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インドネシア・バタン石炭火力発電事業
JBICに「海洋生態系・漁業への被害に対する根本的な問題解決と公的融資停止を求める要請書」を提出
日本の官民がインドネシア中ジャワ州で建設を進めるバタン石炭火力発電事業(J-POWE、伊藤忠商事が出資。2,000 MW)において、工事の浚渫作業により出た土砂が海洋に不法投棄されていた影響で、現地の漁民が甚大な被害を受けているとし、同事業への支援を続ける国際協力銀行(JBIC)に対し融資を止めるべきとの声をあげてきました。
現地の漁民グループが被害状況を一部調べたところ、浚渫土の投棄が始まった2016年12月以降、2019年1月までに少なくとも444の漁網が土に絡まるなどして破損、もしくは、収集不能となっており、漁網の修理費用や新たな漁網の購入費用は、計426,835,000ルピア(約340万円)にのぼっています。こうした漁網被害は、同事業の建設工事が始まる以前はなかったとのことです。
(写真左)2019年4月 建設が進むバタン石炭火力発電所の周辺で漁業をつづける漁民。この日も沿岸から5~15kmにかけて、60~70艘の漁船が見られた。
(写真右)2019年4月 建設現場の浚渫土を海洋投棄場所に投棄して戻る投棄船。漁船のすぐ近くを通ることは日常茶飯事の状況。
これに対し、今年2月、JBICは問題解決のため、事業者が補償金支払いの迅速化や浚渫土の投棄船のGPSデータの開示など7つの対策をとると応じました。
しかし、現場では、過去に不法投棄された浚渫土による漁業被害が依然起きています。これでは、建設作業が終わった後でさえ、漁民への被害はつづくことが懸念されます。
こうした状況を受け、本日、日本のNGO 3団体からJBICに対し、根本的な問題解決が図られるまでの同事業に対する貸付実行の停止と被害の実態把握・原因究明を求める要請書を再度提出しました。
以下、要請書の本文です。 >PDFはこちら
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>前回、2019年3月18日に提出した要請書はこちら
2019年5月10日
国際協力銀行
代表取締役総裁 前田 匡史 様
インドネシア・中ジャワ州バタン石炭火力発電事業
海洋生態系・漁業への被害に対する根本的な問題解決と公的融資停止を求める要請書
海洋生態系・漁業への被害に対する根本的な問題解決と公的融資停止を求める要請書
国際環境NGO FoE Japan
「環境・持続社会」研究センター(JACSES)
気候ネットワーク
「環境・持続社会」研究センター(JACSES)
気候ネットワーク
貴行が融資を継続しているインドネシア・中ジャワ州バタン石炭火力発電事業(1,000メガワット×2基)について、私たちは2019年3月18日付で「インドネシア・中ジャワ州バタン石炭火力発電事業に係る公的融資停止と環境社会影響の実態・原因の究明、説明責任を求める要請書」(以下、前要請書)を提出し、現地漁民グループが報告してきた甚大な漁業被害に対して貴行が事業者にとらせるとした7つの対策が根本的な問題解決につながらない可能性をすでに指摘しました。
それ以降、今日までに現場でみられる状況は、その指摘を裏付けるものとなっていることから、私たちはその状況の詳細を以下に記すとともに、改めて、海洋生態系と漁業への被害に対する根本的な問題解決が図られるまで、貴行が本事業への貸付実行を停止するよう強く要請します。ここで、根本的な問題解決とは、補償金による解決ではなく、事業者が同地域の海の状態を建設作業以前の状態に回復することを意味しています。
まず、事業者による以下の7つの対策の実施について、私たちが把握している状況をお伝えします。
(1)補償に関する説明会の実施
(2)補償手続きの迅速化
(3)補償手続きについてのモニタリング
(4)浚渫土の投棄船に乗船しての状況確認
(5)投棄船の燃料消費のデータ開示
(6)投棄船のGPSのデータ開示
(7)漁村である東ロバン集落にヘルプデスク(窓口)を設置
すでに前要請書でも指摘しましたが、私たちが4月下旬に現地で確認したところ、少なくとも、東ロバン集落の漁民グループについては、これまでにも補償が解決策ではないという姿勢を明確に示してきたとおり、(1)~(3)および(7)の対策を受け入れておらず、これらの対策が機能していない状況が見られます。特に(1)については、貴行もすでにご存知のとおり、2019年3月22日に事業者(BPI)がセゴン村の村庁舎で海洋での活動に関する説明会の実施を試みたものの、失敗に終わりました。漁民グループは説明会の場で事業への抗議の意を示す(「事業に抗議、(私たちの)海には変えられない」等の文字が記されている)横断幕を掲げ、説明会の開始後、数分も経たぬうちに退席したとのことです。
(4)については、西ロバン集落の4名の漁民が乗船をしているようですが、東ロバン集落の漁民グループは、この対策に合意せず乗船はしていません。(5)、(6)については、東ロバン集落の漁民グループによれば、そうしたデータ開示がすでに行なわれているという情報は一切受け取っていないとのことです。
