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インドネシア・バタン石炭火力発電事業
土地収用を完了せぬまま「建設開始」?
日本の官民は人権侵害を食い止め、住民の声に耳を傾けるべき
2015年8月31日
プレスリリース
日本の官民が連携して推進しようとしている「インドネシア・中ジャワ州バタン石炭火力発電事業」は、農地や漁場など生計手段への影響を懸念する住民が強い反対の声をあげ、土地収用が難航。3年間、着工が延期されてきましたが、8月28日、ジョコ・ウィドド大統領が事業予定地を訪問し、「建設開始(kick off construction)」が宣言されました。
しかし、現時点でも土地収用、融資調達といった不確定要素は残されており、実際に事業を進めていける状況にあるかは、極めて疑問です。
懸案である土地収用については、現在も約70名の地権者が土地売却を拒んでいる他、8月中旬には、土地収用法に基づく手続の違法性を問う行政裁判も地権者によって起こされています。この裁判により、少なくとも、今週から始まる複数回の公判が終わり、判決の出る10月初めまで、土地収用法に基づく手続は進めらない状況が続くことになります。
これは、事業者が融資調達期限(10月6日)までに土地収用を完了することを困難にするものであり、したがって、事業者と国際協力銀行(JBIC)との融資契約が同期限までに結ばれる可能性も極めて低いことを示しています。
一方、現地では、(事業推進派に雇われたと思われる)チンピラが真夜中に地権者の家を訪れ、土地を売却するよう脅迫するなど、深刻な人権侵害が続いています。また、8月28日に現場を訪れた大統領に事業反対の声を伝えようとした反対派住民らは、軍・警察の高圧放水を受け、式典の場所に近づくことすら許されませんでした(下記写真を参照)。
同事業に出資する電源開発(J-Power)、伊藤忠、また、同事業への融資を検討中のJBICは、不確定要素の大きい同事業を実際に進められる段階にあるのかを精査するとともに、住民の反対の声を抑圧的な手段でかき消し、違法な形で土地収用が進められようとしている現場の状況を重く受け止めるべきです。日本の官民に今求められているのは、「建設開始」ではなく、土地売却の強要など、深刻な人権侵害をまず食い止め、住民の同事業に対する懸念・反対の声に耳を傾けることです。
<2015年8月28日に現地から寄せられた写真>
反対派住民は、地上での抗議アクションの許可を警察から得られなかったため、海上から漁船で事業予定地に入り、大統領に事業反対の声を届けようとしたが、海軍や警察のパトロール船から高圧放水を受け、「建設開始」の式典に近づくことすら許されなかった。このように、住民の声は無視されたままの「着工式」となった。
以下、グリーンピース・インドネシアのプレスリリース(和訳)をご紹介します。
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バタン発電所の建設開始、合法性に疑問
プレスリリース
2015年8月28日
バタン/ジャカルタ発―インドネシア共和国内閣官房のウェブサイトで公表された情報によれば、ジョコ・ウィドド大統領は中ジャワ州バタン県の石炭火力発電所の建設開始を宣言した。
グリーンピースは、この懸案であるバタンの巨大汚染エネルギー事業について、事業者がジョコ・ウィドド大統領に着工式を行なうよう後押ししたことに遺憾の意を表明する。
官民連携事業である同石炭火力発電所の費用は、民間の投資家によって賄われるが、56兆ルピアという総事業費の主な融資先としては日本の国際協力銀行(JBIC)が予定されている。同石炭火力発電事業は、事業周辺の住民が強く反対し、また、地権者が土地売却を拒んでいることから、4年近くにわたり遅延してきた。
BPI(ビマセナ・パワー・インドネシア)社はこれまでに3回、融資合意のプロセスである融資調達期限を守ることができなかった。というのも、BPIは、融資調達に必要な要件の幾つかを満たしていないためである(主要なものとして、土地収用が未完了であることが挙げられる)。
「同事業の着工、あるいは、開始は、融資調達の手続完了後にのみできるものです。そして、融資調達はBPI社による土地収用の完了後にのみできるものです。」グリーンピース・インドネシアの気候・エネルギー担当であるアリフ・フィヤントは述べた。
「今日まで、地権者が保持している土地は約20ヘクタールあります。ジョコ・ウィドド大統領は、同事業に反対しているバタン住民の要望に耳を傾けるべきです。ジョコ・ウィドド大統領は企業の利益より、バタン住民の権利を優先すべきです。バタン住民の安全と利益は投資や開発の名において、犠牲にされるべきではありません。」と彼は付け加えた。
土地が唯一の生活の糧であるとし、依然として土地を保持し続けている地権者は、今日まで約数十人いる。
「率直に言って、私はジョコ・ウィドド大統領にとても失望しました。以前、私たちは彼を(選挙で)選びました。石炭火力発電所の建設に反対するバタン住民の声を聞くという彼の約束を信じたからです。しかし、今、ジョコ・ウィドド大統領は村を訪問し、同事業を開始するとまで言いました。私は同催しの場所に近づくことさえ許されませんでした。それでも、私は自分の土地を守り続けます。」カランゲネン村の住民で、事業に反対している地権者の一人であるチャヤディ氏は述べた。
土地収用手続が完了していないことに加え、融資調達手続が完了していないことに関連して、バタン住民は、JBIC内のメカニズムを利用して、彼らがJBICに対して行なった異議申立ての結果を待っている。
また、バタン住民は、同石炭火力発電所の建設に伴う土地収用の地域選定に関連した中ジャワ州知事の布告に対し、裁判を起こしている。
「ジョコ・ウィドド大統領は、彼のスタッフから誤情報を与えられているのではないでしょうか。同石炭火力発電所の着工は、さまざまな要件が満たされていないことから、合法だと言えないばかりか、国際的にも彼の評判を落とすリスクを伴っています。」とアリフ・フィヤントは付け加えた。
連絡先:
Arif Fiyanto, Climate and Energy Campaigner of Greenpeace Indonesia: 0811-180-5373
Rahma Shofiana, Media Campaigner of Greenpeace Indonesia
(以上)
※インドネシア・バタン石炭火力発電事業に関する詳細はこちら
https://www.foejapan.org/aid/jbic02/batang/index.html