JERA武豊石炭火力発電所の火災・爆発事故から4カ月、住民説明会で批判続出 事故原因に尽きぬ疑問

バイオマス2024.7.8

今年1月31日、JERA武豊石炭火力発電所(愛知県)で火災・爆発事故が発生しました。ボイラ室付近が爆発、建屋13F付近から黒煙が上がり、ベルトコンベアに延焼し、倉庫に近い隣の建物にも燃え移りました。火は約5時間にわたって燃え続けました。(写真:JERA武豊石炭火力外観、2024年5月25日筆者撮影。ボイラ建屋上部に今も黒い焼け跡が残る)

この発電所は、バイオマス燃料(木質ペレット)の混焼を行っており、爆発事故はベルトコンベアで木質ペレットを運んでいる際に発生しました。発電所近くには住居も多く、住民の方々が受けた衝撃と恐怖ははかりしれません。

(出典:JERA説明資料2024年5月25日 p.27)

武豊火力発電所が運転開始したのは2022年8月ですが、それからわずか1年半の間に、3回も火災・爆発事故を起こしています。このことも住民の不信に拍車をかけたようです。

JERAから住民に対する説明はなかなか行われませんでした。3月に入って、住民の方々が、区長を通じて説明会を開催するように申し入れ、国会でもこの件が質問されました。事故から4カ月近く経過した5月25日、JERAは、ようやく住民説明会を開催しました。私も傍聴することができたため、簡単に報告いたします。

説明会は武豊町立冨貴小学校にて開催され、130~140人ほどが参加しました。14時から2時間の予定で開始され、前半の1時間は、JERAからの説明にあてられました。(説明資料はこちら

JERAによれば、火災・爆発事故発生の原因は以下のように推定されるとのことでした。

<着火源>
・木質バイオマス用のAバンカ(ボイラに投入する前に一時的に燃料を貯蔵する場所)の上部の投炭装置(ベルトコンベヤで運んできた燃料をバンカに落とす装置)において、燃料を落とすための板(スクレーパ)を支える棒(吊りロット)が低い位置に固定されていた
・燃料をバンカ落とすために、下から昇降台があがってくる仕組みとなっており、上にあるスクレーパ・吊りロットが固定されていたため、結果、ベルトとカバープレートとの間に摩擦熱が発生した。
・カバープレート下部に点検・清掃困難な部位があり木質ペレットの粉塵が堆積していた。
・摩擦熱により、堆積していた粉塵に着火した。
<粉塵濃度>
木質ペレットを高速で大量に輸送していたため、搬送中に微粉化し、搬送流路内で粉塵が増加していた。
・バンカ内部へ投入中、バンカ内部から投炭装置シュートの上部まで粉塵濃度が爆発下限以上に増加していた。

JERA説明資料より)

JERAはまた、今回の説明会は現在までの原因調査結果の説明であり、今後、再発防止対策を検討し、それを再度住民にも説明したいとしました。

休憩ののち参加者との質疑が行われました。

冒頭、司会から一人一問という制限がつけられました。しかし、参加者にはさまざまな疑問がたまっていたようで、一人一問では到底足りず、多くの方々が複数の意見や質問を述べていました。近隣住民のお一人は、5月20日付で23もの質問を提出しており、説明会前日までの文書回答を求めていました。JERAは「説明会にて口頭で説明する」とのことだったそうです。しかし、実際には、これらの質問に関する回答はほとんどありませんでした

参加者の疑問は尽きず、予定終了時間の16:00を過ぎても、会場からは多くの挙手があがっている状況でした。JERA側は15分ほど経過した段階で質疑を打ち切った。

参加者から出された主な意見・質問およびJERAの回答の趣旨は以下の通りです。

参加者からの主な意見・質問JERAの回答趣旨
事故から4カ月たつのにもかかわらず、JERAからの説明がなかった。あまりに対応が遅いし、不誠実。ご心配をかけて心よりお詫びしたい。事故の直後、地元自治体にうかがって謝罪した。事故調査委員会を立ち上げ、丁寧に事故原因の究明を行っていた。
住民に説明すべきという要請書を出したが受け取ってもらえなかった。その日、時間がなかったので対応できなかったが、守衛がうけとった。※要請書を提出した方の話によると、受け取ってもらえなかったので守衛室に置いて行ったとのことです。
文書でたくさんの質問を出した。文書で回答するべき。今日のような説明の場を持った。
武豊火力発電所では運転開始からわずか数年で3回も事故をおこしているが、以前の事故原因については経産省の資料では「推定原因の公表なし」とされている。きちんと検討されていれば、今回の事故は防げたのではないか。前の事故はと今回の事故は違う。過去の火災は機械的な故障が原因であった。
事故調査委員会が、JERAおよび関連企業のみで構成されている。住民もいれた第三者委員会にすべき技術的な知識が必要。第三者として名古屋大学の教授にも入ってもらっている。
バイオマス発電所火災・爆発事故が相次いでいる。経済産業省では、今後、バイオマス設備に関する技術基準のあり方について検討予定としているが、これが発表されるまで稼働すべきではないのではないか。明確な回答なし
少なくとも住民が納得、合意するまで再稼働すべきではないのではないか。今後、再発防止策を示していく。
投炭装置の不具合で着火したということだが、これは設計ミスなのか、施工ミスなのかわからない。
石炭とバイオマスを一緒にベルトコンベアで運ぶというのは危険ではないか。石炭を運ぶときは石炭だけ、バイオマスを運ぶときはバイオマスだけを運んでいる。
木質ペレット自体が、水を含むと自然発火してしまう危険なものであるという説明がないのは不誠実ではないか。今回の発火元はバンカーの上部であり、ここは最終的にボイラに投入する前の段階で1~2日ためておくだけなので、発酵のリスクは少ない
粉塵濃度はどのくらいであったのか。粉塵濃度を常時はかっているわけではない。
武豊火力が動かない場合、夏の電力供給の見通しは?予備率が10%以上あるので、余裕はある。
石炭火力は時代に逆行している。気候変動対策としても一刻も早く閉じるべきではないか。電力の安定供給のために必要。CO2対策をしながら使っていく。
石炭とバイオマスを貯蔵している場所(屋内貯炭場)は、500メートルにもわたって道路沿いに配置されている。自分はすぐそばに住んでいて不安。もっと住居から離れるように動かすべきではないか。(明確な回答なし)

