原発とガスを「グリーン投資」に!?欧州議会が承認 「グリーンウォッシュのツール」「プーチンへの贈り物」批判の声続々
7月6日、グリーン投資を促進するための「EUタクソノミー」(注1)に原発と天然ガスを含めるという欧州委員会の提案が、欧州議会(注2)本会議で承認されました。
正確には、欧州議会の下の環境と経済の合同会議で、6月14日、欧州委員会の同提案に反対する決議が採択されたものの、本会議に付された同じ決議が、否決されたという形です。
「原発とガスをタクソノミーに入れる補完的委任法」に対する反対決議案に対して:
賛成:278、反対:328、棄権 : 33
本会議が行われたストラスブールの会場の前では、環境活動家らが、原発とガスを含めることに反対し、「原発・ガスはグリーンではない」「プーチンに贈り物をするのをやめろ」などと書いたバナーを持って抗議アクションを繰り広げました。
Twitter上では、#NotMyTaxonomyというハッシュタグがトレンド入りし、この決定に対する憤りの声でみちあふれました。
「グリーンウォッシュ」
本会議での採決の結果を受け、欧州議会環境委員会の副委員長であるBas Eickhout氏は、「EUは有害なシグナルを投資家やEU以外の国々に送ることになる」と述べ、また、「エネルギー分野での環境投資の信頼性を低め、グリーンウォッシュすることになる」と批判しました。(ガーディアン紙)
欧州気候基金CEOのLaurence Tubianas氏はツイッターで、「今日、政治と既得権益が科学に勝った。真剣な投資家、企業、消費者は、必要な環境基準を求めて他の場所を探すことになる」と発信しました。
Friends of the Earth Franceで金融と化石燃料のキャンペーナーを務めるLorette Philippot氏は、 「欧州委員会に続いて、欧州議会議員の多くは、科学者や市民社会、ウクライナ国民の声よりも、ガスや原子力産業の利益に耳を傾けることを選んだ。これらの2つの有害なエネルギーをグリーンラベルから除外することによって、グリーンウォッシングを拒否することも、金融関係者の責任である」とコメントしました。
グリーンピースEUの持続可能な金融活動家アリアドナ・ロドリゴ氏は、「ガスと核にグリーンというレッテルを貼り、プーチンの軍資金により多くの資金を注ぎ込む言語道断の決定である。しかし今、私たちはこれと法廷で戦うつもりだ」と述べています。
「プーチンへの贈り物」?
注目されるのは、「原発・ガスはグリーンではない」という本来の論調に加え、EUからロシアのガス・原子力産業に資金が流れることに抗議する論調が強くなった点です。
今年5月、ロシアのこれらの産業からの欧州議会へのロビイングについて、グリーンピース・フランスが調査レポートを発表(注3)。実際、EUはガスのみならず、ウランをかなりロシアから輸入していますし、ロシアの原子力産業は東欧に強い影響力を持っています。
7月5日には、「原発とガスをタクソノミーに含めることは、環境的にも間違っているだけでなく、ウラジミル・プーチンに対して何十億ユーロもプレゼントすることになる」という趣旨で、ル・モンド紙にNGOのリーダーたちの論説も掲載されました(グリーンピース・フランスやCANフランス、FoEフランスなどが連名)。
同じ趣旨のAvaazの署名には、わずか5日間で30万筆を超える署名が集まりました。
今回の欧州議会の採決により、原発・ガスは、一定の条件は付されますが、「環境的に持続可能」とされ、今後、EUの環境や持続可能性を目的とした投資メニューに含まれることになります。
一方で、オーストリアやルクセンブルクは、この法令が発効したあと、提訴する構えを見せています。
「信頼性を損なう」
今回の件、NGOのみならず、たとえば以下のように、投資家たちからも明確な批判の声があげられていました。
「タクソノミーは政府が自分たちの好きな経済活動に資金を誘導したり、グリーンウオッシュ(見せかけだけの環境対応)したりするための道具ではない」(オランダ年金連合会)(注4)
「ガスと原発を含めることは持続可能な事業への投資を促進するタクソノミーの信頼性と有用性に悪影響を与えるだろう」(EUROSIF(欧州社会的責任投資フォーラム))(注5)
これらの投資家の声をみるにつけ、本来グリーンウォッシュを防止するために創設されたEUタクソノミーの制度そのものが、信頼性を失い、機能不全に陥る結果につながってしまう可能性は大いにあるでしょう。
原子力ロビーの影響力
もう一つ特筆したいのは、原子力産業の影響力です。
