最近稼働した原発の建設コストは?…今や数兆円は当たり前、当初予算の数倍に膨張も
原発の建設費用は今や数兆円。しかも、当初の予算額の数倍に達することもめずらしくありません。
具体的に見てみましょう。
2023年に本格稼働を開始したフィンランドのオルキルオト原発3号機(出力160万キロワット)。建設期間が16年以上に及び、当初計画よりも12年も延長しました。当初見積もられていた建設費用は30億ユーロ(4,800億円)でしたが、実際にはその3倍以上の110億ユーロ(1兆7,000億円)にも達しました(注1)。
2023年7月と2024年4月に相次いで稼働したアメリカのボーグル原発3、4号機(出力110万キロワット)。スリーマイル島原発事故後、アメリカの原子力規制委員会が30年ぶりに建設許可を出した原発として原子力産業界の期待を集めました。2013年に着工しましたが、工事は何度も遅延し、総工費は当初計画の2倍以上の計310億ドル(約4.4兆円、一基あたり約2.2兆円)にまで膨らみました(注2)。これはウエスチングハウス(WH)の経営破綻につながり、当時WHの親会社であった東芝は債務超過に陥る事態となりました。
ボーグル原発の建設費の膨張は、各世帯の電気代に転嫁されました。毎日新聞の連載「原発・出口なき迷走 米国編/1 電気代、年間100万円 怒り(その2)安価な電力“神話”は昔」(2024年9月30日)では、値上げが住民を直撃した状況をつぶさに報じています。驚くことに、同原発では、特例措置により、完成前から建設費の一部を電気料金に上乗せされており、1世帯平均で累計約1000ドル(約14万円)も支払われてきたというのです。そういう意味では、今日本で検討されているRABモデルの制度を先取りしたともいえます。
フランスのフラマンビル原発は、2007年に着工しました。もともと2012年に完成予定でしたが、さまざまなトラブルが発生。工事が大幅に遅れ、17年後の2024年9月に稼働しました。建設予算は30億ユーロ程度でしたが、総費用は132億ユーロ(約2.1兆円)に達しました(注3)。
イギリスで建設中のヒンクリーポイントC原発でも、工事がどんどん遅延しています。2016年5月当時、EDFエナジー社は2基で180億ポンドと試算していましたが(注4)、2024年1月段階では、総工費は310~340億ポンド(約5.8~6.4兆円)に増加しました(注5)。当初2025年までの運転開始を予定していましたが、2030年前後に延期されました。物価上昇率を考慮すれば、一基当たり約4.6兆円になると見込まれます(注6)。
ちなみに、日本政府の「発電コスト検証ワーキンググループ」では各電源の発電コストを検証していますが、原発の発電コストの前提としては、原発建設費用+追加安全コストとして、6,169億円としています(注7)。これは最近の世界の原発の建設費からみると、かなりの過小評価となっています。(満田夏花)
注1)Schneider, Mycle; Froggatt, Antony (1 September 2019). “The World Nuclear Industry Status Report 2019“
注2)毎日新聞オンライン(2024年9月30日)「原発・出口なき迷走 米国編/1 電気代、年間100万円 怒り(その2) 安価な電力“神話”は昔」
注3)日経新聞(2024年9月4日)「フランスで新型原子炉が稼働 着工から17年」
注4)Hinkley Point C project cost | EDF (edfenergy.com)
注5)原子力産業新聞(2024年1月31日)「英HPCプロジェクト コロナ禍の影響で遅延」
注6)原子力資料情報室 松久保肇氏試算。「共同記者会見:巨額の原発新増設コストを国民からこっそり徴収? 新制度(#RABモデル)の導入やめて 署名立ち上げ」(2024年9月18日)など