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インドネシア・バタン石炭火力発電事業
現場でつづく人権侵害
「立入・利用は刑法違反の恐れ」?――事業者側が未収用の農地に掲示
2016年1月26日
日本が官民を挙げて推進しようとしている東南アジア最大級となるインドネシア・バタン石炭火力発電事業(発電容量2,000MW。総事業費約4,800億円)の予定地では、土地の売却を拒んでいる地権者約60名の農地で、依然として農民によるコメ作りなどが続けられています。
しかし、1月半ばまでに、ほとんどの未売却の農地内に「事業地内の立入・利用は刑法により罰せられる可能性がある」と記載された掲示板が立てられました。同掲示板の設置作業は、インドネシア国有電力会社(PLN)の労働者によって行なわれましたが、農作業のために現場を訪れた一部農民が、「掲示板を立てるのを止めるよう」労働者に直接抗議したところ、後日、事業者であるビマセナ・パワー・インドネシア社(BPI:伊藤忠・J-Power出資)の警備要員がPLN労働者を護衛するなか、掲示板設置の作業が続行されたとのことです。
<現地から寄せられた写真>
(写真)ほとんどの未売却地の敷地内に立てられた掲示板。「火力発電所地域の土地に入る、かつ/または、利用すると、刑法で処せられる可能性がある。刑法167条 禁固9カ月、刑法389条 禁固2年8カ月、刑法551条 罰金。インドネシア国有電力会社(PLN)」と記載されている。(2016年1月19日)
こうした未売却地の敷地内での掲示板設置は、
・未売却地の地権者の合意を得ていないこと
・土地収用法適用の可否に関する行政裁判の最高裁評決は依然出ておらず、土地収用も完了していないこと
から、違法行為の可能性が非常に高いと考えられます。
また、掲示板の記載内容は、地権者・農民にとって、「何も植えるな」という脅しに等しい内容です。昨年から、
・買収済みの土地でインドネシア国軍の重機による整地・盛土作業が始まって以来、すでに灌漑用水を十分に確保できなくなった農地も多い
・事業予定地の周囲を2メートル高のフェンスで囲われてしまったため、農地へ行くにも大きく迂回を余儀なくされる
など、すでにさまざまな悪影響を被ってきた地権者・農民ですが、今回の掲示板は、彼らへの更なる精神的圧力となっており、未売却地での農業の継続は非常に厳しい状況に追い込まれています。
<現地から寄せられた写真>
(写真 左)事業予定地の周囲に2メートル高のフェンスが立てられたため、農民のなかには、自分の家から未収用の農地に行くため大きく迂回しなくてはならず、農地へのアクセスにも影響が出ている。(2016年1月6日)
(右)整地作業とともに、盛土を一層高くされ、未売却地へ灌漑用水を引くのも一段と難しい状況になっている。(2016年1月19 日)
同事業については、2015年12月下旬に、インドネシア国家人権委員会が日本政府に対し、さまざまな人権侵害を指摘し、国際協力銀行(JBIC)による融資供与を慎重に検討するよう要請を行なったばかりです。上述のような地権者・農民に対する深刻な人権侵害が現場でつづくなか、JBICは再現地調査等を通じた早急な事実確認を行なうとともに、『環境社会配慮確認のためのJBICガイドライン』に則った形で事業者の環境社会・人権配慮に改善が見られない場合には、融資を供与しないことも含めた賢明な判断が求められます。
(以上)
※インドネシア・バタン石炭火力発電事業に関する詳細はこちら
https://www.foejapan.org/aid/jbic02/batang/index.html