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インドネシア・バタン石炭火力発電事業
「国家人権委員会も新たな勧告。日本は公的融資拒否を」 NGOから要請書を提出
国際協力銀行(JBIC。日本政府100%出資)が約21億ドルという巨額の融資を検討中のインドネシア・中ジャワ州バタン石炭火力発電事業(2,000メガワット。総事業費約45億ドル。伊藤忠商事・J-Power出資)は、6月6日、6回目の融資調達期限を迎えます。
その期限を前に、6月1日、日本のNGO4団体(※)から日本政府・JBICに対し、公的融資の供与を拒否するよう求める要請書を提出しました。(※4団体=国環境NGO FoE Japan、インドネシア民主化支援ネットワーク(NINDJA)、「環境・持続社会」研究センター(JACSES)、気候ネットワーク)
同事業は肥沃な農地や豊かな漁場など、生計手段の喪失を懸念する住民、また、土地売却を拒んでいる地権者らの根強い反対により、4年以上、本格着工が遅れてきました。反対派住民や地権者に対する脅迫・暴力・不当逮捕など人権侵害も深刻で、インドネシアの独立した政府機関である国家人権委員会も、度々、人権の状況改善を求める勧告書を出してきました。
この5月11日にも、国家人権委員会は新たな勧告書を発出。今年3月に住民の合意がないまま未収用の農地へのアクセスがフェンスの設置により封鎖され、農民の収穫が妨げられた件(現地の状況を撮した動画:https://youtu.be/0IaRB2ywO88)について、「事業者とコミュニティーの間で、土地のアクセスと使用について、永久的な合意が形成されるまで、コミュニティーが稲やその他の作物を収穫できるよう、農地へのアクセスを提供する」ことを事業者に要請しました。しかし、現在も事業者による適切な対応はなされぬままです。
事業者がフェンスで外周を囲んでしまった事業予定地すぐ傍の水田では、地元住民らによる抗議活動が今も続けられています。また、漁民も5月中旬に地元の海域で始まった事業者による掘削作業に対して、漁場への影響を懸念し、反対の声をあげ続けています。今年5月11日には、約3,500人がジャカルタの日本大使館前で、同事業を含む、日本の支援するインドネシアでの石炭火力発電事業に対して抗議活動を行ないました。
<現地からの写真>
写真左:未収用の農地へのアクセスを遮断したフェンス傍にテントを張り、抗議を続ける住民(2016年4月、現地より)
写真右:5月中旬に海域で始められた掘削作業の様子。漁民らは自分たちの漁場への影響を懸念(2016年5月、現地より)
写真:5月11 日、バタンなど、インドネシア各地の石炭火力発電事業に反対する住民、また、インドネシアの環境団体が日本大使館前で大規模な抗議活動を行なった。参加者は約3,500 人。日本からの融資を行なわないよう訴えた。(2016年5月11日、グリーンピース・インドネシアより)
日本政府・JBICは、インドネシア土地収用法の下での住民の声を無視した強制執行を容認するのではなく、『環境社会配慮確認のためのJBICガイドライン』で融資供与の要件とされている「社会的合意」や「適切な住民参加」が確保されず、また、人権侵害の繰り返されている同事業への融資を拒否することが求められています。
以下、NGOからの要請書です。
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2016年6月1日
内閣総理大臣 安倍 晋三 様
財務大臣 麻生 太郎 様
国際協力銀行 代表取締役総裁 渡辺 博史 様
適切な環境社会・人権配慮が確保されない
インドネシア・中ジャワ州バタン石炭火力発電事業への
公的融資拒否を求める要請書
現在、国際協力銀行(JBIC)が融資を検討中の「インドネシア・中ジャワ州バタン石炭火力発電事業」について、私たちは複数回にわたり、地域住民に対する深刻な人権侵害の状況や『環境社会配慮確認のためのJBICガイドライン』(以下、ガイドライン)に則った適切な環境社会配慮が行なわれていない現状を指摘し、日本政府・JBICに対し、同事業への融資を行なわないよう求めてきました。国際社会からも、同事業に伴う負の環境・社会・気候影響、そして、人権侵害に鑑み、JBICが融資を拒否するよう求める要請書(2016年3月31日付「JBIC must Reject Financing for the Batang Coal-fired Power Plant, Central Java, Indonesia」 42ヵ国230団体署名)が提出されるなど、同事業に対する厳しい目が向けられています。
私たちは、日本政府・JBICがこうした要請に留意し、慎重な融資検討を行なっているものと期待しつつ、同事業の融資調達期限が6月6日に迫るなか、再度、ガイドラインが遵守されていない現地の状況について注意を喚起するとともに、同事業への融資を拒否するよう強く要請するため、同書簡を提出致します。
同事業については、すでに昨年7月29日、影響を受ける地元の農民・漁民が、JBICに異議申立書を手交し、生活悪化や人権侵害等、同申立書の提出時までに同事業が多くの点でガイドラインの規定に違反していることを指摘しました。しかし、それ以降も、住民の合意がないまま未収用地の灌漑設備が国軍工兵隊の重機により破壊されたり、インドネシア国有電力会社(PLN)が「立入・利用は刑法違反の恐れ」がある旨を記した一方的かつ脅迫的な掲示板を未収用地に立てたりと、現地の問題状況は改善するどころか、悪化の一途を辿ってきました。
