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インドネシア・バタン石炭火力発電事業
建設作業で漁民に甚大な被害
― 国際協力銀行(JBIC)に融資停止と被害の実態・原因の究明を求める要請書を提出
国際協力銀行
代表取締役総裁 前田 匡史 様
インドネシア・中ジャワ州バタン石炭火力発電事業に係る
公的融資停止と環境社会影響の実態・原因の究明、説明責任を求める要請書
公的融資停止と環境社会影響の実態・原因の究明、説明責任を求める要請書
国際環境NGO FoE Japan
「環境・持続社会」研究センター(JACSES)
気候ネットワーク
「環境・持続社会」研究センター(JACSES)
気候ネットワーク
貴行が融資を継続されているインドネシア・中ジャワ州バタン石炭火力発電事業(1,000メガワット×2基)については、主に生計手段への影響を懸念する農民・漁民が建設前から強い反対の声を上げてきました。現在、生計手段への影響が現実のものとなっているなか、特に漁民からは、バタン県内における貴行との面談の機会、および、貴行宛ての書簡を通じて、建設作業が開始されて以降の漁業への実際の影響が指摘され、同事業への貸付実行を貴行が停止するよう繰り返し要請がなされています。
まず、2016年12月13日、貴行が現地モニタリングを実施した際のバタン県内における面談において、東ロバン集落の漁民グループが、同事業の建設作業に伴い出る浚渫土を事業者が海洋の指定された場所でない地点に不法投棄しているため、沿岸に近い漁場でも漁網が破損するなどの被害が出ていることについて報告し、同事業の中止と貴行の貸付実行の停止を求めました。また、2018年12月20日に同様の面談がバタン県内で開かれた際にも、同漁民グループは貴行に対し、浚渫土の不法投棄が続いており、漁網が不法投棄された浚渫土に絡まり破損したり、収集不能になるなど、甚大な被害が出ていることを報告。こうした状況がすでに2年近く続いていることから、すでに事態の改善の段階ではなく、貴行が同事業への貸付実行を停止する段階であることを厳しく指摘しました。
さらに、同漁民グループの青年団体からは貴行に対し、要請書(2019年1月14日付)、および、浚渫土の不法投棄による漁民の被害状況を詳細に記した情報が提出されました。同情報によれば、これまでに情報の精査が完了した少なくとも62名の漁民のケース(64名の記載情報のうち、漁網ではない漁具の破損等が含まれている2名を除いたもの)について、以下のような被害の実態が報告されています。
・ 2016年12月から2019年1月までに444の漁網が破損、もしくは、収集不能になっており、漁網の修理費用や新たな漁網の購入費用は、計426,835,000ルピア(約340万円)にのぼる。
・ 2018年8月20日付で、全インドネシア漁業者協会(HNSI)バタン支部が事業請負会社との間で浚渫と投棄に係る合意文書を締結した後も、(上記444のうち)224の漁網が破損、もしくは、収集不能になっており、漁網の修理・購入費用は、計237,425,000ルピア(約190万円)にのぼる。
・ 2018年12月20日に同漁民グループが貴行と面談した後も、(上記444のうち)38の漁網が破損、もしくは、収集不能になっており、漁網の修理・購入費用は、計42,450,000ルピア(約34万円)にのぼる。
このように漁民への甚大な被害が継続して発生していることから、同漁民グループの青年団体は要請書のなかで、補償金が解決策ではないことを確認しつつ、事業者が同地域の海の状態を建設作業以前の状態に回復することを求めています。また、貴行に対しては、再度、漁民への重大な環境社会影響を及ぼしている同事業への貸付実行の停止を要求しています。
一方、貴行は、漁民グループから、こうした長期にわたる漁業への深刻な被害の実態が報告されたことを受け、去る2月21日に開催された第69回財務省・NGO定期協議の場で、本件について、以下のような7つの対策を実施する予定であることを説明されました。
(1)補償に関する説明会の実施
(2)補償手続きの迅速化