今回の爆発・火災事故の原因は究明されたのでしょうか。また、JERAの住民への説明は十分だったのでしょうか。説明会や住民との質疑を通して、私が感じた問題点をまとめました。

  • 武豊火力発電所が、運転開始からわずか1年半の間に、3回も火災・爆発事故を起こしている。JERAの管理体制、木質ペレットのリスク、石炭火力への混焼に関する根本的な問題をはらんでいるのではないか。
  • 火災・爆発事故に関しては、なぜ投炭装置の吊りロットが低い位置で固定されていたのか、設計ミスか施行ミスかは明らかではない。
  • 粉塵濃度がなぜ上昇していたのか不明。高速でベルトコンベアを動かしていていたため、木質ペレットが微粉化したということだが、それはなぜだったのか。
  • JERAが設置した事故調査委員会は、JERAおよび関連企業がほとんどを占め第三者委員会ではない。JERAは名古屋大学教授を入れているとしているが、その氏名は明らかではない
  • JERAの住民への説明は十分なものとは言い難く、住民が文書で出した質問に回答していないことは問題。また、まだ多くの住民が手をあげているのに、説明会を終了したことは説明を尽くそうという意思に欠けるのではないか。

近年、各地でバイオマス発電所における火災・爆発事故が頻発しています。以下は経済産業省の資料ですが、バイオマス燃料(木質ペレットなど)を保管する設備や運搬設備での火災が多いですね。JERAも武豊火力以外に常陸那珂火力で火災事故を起こしています。「推定原因の公表なし」というのが気になりますね。

出典:経済産業省「バイオマス発電における爆発・火災事故及びその対応について」(2024年3月21日) p.4

木質ペレット等のバイオマス燃料は、最近になって発電用に大量に使われ始めたわけなのですが、保管状況によっては発酵し、自然発火を引き起こすリスクがあることが明らかになってきました。

木質ペレットのみならず、PKS(パーム椰子殻)の事故も発生しています。今年5月20日に宮城県の石巻港で、PKSを運んでいた係留中の貨物船で男性社員2人が酸欠で意識を失い、うち一人が亡くなったという痛ましい事故が生じました。

そもそも大規模なバイオマス発電所が、「脱炭素」の名のもとに、さまざまな公的インセンティブによって推進されていますが、それはどうなのでしょうか。

FoE Japanをはじめとする環境NGOが以前より指摘し続けている通り、森林由来のバイオマス燃料の需要拡大が、海外の森林減少・劣化の原因となっています。日本は大量の木質ペレットなどを海外から輸入しています(下図)。

(出典:貿易統計をもとにFoE Japan作成)

現在、バイオマス発電は「カーボンニュートラル」とされ、燃焼段階でのCO2排出はゼロということになっていますが、実際にはCO2は発生しています。

実は木材燃焼時の発生エネルギーあたりのCO2発生量は石炭のそれよりも高いのです(右図、出典:「日本国温室効果ガスインベントリ報告書 2021年」p.3-16をもとにFoE Japan作成)。バイオマス発電や、石炭火力へのバイオマス燃料の混焼は、「脱炭素」とはいえません。

海外から燃料を輸入するような大型バイオマス発電および石炭火力への混焼は、やめるべきなのではないでしょうか。

(満田夏花)

*参考:武豊火力発電所の変遷

1966年1号機運転開始(22万kW、重油・原油)
1972年2~4号機運転開始(2〜4号機いずれも37.5万kW、重油・原油)
2002年1号機閉鎖
2011年発電所敷地内に「メガソーラーたけとよ」(7,500kW)運転開始
2015年2月武豊発電所リプレース計画(2〜4号機の閉鎖、5号機の建設)公表
2016年3月2~4号機閉鎖
2017年「メガソーラーたけとよ」閉鎖、川越発電所構内(三重県)に移転
2022年8月5号機(107万kW)運転開始

*中部電力、JERAの報道資料よりFoE Japan作成

 

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