また直近では、インドネシアの独立した政府機関である国家人権委員会から、事業者に対する勧告書(2016年5月11日)が新たに出されています。同勧告書では、今年3月に住民の合意がないまま未収用の農地へのアクセスがフェンスの設置により封鎖され、農民の収穫が妨げられた件(注1:バタン現地におけるフェンス設置と農民の状況については、右記動画(英語字幕有り)を参照。 https://youtu.be/0IaRB2ywO88)について、「事業者とコミュニティーの間で、土地のアクセスと使用について、永久的な合意が形成されるまで、コミュニティーが稲やその他の作物を収穫できるよう、農地へのアクセスを提供すること」を事業者に要請しています。そして、同問題についてフォローアップがなされない場合には、インドネシアの人権に関する1999年法律第39号第36条第1項、および、第2項で規定される人権を侵害しうると明記しています。
しかし、同勧告の後も、事業者による具体的な施策はとられておらず、結局、現在まで、多くの農民が作物を収穫できないまま、損失を被った形となっています。こうした状況は、国家人権委員会が指摘するとおり、事業者が人権に係るインドネシア国内法に違反していることに他なりません。
さらに、同勧告書のなかでは、同事業に伴い、以前からコミュニティーに対する多くの人権侵害が起きてきたことも再喚起されています。つまり、昨年12月21日付で国家人権委員会が日本政府宛てに提出した書簡のなかでも明記されていたとおり、同事業では、「2013年以降、コミュニティーに対する脅迫や身体的・精神的脅威など、土地買収手続に関するさまざまな人権侵害がみられる」など、民主的なプロセスを著しく妨げる重大な人権侵害が過去に繰り返されてきました。同事業におけるこれまでの住民の合意や計画策定にあたり、ガイドラインの規定する「適切な参加」が確保されている環境になかった点を日本政府・JBICは看過すべきではありません。
いみじくも同勧告書で言及されている『国連 ビジネスと人権に関する指導原則』(注2:正式名称は、『人権と多国籍企業及びその他の企業の問題に関する事務総長特別代表、ジョン・ラギーの報告書―ビジネスと人権に関する指導原則:国際連合「保護、尊重及び救済」枠組実施のために』)では、「人権を尊重する企業の責任」とならび、「人権を保護する国家の義務」が明記されており、輸出信用機関の支援を受けている企業による人権侵害に対する義務も規定されています。同事業の推進にとってJBICの巨額の融資供与が不可欠であることに鑑み、日本政府・JBICは公的融資を供与することによって、第三者であるインドネシア国家人権委員会も指摘している同事業での深刻な人権侵害に加担するのではなく、住民の懸念・意見に真摯に耳を傾け、国際的にも求められている人権保護の義務を果たすべく、毅然とした態度で融資の拒否を決定すべきです。
現場では、事業者が設置したフェンス傍で、反対派住民が3月下旬からテントをつくり、そこで今日まで事業反対と土地売却反対の意思を示し続けています。また、漁民も5月中旬に地元の海域で始まった事業者による掘削作業に対して、漁場への影響を懸念し、反対の声をあげ続けています。今年5月11日には、約3,500人がジャカルタの日本大使館前で、同事業を含む、日本の支援するインドネシアでの石炭火力発電事業に対して抗議活動を行ないました。
このように、同事業に対する「社会的合意」形成がしっかり確保されていない状況のなか、インドネシア土地収用法の下での住民の意思を無視した強制執行を JBIC が容認し、同事業への融資を行なうことは、 JBIC のガドラインに違反しているばかりでなく、 JBIC 自身、また、 JBIC ガイドラインへの否定的な評価につながるでしょう。
これまでの要請書の繰り返しになりますが、JBICガイドラインでは、「環境レビューの結果、適切な環境社会配慮が確保されないと判断した場合は、適切な環境社会配慮がなされるよう、借入人を通じ、プロジェクト実施主体者に働きかける。適切な環境社会配慮がなされない場合には、融資等を実施しないこともありうる。」と規定されています。現在、同事業の融資調達期限が6月6日に迫るなか、JBICも決断を迫られる時期に来ていることが想定されますが、JBICがガイドラインの同規定にもあるとおり、環境レビューの結果を融資の意思決定に反映し、同事業への融資を拒否するよう強く要請致します。
以上
国際環境NGO FoE Japan
インドネシア民主化支援ネットワーク(NINDJA)
「環境・持続社会」研究センター(JACSES)
気候ネットワーク
【連絡先】
国際環境NGO FoE Japan(担当:波多江秀枝)
〒173-0037 東京都板橋区小茂根1-21-9
Tel:03-6909-5983 Fax:03-6909-5986
Cc:
国際協力銀行 環境ガイドライン担当審査役 早瀬 隆司 様、松尾 弘 様
伊藤忠商事株式会社 代表取締役社長 岡藤 正広 様
電源開発株式会社(J-POWER) 取締役会長 前田 泰生 様
電源開発株式会社(J-POWER) 取締役社長 北村 雅良 様
株式会社三井住友銀行 頭取兼最高執行役員 國部 毅 様
株式会社みずほ銀行 取締役頭取 林 信秀様
株式会社三菱東京UFJ銀行 頭取 小山田 隆 様
(以上)
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