(3)補償手続きについてのモニタリング
(4)浚渫土の投棄船に乗船しての状況確認
(5)投棄船の燃料消費のデータ開示
(6)投棄船のGPSのデータ開示
(7)漁村である東ロバン集落にヘルプデスク(窓口)を設置
このように、貴行が地域住民からの環境社会影響の指摘に対し、事業者との協議の場を迅速に設け、何らかの対応を検討されている点は歓迎すべき動きと言えます。
しかし、上記の7つの対策が、漁民グループの求めている形での根本的な問題解決につながるかは大きな疑問が残ります。少なくとも、東ロバン集落の漁民グループについては、補償が解決策ではないという姿勢を上述の要請書でも明確に示していることから、(1)~(3)および(7)の対策を被害を受けている当該住民らが受け入れない可能性があることは否めません。つまり、貴行は、これらの対策が問題解決に向けた実効性のある対策になるとは言い難い状況があることに留意すべきです。
また、同漁民グループが求めている建設作業以前の海の状態への回復を目的とした対策は、上記の7つの対策のなかに一切含まれていません。海の状態回復に向けて、どのような対策が必要であるかを検討するにあたっては、同事業の建設開始以降、すでに海洋生態系等がどのような影響を受けており、その影響の原因が何であるかなどを特定することが肝要ですが、そのための調査の実施などは依然検討すらなされていないと私たちは理解しています。
そもそも、住民の訴えている環境社会影響の問題状況について対策を検討するのであれば、『環境社会配慮確認のためのJBICガイドライン』(以下、ガイドライン)にも規定されているように、その対策の立案・実施・モニタリングにおいて影響を受ける住民の適切な参加を確保すべきです。そうした観点が欠如すれば、事業者や貴行から提示される対策は、問題解決に向けて有効に機能することなく、一方的なものに終わってしまうでしょう。
したがって、私たちは、バタンの漁民がすでに被ってきた甚大な影響に関して、貴行が以下の具体的な対応をとることを強く要請します。
1.同事業に係る浚渫・投棄作業が2020年4月頃まで続く見通しであるなか、これまでのように漁網への被害や漁業への影響が出続けることが懸念されることから、後段の調査によって問題が生じている根本的な原因が特定された上で、実効性のある問題解決策が立案・実施され、問題が有効に解決されたことを確認できるまでは、同事業に対する貴行の貸付実行を停止すること。 ガイドラインでは、「融資契約に基づき、当行の要求に対するプロジェクト実施主体者の対応が不適当な場合には、貸付実行の停止等の当行側の措置を検討する」と規定している。上段で言及した漁民グループが2018年12月に指摘したとおり、すでに2年間、事業者が有効な対策を怠ってきた点を貴行は重く受け止め、毅然とした対応をとるべきである。
2.事業者が同事業に係る環境社会配慮に関して適切な対応をしていると主張するであろう一方、同事業の建設現場周辺において漁網の甚大な被害が漁民グループから報告されている実態から、同事業の建設作業以前にはなかった漁網に絡まる土の由来が何であるか、そうした被害が生じている根本的な原因を究明・特定すること。また、建設作業以降の漁民(漁場の制限や漁場までの経路、漁獲量等を含む)や海洋生態系(サンゴ礁等を含む)への影響の実態を把握する調査を行ない、それらの影響の原因も精査・特定すること。 ガイドライン上、貴行によるモニタリングに関しては、「必要に応じ、当行が自ら調査を実施することがある」との規定があることから、同事業による2年間にわたる漁民への重大な環境社会影響に鑑みて、貴行は自らが調査を行なうことを検討すべきである。
3.前段の漁業・海洋生態系に対する影響の実態や原因に関して、漁民への説明責任を果たすこと。また、事業者による対策の立案・実施・モニタリングにおいて、適切な住民参加が確保され、実効性のある問題解決策となるよう確保すること。
以上
【連絡先】
国際環境NGO FoE Japan
〒173-0037 東京都板橋区小茂根1-21-9
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