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フィリピン・ボホール灌漑事業
ダム完成から10数年 ようやく見え始めた問題解決の糸口
――比・ボホール灌漑事業 現地ステークホルダー会合の報告
2010年9月17日
参加した農民からも質問が出された |
9月1~2日にかけ、フィリピンのボホール州で「ボホール灌漑事業」に関するマルチ・ステークホルダー会合が開催されました。
同事業は3つのダムを建設し、約1万ヘクタールの農地を灌漑する計画で、国際協力機構(JICA)等日本の政府開発援助(ODA)による資金・技術援助で進められました。しかし、1997年に完成した1つ目のダムは平均で目標の約6~7割程度の農地にしか灌漑用水を供給できておらず、
「10年以上も灌漑用水が届いていない農地がある」
「雨が降らないときに灌漑が必要なのに、肝心なときには水路は空っぽ」
「(畑を水田用に転換する)整地作業後、農地が不毛化してしまった」
など、長年、現地の住民から様々な問題を指摘する声があげられており、日本のNGOもJICAに問題の解決を求めてきました。
質問に答えるフィリピン政府関係者 |
これに対し、JICAは今年5月から現地調査を開始。今回のマルチ・ステークホルダー会合は、この調査を契機に、問題の解決に向けた新たな試みとして開催され、フィリピン政府や地元自治体の関係者、住民組織、現地NGO、JICA等が出席しました。
会合は、まず、
・乾季には灌漑用水が全域に行き渡らないことが前提であること
(全体4,960ヘクタールのうち、3,500ヘクタールのみ灌漑が可能)
・雨季でも水稲の耕作に向かない地域(約700~1000ヘクタール)が元々含まれていること
など、本来は、事業が開始される前に農民らが説明を受けておくべきだった重要な事業概要について、フィリピン政府関係者が改めて説明するところから始まりました。
また、フィリピン政府関係者は問題の解決に向け、
・灌漑用水のロス率を下げるため、主要な農水道をコンクリート化
・灌漑用水の届いていない農地について、整地作業に伴う費用の借金返済を免除するため、各々の農民のケースについて精査する委員会の設立
各ステークホルダーが 覚書に署名 |
など、具体的な対策案を提示。それに対し、住民やNGOからも質問・意見が出され、対策案の修正が行なわれました。最終的にできた対策は会合の最後に「覚書」としてまとめられ、各出席者の署名がなされました。
会合を終えた現地住民・NGOからは、次のようなコメントが聞かれました。
「フィリピン政府側は、これまでにも水管理システムの改善を提案し、『灌漑用水が届くようになる』と約束してきた。しかし、それは口約束に過ぎなかった。今回はその繰り返しにならないことを願う。」
「整地作業に伴う費用の借金返済を免除する仕組みが、具体的に提案されたことは新しい動きで歓迎。ただ、仕組みができたからといって、すぐに解決の進む話ではなく、これからが正念場。」
こうした手離しでは喜べない現地の住民・NGOの心中は、会合の質疑応答の時間にもよく顕れていました。住民の抱えてきた水不足の問題、あるいは、整地作業によって被害を受けた農地の問題について、「長年、問題を訴えてきたにもかかわらず、何も対応がなされてこなかったじゃないか」と、怒りや苛立たしさを顕わにする発言が幾度も見られたからです。この問題が長く放置されてきたことによって、住民のフィリピン政府関係者に対する不信が一筋縄では回復できない程に高まっていることが伺われる場面でした。
現地の住民・NGOへの聞き取りも含めた今回のようなJICAの現地調査により、主な問題点が関係者間で共通認識となり、より具体的な対応策の構築につながってきていることは、歓迎すべき動きだと言えます。今後、こうした動きを着実に前進させ、実質的な問題解決が図られていくよう、長期にわたる継続的なモニタリングとフォローアップがJICAに期待されます。
また、JICAの抱えるもう一つの大きな課題として、忘れてはならないのは、住民が繰り返し訴えてきた同事業の問題への取り組みが、何故ここまで遅れることになったのか、しっかりと教訓化し、今後の援助事業で同様のことが繰り返されない体制づくりが望まれます。
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