り早期から、調査・検討を行(う)」といった規定や「環境に与える影響が大きいと考えられるプロジェクトについては、プロジェクト計画の代替案を検討するような早期の段階から、情報が公開された上で、地域住民等のステークホルダーとの十分な協議を経ていることが必要である。」といった規定があげられます。
上述のとおり、チレボン石炭火力発電事業・第1発電所はすでに、私たち地域住民に多くの悪影響をもたらしてきました。初期の開発段階から、同事業は、小規模漁業者、貝類栽培・採取者、テラシづくりや塩づくりをしてきた人たち、農民を含む、私たちを貧困に追いやり、私たちの健康を徐々に蝕んでいます。事業者と政府は、建設が始まる以前から私たちの声や懸念に耳を貸さず、事業が開始した後も私たちコミュニティーで起きていることに目もくれず、そして今日まで、私たちの生活状況を改善、もしくは、少なくとも回復するために必要な、かつ、効果的な対応をとってきませんでした。加えて、透明性の欠如、適切な情報公開の欠如、また、多くの地域住民が意思決定プロセスへの参加機会を与えられていないことなど、AMDALや土地収用プロセスにおける同様の問題が、すでに、拡張、つまり、第2発電所事業で見られます。
したがって、私たちは、チレボン事業がJBICガイドラインのいくつかの規定に違反していることを指摘するとともに、JBICが自身のガイドラインに則り、環境社会配慮の実施状況を確認するために外部専門家を利用したJBIC自身の調査を行ない、融資契約に基づき、プロジェクト実施主体者に対し、適切な対応を要求したり、さらには期限前償還を求めるなど、必要な対応をとるよう、強く要求します。また、私たちは、事業実施主体がJBICの融資を要請した場合に、JBICが同事業の事業者だけでなく、影響を受ける地域住民の意見に耳を傾け、チレボン拡張事業への融資検討を拒否するよう、要求します。
JBICのご配慮に感謝するとともに、JBICの賢明な決定・対応を期待します。
敬具
ラペル・チレボン代表 漁民リーダー
Cc: 内閣総理大臣 安倍 晋三 様
財務大臣 麻生 太郎 様
韓国輸出入銀行 総裁 Lee Duk-Hoon 様
インドネシア共和国 大統領 Joko Widodo 様
インドネシア共和国 エネルギー鉱物資源相 Sudirman Said 様
インドネシア国有電力会社 社長 Sofyan Basir 様
チレボン・エレクトリック・パワー社 社長 Heru Dewanto 様
丸紅株式会社 代表取締役社長 國分 文也 様
インディカ・エネルギー社 社長 Wishnu Wardhana 様
韓国ミッドランド・パワー社(KOMIPO) 社長兼CEO Changkil Chung 様
韓国サムタン社 CEO Joon Soo Han 様
中部電力株式会社 代表取締役社長 勝野 哲 様
株式会社三井住友銀行 頭取兼最高執行役員 國部 毅 様
株式会社みずほ銀行 取締役頭取 林 信秀様
株式会社三菱東京UFJ銀行 頭取 小山田 隆 様
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