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インドネシア・バタン石炭火力発電事業
国会審議 「繰り返される人権侵害。JBICは融資中止の決断を」(2016年3月23日)
国際協力銀行(JBIC)が約21億ドルという巨額融資を検討中のインドネシア・中ジャワ州バタン石炭火力発電事業(伊藤忠、J-POWER出資)の問題に関し、3月23日、参議院・財政金融委員会で質疑が行なわれました。
質疑のなかでは、倉林明子 参議院議員(日本共産党)が、同事業に伴い地元住民への人権侵害が繰り返されており、インドネシア国家人権委員会からも日本の首相宛てに慎重な融資検討を求める書簡が届いていることなどを指摘。また、JBICの働きかけにもかかわらず、適切な環境社会配慮がなされていない同事業への融資を中止するよう求めました。
これに対し、JBIC渡辺博史総裁からは、「JBICは現時点でまだ融資決定を行っているわけではない。指摘された状況もあり、(環境社会配慮確認のためのJBIC)ガイドラインにおいても、状況に応じて、相手国、あるいは、借入人、プロジェクト実施主体者との対話を行うということになっているので、JBICとしても、本案件に係る環境社会配慮確認を引き続き継続して行ない、最終的に判断したい。」との答弁がなされました。
同事業は生計手段の喪失や健康への影響を懸念する地元の農民・漁民が根強く反対運動を続けていること、また、約60名の地権者が土地売却を拒んでいることから、4年以上着工が遅れています。反対派住民のリーダーや地権者に対する脅迫・嫌がらせ・不当逮捕など、さまざまな人権侵害も指摘されてきました。
また、この3月には、土地売却を拒んでいる農民らが未売却の農地での耕作を継続しているなか、事業者・インドネシア政府は土地収用法の下で強制執行をしようと、農地へのアクセス経路を一方的に遮断し始めています。農民との対話を求める姿勢はまったく見られません。
4月6日の同事業の融資調達期限を目前に控え、3月初頭にはJBICが現地調査を行ない、事業者に人権配慮を求めたばかりですが、その直後に起きているこうした人権侵害は、反対派住民に対する事業者の人権配慮が明らかに欠如している証左とも言えます。JBIC環境社会ガイドラインに則った適切な環境社会配慮を実行しようという事業者側の意思が明らかに欠如している同事業に対し、融資拒否という賢明な判断をとることがJBICに求められています。
以下、2015年3月26日の参議院・財政金融委員会での質疑内容です。
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参議院・財政金融委員会(2016年3月23日)
>ウェブTVの映像はこちら [発言部分 04:06:00~]
https://www.webtv.sangiin.go.jp/webtv/index.php
●倉林明子 議員(日本共産党):
現在、JBICが融資検討中のインドネシア・バタン石炭火力発電事業について、発電所規模、事業額、JBIC検討融資額の規模はどうなっているか。
●国際協力銀行 代表取締役総裁 渡辺 博史:
インドネシア共和国中ジャワ州バタン県に2,000MWの超々臨界圧の石炭火力発電を行なう事業。
現時点での総事業コスト見込みは45億米ドル。約21億米ドルの融資がJBICに期待されている。
●倉林議員:
226.4ヘクタールの極めて広大な土地、東京ドーム48個に匹敵する。農地ではコメ年3回収穫が可能で、ジャスミンも年中収穫が可能。極めて肥沃な農地。先祖代々受け継がれてきた農地。予定地に面した海も有数の漁場。生計手段の喪失につながるという懸念から、同事業には当初から反対の声があがってきた。反対派住民をはじめ、これまでJBICに対し、どのような要請、働きかけがあったか。
●渡辺JBIC代表取締役総裁:
現地の反対派住民からJBICには、本事業への反対意見が表明され、JBICには融資中止要請がある。また、インドネシア国家人権委員会から、首相、衆議院議長宛てに、2015年12月21日付で、同事業に関し、同委員会としての人権侵害等に関する懸念事項について記載された書簡が送られており、JBICも写しを受領した。
●倉林議員:
2011年から現地で反対運動が起こり、2015年には来日し、JBICに直接異議申立てもされている。JBICは、こうした要請を受けて、現地にも行き、反対派住民からも直接2回聞き取りを行ない、現地の確認もした。現地の反対派住民との聞き取りの際に配慮したことは何か。反対派住民の直近の訴えは何だったか。
●渡辺JBIC代表取締役総裁:
何度か直接住民と話したが、JBIC関係者が3 月当初に訪問した際は、県庁・警察等を含む事業・政府関係者を同席させないで話したいということだったので、そのような形の面談をアレンジした。その場で、改めて、住民の方々から本事業への融資を中止するよう要請があった。
●倉林議員:
JBICも人権侵害に対する事案を懸念して配慮をしたということが、住民からも感謝されているということだが、JBICから(事業者に)人権侵害がないように指導してもらっているのに、農地に入れない、塀で囲われてしまわれた。こちらからも、農地アクセスを確保してもらってほしいと再三言っているのに、再々ふさがっている。今日確認したところでも、JBICに指導を受けて開けたものが、また閉ざされている。今後立ち入ってはならないという貼り紙までされている。国家人権委員会が、2012年から複数回にわたり、人権侵害があるから改善しろと勧告を行なっており、さらに、先程の(12月21日付)レターでも人権を重視して、慎重な融資検討を求めると首相、国会に寄せられた。レターに6項目あるが、その3項目を紹介してほしい。
●渡辺JBIC代表取締役総裁:
フェンスの件につきまして、今日現在、4箇所開口部があり、ゲートを見ている人間はいるが、そこに行けば入れる。ただ、3月24日以降は、整備のために、これで立ち入りを中止させてもらうという貼り紙がされているというのが議員のご指摘の点かと思う。
人権委員会のレターの該当部は、「2013年以降、生計手段を同地域(事業地)に依存する地元住民、地権者、小作、農業労働従事者、漁民、および、その他のコミュニティー・グループに対する脅迫や身体的・精神的脅威など、土地買収手続に関するさまざまな人権侵害がみられる。」
●倉林議員:
インドネシア人権委員会として、人権侵害の事実を確認しているということ。また、予定地が同事業に適した用地ではないともレターのなかで指摘している。これは重大なこと。
JBICは環境社会配慮確認のためのガイドラインを定めているが、大臣は、当委員会で昨年3月に答弁しており、財務大臣は、「JBICがこのガイドラインに則って、引き続き、現地住民の声をよく聞きつつ、適切に環境社会配慮確認を行なうよう監督していきたい」と答弁している。このスタンスに変わりはないか。
●麻生財務大臣:
はい。
●倉林議員:
ガイドラインでは、環境社会配慮の適切性を確認する基準について、相手国の政府が定めた法制度の遵守以外にも、さならる基準を設けている。その部分を紹介してほしい。
●渡辺JBIC代表取締役総裁:
環境社会配慮確認のためのガイドラインの該当条項では、
1.相手国及び当該地方の政府等が定めた環境に関する法令や基準等を遵守しているかどうかを確認し、また、環境に関する政策や計画にそったものであるかどうかを確認する。
2.環境社会配慮等に関し、プロジェクトが以下の基準と適合しているかどうかを確認する。
世界銀行のセーフガードポリシーまたは国際金融公社(IFC)のパフォーマンススタンダード
ただし、当該プロジェクトが(i)リミテッドリコースまたはノンリコースのプロジェクトファイナンス案件の場合、(ii)プロジェクトファイナンス類似のストラクチャードファイナンス案件の場合、(iii)プロジェクトの主要な部分を構成する他の金融機関がIFC のパフォーマンススタンダードを採用している場合及び(iv)その他適切と認める場合には、IFC のパフォーマンススタンダード
3. 適切と認める場合には、他の国際金融機関が定めた基準、その他の国際的に認知された基準、日本等の先進国が定めている基準またはグッドプラクティス等をベンチマークとして参照する。環境社会配慮のあり方が、それらの基準やグッドプラクティス等と比較検討し、大きな乖離がある場合には、相手国(地方政府を含む)、借入人、および、プロジェクト実施主体者との対話を行い、その背景・理由等を確認するとともに、必要に応じ、対応策を確認する。
●倉林議員:
現地では、土地収用法に基づく強制執行が始まっている。非常に緊迫した状況になっている。相手国の法令上認められるという行為であっても、JBICの環境社会配慮基準からみて、重大な問題があると言わざるを得ない。環境レビュー結果は、融資等の意思決定に反映するとあり、適切な環境社会配慮がなされない場合は、融資を実施しないこともありえるとある。これは当然のこと。度重なる人権委員会からの勧告、そしてJBICからの働きかけにもかかわらず、人権侵害が繰り返されている。極めて重大だと言いたい。何度か延長してきたこの融資調達期限が、いよいよ、4月6日に迫っている。度重なるJBICの働きかけにもかかわらず、適切な環境社会配慮がされていないと言える。このような状況を踏まえれば、この事業への融資については、中止の決断をするときではないか。
●渡辺JBIC代表取締役総裁:
JBICとしては、現時点において、まだ融資決定を行っているわけではない。委員がご指摘のような状況もあるし、ガイドラインにおいても、状況に応じて、相手国、あるいは、借入人、および、プロジェクト実施主体者との対話を行うということになっているので、JBICとしても、本案件に係る環境社会配慮確認を引き続き継続して行ない、最終的に判断したい。
●倉林議員:
石炭火力については、COP21を受けて、各国で気候変動対策としての規制強化の動きが加速している。CO2を増やすのが石炭火力発電所。その投資そのものから撤退することも強く求めて終わる。
(以上)