化石燃料からの公正で、迅速なジャスト・トランジションを
11月15日は「エネルギー・デー」ということで、エネルギーに関連するアクションやサイドイベントが多数行われ、化石燃料のフェーズアウト(段階的廃止)を求める市民社会の声が会場内で響き渡りました。
交渉でも、先週の議長国コンサルテーションの場で、昨年に引き続きインド政府が「全ての化石燃料の公正な縮小(equitable phase down of all fossil fuel )」を求めました。
また今週の議長国コンサルテーションでは、ツバルが化石燃料生産の拡大停止や化石燃料補助金の廃止に言及。公正な移行の必要性を訴えました。
石炭火力の廃止だけでなく、全ての化石燃料の削減を求める文言を決定文書に残すよう市民社会から強い声が上がっています。
昨年のCOPでは、決定文書にCOPの歴史上初めて、石炭と化石燃料補助金に関する言及が盛り込まれ注目されましたが、温室効果ガスの排出のほとんどが化石燃料由来であること、そして化石燃料事業に頼り続けることよって、開発現場では水質汚染や環境破壊、人権侵害、土地収奪などの問題が起きていること、そして化石燃料中心の社会が先進国や大企業に利益をもたらし続け、不平等な社会構造の維持に繋がっていること…そういった側面を考えると、一刻も早く全ての化石燃料のフェーズアウトが不可欠です。
化石燃料のフェーズアウトのためには、公正な移行計画が不可欠です。
公正なエネルギー移行に関しては、G7諸国などを中心にJETP(ジャスト・エネルギー・トランジション・パートナーシップ)という途上国向けエネルギー移行支援が行われていますが、透明性の欠如やさらなる債務の拡大など重大な問題点が潜んでいます。
インドネシアで開催されているG20では、11月15日、米国と日本が主導するインドネシアとのJETPについても発表がなされました。しかし、詳細はまだ明らかではなく、今後6ヶ月かけて内容を詰めていくといいます。市民社会からは透明性に欠け、実効性や社会影響などを懸念する声があげられています。
また11月14日、アジア開発銀行(ADB)、インドネシア政府、丸紅が出資する事業者が、ADBの主導するエネルギー移行メカニズム(ETM)の下で、チレボン石炭火力発電所1号機の早期閉鎖を進めることを発表しました。
チレボン1号機が早期閉鎖される方向であることは歓迎されるものの、ETMの下で、バイオマスやアンモニア、水素との混焼など、代替電源を用いて発電所が「再利用」される可能性もあります。また今回の合意では、チレボン1号機において10~15年の早期閉鎖が計画されているようですが、これまで地域社会が被ってきた大気汚染や生計手段への影響についても考慮すれば、チレボン1号機の一刻も早い早期閉鎖と環境修復が必要不可欠です。
さらに、チレボン1号機の事業者(出資者は、丸紅(32.5%)、韓国中部発電(27.5%)、Samtan(20%)、Indika Energy(20%))は早期閉鎖に向けて補償措置を受けることになるため、民間企業がとるべき座礁資産に対する責任を公的資金で補填することによるモラル・ハザードも懸念されます。こうしたメカニズムは、現在も石炭セクターへの投融資を継続している民間企業に対し、将来的に座礁資産に対する責任を逃れる、あるいは回避することが可能であるという誤ったメッセージを送るだけです。
一方、英国のパビリオンでは、昨年のCOPで発表された「クリーンエネルギーへの移行の公的支援に関するグラスゴー声明」(グラスゴー声明)の一周年を記念するイベントが開かれました。
これは、クリーンエネルギーへの公的支援を優先し、2022年末までに新規の化石燃料事業への公的支援を停止することを含んだ声明で 、日本以外のG7諸国が署名していることでも注目されました。
今日のイベントでは、新たにネパールが署名国として加わり(グアテマラも署名予定)、署名国・団体が41に増えました。署名団体のいくつかは、化石燃料に対する公的支援の制限を始めていますが、いくつかの国は、未だ新たな方針を掲げていなかったり、制限を設けても大きな抜け穴を残している国もあります。今後も声明に示された内容が確実に実行されているのか市民社会がウォッチする必要がありますし、署名していない日本政府に対しては、直ちに署名し、公的支援を停止するよう呼びかける必要があります。
(深草亜悠美)