市民参加もなくゆがんだ審議会プロセスに異論多数、エネ基・NDC案にパブリックコメントを!
パリ協定にもとづき、各国は2025年2月までに、2035年に向けたNDCを国連に提出する必要があります。日本の次期NDC(国別貢献、気候変動目標)をめぐる議論が、エネルギー基本計画の議論と並行して行われ、12月24日に最終議論となる第9回会合が開かれました(*1)。
*1 中央環境審議会地球環境部会2050年ネットゼロ実現に向けた気候変動対策検討小委員会・産業構造審議会イノベーション・環境分科会地球環境小委員会中長期地球温暖化対策検討WG 合同会合
https://www.env.go.jp/council/06earth/yoshi06-24.html
議論のプロセスについて
このNDC策定議論のプロセスと内容ついて、11月25日以降大きな議論が起きました。今回、2035年・2040年の削減目標について、事務局案が出されたのは6月から開始した議論の終盤、11月25日の第6回会合においてで、しかも会議終了の30分前に委員への事前共有なしに配布されたとのことでした。
複数の委員が、審議会での議論のあり方について、「一人3分の意見表明を順に行うだけで議論ではない」などと改善を求めていました。12月19日、20日、24日と異例の過密スケジュールで開催された第7回~第9回会合では、それらの問題提起を受け、「直線」での削減という事務局案に対する賛否両論が議論されました。また、事務局案よりもより大きな削減に踏み込んだWWFジャパン、IGESのシナリオも追加で紹介されました。本来であれば、もっと初期の段階で事務局案を提示し、数か月かけて議論を行うべきだったのではないでしょうか。
ただ、12月19日以降の会合で、事務局案への明確な反対意見が複数出され、双方向的に議論がたたかわされていたことは、ほかの審議会では(残念ながら)なかなか見られない光景でした。24日の会合は1時間程度延長され、最後まで平行線の議論が続いたのち、「事務局提案で今後のプロセスを進める」ということがまとめられました。
次期NDC案の内容について
提示された事務局案は、2013年度比で2035年に60%削減、2040年73%削減というものです。2013年は、日本の温室効果ガス排出量がもっとも多かった年であり、2019年度比ではそれぞれ51%、67%となります。
政府案は、現在の状況と2030年の46%削減、そして2050年ネットゼロとを直線で結んだ線上の数字である。温室効果ガスは、一度排出されれば大気中にとどまり、その累積量が増えれば増えるほど気候変動を悪化させ、災害等の激甚化のリスクを高める。今すぐに対策を行い、排出量を減らす必要がある。そのためには、「上に凸」「直線」ではなく「下に凸」つまりより早期に大幅な削減を行えるかが決定的に重要です。
IPCCは、1.5℃目標を目指すには、2035年までに全世界で2019年比60%以上の削減が必要だとしており、この水準と比べても不十分な目標です。また、先進国であり世界第5位の温室効果ガス排出国である日本には、さらなる削減が本当は必要です。独シンクタンクClimate Action Trackerは、日本は2013年比で81%(吸収源あり、吸収源なしで78%)の削減が必要だとしています(*2)。先進国としての歴史的責任に鑑みれば、81%よりもさらに大きな削減が求められるのが本来です。
*2 Climate Action Tracker「1.5-aligned 2035 targets for major emitters and Troika countries」、2024年11月 14日 https://climateactiontracker.org/publications/the-climate-crisis-worsens-the-warming-outlook-stagnates/
同、日本に関するページ:https://climateactiontracker.org/countries/japan/2035-ndc/
気候正義を実現するNDCとエネルギー基本計画を
一方、エネルギー基本計画は、気候変動目標の議論の少し前、12月17日に原案が発表されました。原子力・化石燃料に大きく依存した内容です。電力需要も現在と同程度から、1.1倍以上(1.08億kWh)へと延びる可能性がしめされています(2022年度は約9240億kWh)。2040年に向けたエネルギーミックスとして原子力約2割、火力3~4割、再エネ4~5割という目安が示されています。12月25日の会合ではさらに、再エネがこれより伸びない場合に火力がさらに増える可能性も示されました。
この計画がベースとなる限り、気候変動目標の強化は不可能です。気候変動や再エネについてほとんどもしくはごく限定的にしか語られることのなかった基本政策分科会の議論が、実質的に上位に位置づけられている状況こそ、大きな問題です。。基本政策分科会では産業界・電力業界に近い立場の委員が多数を占め、気候変動対策や脱原発を求める市民の声や、環境NGO、再生可能エネルギー普及に関わる団体等の声は議論に反映されませんでした。
現行の政策を180℃転換し、原子力および化石燃料からの脱却、省エネ・エネルギー効率の改善とともに、公正で公平な再エネ社会を目指すことが気候正義の実現への道筋です。
12月27日から、以下の3つのパブリックコメントが呼びかけられています。
年末年始をはさみますが、ぜひ一緒に声をあげていきましょう。
・エネルギー基本計画案(2025年1月26日23時59分〆切)
https://public-comment.e-gov.go.jp/pcm/detail?CLASSNAME=PCMMSTDETAIL&id=620224019&Mode=0
・地球温暖化対策計画案(2025年1月27日0時0分〆切)
https://public-comment.e-gov.go.jp/pcm/detail?CLASSNAME=PCMMSTDETAIL&id=195240104&Mode=0
・GX2040ビジョン案(2025年1月26日23時59分〆切)
https://public-comment.e-gov.go.jp/pcm/detail?CLASSNAME=PCMMSTDETAIL&id=595224049&Mode=0
・ワタシのミライ「パブリックコメントを書こう!」
・FoE Japan「第7次エネルギー基本計画、地球温暖化対策計画に向けた提言」
(吉田明子)