以前より、今回の欧州委の唐突な提案に関して、「原子力産業からのロビー」の影響を指摘する人は多かったですが、それは、原子力とガスがあとから突っ込まれた一連の経緯からもうかがえます。とりわけ、当初、タクソノミーの正式な諮問機関である技術専門家グループ(TEG)が、原発をタクソノミーに含めないことを勧告していたのにもかかわらず、欧州委がわざわざ別の機関(JRC)に諮問したのはとても恣意的に思えます。
<経緯>
- もともと技術専門家グループ(TEG)は、原発は「著しく害を与えない(DNSH)」基準(注4)に適合しないとし、タクソノミーに含めないことを欧州委員会に勧告していた
- 2020年7月 欧州委員会がJoint Research Center(JRC)に原子力のDNSH基準についての評価を委託、JRCは2021年4月、原発はDNSHに適合するという評価報告書を提出
- 2021年に発効したEUタクソノミー(委員会委任規則2021/2139)には原発・ガスは含まれず。
- 2021年末に欧州委員会がEUタクソノミーに原発・ガスを含めることがリーク記事により明らかに
- 2022年1月1日、欧州委員会が原発・ガスの技術的基準を含めた補完的委員会委任規則案を発表
- 2022年1月21日「持続可能な金融に関するプラットフォーム」が「補足委任法への回答」を公表。「原発を持続可能な経済活動として認知することはできない」とした。同プラットフォームは欧州委員会の正式な諮問機関。
- 2022年2月2日、欧州委員会が正式に原発・ガスの技術的基準を含めた補完的委員会委任規則を採択
- 2022年6月14日、欧州議会の環境委員会と経済金融委員会の合同委員会にて、欧州委員会提案に対する反対決議を採択
- 2022年7月6日、欧州議会の本会議で上記反対決議は否決
FoE Japanは7月1日、オンラインセミナー「オンラインセミナー:原発はグリーンか? 欧州のエネルギー事情とEUタクソノミーのゆくえ」を開催しました。
セミナーで講演したFoEドイツのヤン・ヴァローデさんは、「EUは、グリーンウォッシングを防ぐ代わりに、過去最大のグリーンウォッシングの道具を作ろうとしている」と痛烈に批判。
ヴァローデさんによれば、EUタクソノミーの考えられる影響として、以下があげられるとのことです。
- 「持続可能な金融商品」と銘打つすべての投資活動が、タクソノミーによって定義される。
- 大企業は、自社の活動がタクソノミーにどの程度適合しているかを報告する必要がある。
- EU以外の国も追従する可能性がある。
- EUの公的資金が原発に流れこむ可能性がある
- 原子力事業の実現可能性が高まり、真に持続可能な経済活動への投資が減る。
セミナーの映像および資料は以下からみることができます。
https://foejapan.org/issue/20220621/8455/
持続可能性投資の分野で国際的な世論を引っ張ってきたEUだけに、今回の決定の影響力はやはり大きいと言わざるをえません。
とはいうものの、EU内外の反対の声が可視化され、投資家からも強い批判の声があがったことも事実です。FoE Japanとして、継続的に原発やガスの問題を訴えるとともに、今後の動きを注視していきたいと思います。
(満田夏花)
注1)EUタクソノミーとは、「環境的に持続可能」な経済活動への投資を促進するため、以下の6つの環境分野に貢献する活動を分類するもの。
- 気候変動の緩和
- 気候変動への適応
- 水と海洋資源の持続可能な利用と保全
- 循環型経済への移行
- 環境汚染の防止と抑制
- 生物多様性と生態系の保全と回復
- いずれの目標に対しても「著しい害を及ぼさない(Do No Significant Harm、DNSH)」ことなどの条件がある。
注2)欧州議会とは、直接選挙で選出される議員から構成されるEUの組織。EU理事会とともに立法府を形成している。一方で、欧州委員会とはEUの政策執行機関。
注3)Greenpeace EU, ‘Russian doll’ gas and nuclear lobbying threatens EU energy independence – new research
注4)日経新聞2022年2月2日「原発・天然ガスはグリーンか EU「変心」に投資家反発」
注5)EURACTIV, “Investors warn ‘green’ label for gas undermines EU taxonomy” February 4, 2022
注6)タクソノミーの対象となる当該経済活動が、気候変動などの環境目標に合致するのみならず、他の環境目標(たとえば環境汚染の防止と抑制など)に対しても「著しい害を及ぼさない(Do No Significant Harm、DNSH)」ことが条件となっている。