また、私たちが、今月初めに東ロバン集落の漁民グループの青年団体とともに、浚渫土の不法投棄による漁民の被害状況について、再度簡易な調査を行なったところ、これまでに情報の精査が完了した少なくとも5名の漁民のケースについて、以下のような被害の実態が明らかとなっています。(詳細な調査結果は、添付資料1および2を参照のこと。)
・ 前回、同青年団体が2019年1月13日に同様の漁網被害について聞き取りを行なって以降、5月初めまでの約4ヶ月弱の間で18の漁網が破損、もしくは、収集不能になっており、漁網の修理費用や新たな漁網の購入費用は、計17,520,000ルピア(約14万円)にのぼっている。
・ 2019年3月22日に事業者(BPI)がセゴン村で説明会の実施を試みた後も、5月初めまでの約1ヶ月強の間で(上記18のうち)12の漁網が破損、もしくは、収集不能になっており、漁網の修理・購入費用は、計13,270,000ルピア(約10万6,000円)にのぼっている。
ここで貴行に留意していただきたい点は、現地の漁民グループがこれらの数値を提示している目的が、補償を求めることにあるのではなく、これまでに起きている被害や問題状況を証明することにある点です。
そして今回、明らかとされた被害の実態が示唆しているのは、7つの対策など何らかの対策がすでに実施されているであろうなか、仮に、直近での浚渫土の不法投棄がなされていないとすれば、漁網の破損等の被害が出続けている原因が、過去に不法投棄された浚渫土にあるという可能性です。漁民グループの言葉を借りれば、「過去に不法投棄された浚渫土は、潮流によって海洋を往来しており、どこに潜んでいるかわからない。そこに知らずに網を仕掛けて、爆弾に当たってしまうような」もので、依然漁民たちを悩ませているということでした。
こうした状況を考慮すれば、仮に7つの対策がこのまま続けられたとしても、同事業に係る浚渫・投棄作業の完了予定とされる2020年4月以降も、さらには、同事業に係る建設作業の完工以降ですら、漁民への重大な環境社会影響がつづくことは否めません。また、その都度、補償金で解決していくことが根本的な解決とは言えないことも明らかです。
バタンの地で漁民が先祖代々続けてきた漁業は、若者にも受け継がれています。このまま将来にわたり、甚大な漁業被害がもたらされる状況を放置していいはずはありません。漁民グループが求めてきたとおり、事業者が同地域の海の状態を建設作業以前の状態に回復することが、漁民への今後の環境社会影響を回避するために必要とされていることだと私たちは考えます。
したがって、私たちは、前要請書とも重複しますが、貴行が早急に以下のような具体的な対応をとることを再度、強く要請します。
1.同事業に係る浚渫土の過去の不法投棄が原因で、これまでのように漁網への被害や漁業への影響が出続けることが懸念されることから、後段の調査によって問題が生じている根本的な原因が特定された上で、同地域の海の状態を建設作業以前の状態に回復するための実効性のある問題解決策が立案・実施され、問題が有効に解決されたことを確認できるまでは、同事業に対する貴行の貸付実行を停止すること。
ガイドラインでは、「融資契約に基づき、当行の要求に対するプロジェクト実施主体者の対応が不適当な場合には、貸付実行の停止等の当行側の措置を検討する」と規定している。これまで指摘したとおり、すでに2年半もの間、事業者による有効な対策がとられず、漁民への甚大な被害がつづいてきている点を貴行は重く受け止め、毅然とした対応をとるべきである。
2.事業者が同事業に係る環境社会配慮に関して適切な対応をしていると主張するであろう一方、同事業の建設現場周辺において漁網の甚大な被害が漁民グループから報告されている実態から、同事業の建設作業以前にはなかった漁網に絡まる土の由来が何であるか、そうした被害が生じている根本的な原因を究明・特定すること。また、建設作業以降の漁民(漁場の制限や漁場までの経路、漁獲量等を含む)や海洋生態系(サンゴ礁等を含む)への影響の実態を把握する調査を行ない、それらの影響の原因も精査・特定すること。
ガイドライン上、貴行によるモニタリングに関しては、「必要に応じ、当行が自ら調査を実施することがある」との規定があることから、同事業によるこれまで2年半にわたる、また、将来にわたっての漁民への重大な環境社会影響に鑑みて、貴行は自らが調査を行なうことを検討すべきである。
3.前段の漁業・海洋生態系に対する影響の実態や原因に関して、漁民への説明責任を果たすこと。また、事業者による対策の立案・実施・モニタリングにおいて、適切な住民参加が確保され、実効性のある問題解決策となるよう確保すること。
以上
【連絡先】
国際環境NGO FoE Japan
〒173-0037 東京都板橋区小茂根1-21-9
Tel:03-6909-5983 Fax:03-6909-5986
Cc: 財務大臣 麻生 太郎 様