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フィリピン・ボホール灌漑事業
15年越しの水路の改善後も、忘れてはならない問題の解決
●マルチ・ステークホルダー会合の開催
2013年1月10日、フィリピン・ボホール州で、日本の国際協力機構(JICA)の援助で実施された「ボホール灌漑事業」に関するマルチ・ステークホルダー会合が開催されました。
事業では3つのダムが建設され、約10,000haの農地が灌漑される予定でしたが、1996年に1つ目のダムが完成して以来、灌漑用水の不足、畑地から水田に利用転換した農地の不毛化、畑地を水田に転換するための整地費用の借金延滞、高い水利費の徴収など、さまざまな問題が農民から指摘されてきました。
会合では、こうした問題への対応策として、フィリピン灌漑庁(NIA)が2010年から提示し、取り組んできているアクション・プランの進捗状況等の報告、また、JICAの契約コンサルタントが行なった灌漑状況(2012年5~10月の作付期)に関するモニタリング結果の報告がなされました。
●NIAによる水路のコンクリート化作業とその効果
灌漑用水が農地に届いているかの精査は2010年10月から実施され、その結果、水が届いていない農地すべてに、「コンクリート水路の敷設」が対応策として提案されました。2012年中は、NIAによるコンクリート水路の敷設作業や水路の補修作業が着々と進められました。NIAによれば、1年間で約30kmの水路をコンクリート化。現在も、約10kmのコンクリート化工事を進行中とのことです。
こうしたNIAの対応に関し、JICAの契約コンサルタントから、水路のコンクリート化の結果、確実に作付面積が増加している等、目に見える効果があることが報告されました。
●依然として残る作付・灌漑されていない農地
しかし、灌漑用水が届いていない農地、また、作付が行なわれていない農地が依然として残っているのも事実です。そうした農地では、次のような意見が農民から聞かれます。
「水路のコンクリート化が途中までで終わってしまいました。末端の私のところまで、まだ数百メートルもあります。その予算がいつつくのかわかりませんが、私は整地作業にかかった費用の借金帳消しをすぐにでもしてもらいたいです。それが私が長く望んできたことでもあります」
この先にも灌漑されるはずの農地が残るが、いつ水路が延伸されるかは不明 |
「15年越しで初めて、私の農地に水路が引かれました。でも、この雨季が終わり、乾季になっても、ちゃんと灌漑用水が農地に届くかを見極めてから、農地の整備をし、作付けを始めたいと思っています。乾季に水が届かなかったら、無駄になりますから」
●問題の解決に向け、今後も必要とされる丁寧な対応
現在、NIAが予算を確保し、水路の改善対策が進んできていることは、大変歓迎すべき動きです。しかし、NIA、また、JICAが対応・検証すべき問題は、まだ残っています。
一つは、NIAの限られた予算のなか、水路の改善作業が行き届かなかった場合に、15年も声を無視され、待たされてきた農民が、これ以上水路改善を「待つ」ことに合意するか否かです。特に、整地費用の借金を抱える農民には、借金取消しの手続きを望むかについても、一人一人、丁寧な協議を持つべきです。
また、そもそも事業の計画上、
・雨季、乾季にかかわらず、水稲の耕作に向かない地域が元々含まれていること(一つ目に完成したマリナオ・ダム灌漑システムの場合、全体4,740haのうち約740ha)
・乾季には灌漑用水が全域に行き渡らないことが前提であること
(同マリナオ・ダム灌漑システムの場合、雨季は4,000ha、乾季は3,500haのみ灌漑が可能)
を考慮し、以下の対応がとられるべきです。
・約740haの農地の特定、および、同地の整地作業にかかった費用の借金の取り消しに関する手続き
・乾季に灌漑が不可能な約500haの農地の特定と農民への情報の周知徹底
そして、もう一つ忘れてはならないのは、上記のような問題に関し、
・より早期に対応策を取れる可能性はなかったのか
・15年間も農民が水路の敷設を待たなくてはならない事態になってしまったのはなぜか
について、JICAとして検証し、今後のODA事業において、問題の早期把握・解決に活かしていくことが求められます。