バイオマス発電は大丈夫?――エネルギー基本計画の素案を読む(3)

気候変動2024.7.5

再生可能エネルギーの一つとして導入が進められてきたバイオマス発電ですが、木質ペレットなど、燃料の多くは海外から輸入されています。需要の急増にともなって、貴重な天然林が伐採されたり、生物多様性が破壊されたりすることが問題となっています。気候変動対策という点からいっても、長い時間をかけて形成され、地上部にも地下部にも大量の炭素を貯留している森林を破壊してしまっては、かえって大気中の二酸化炭素を増やすことにもつながってしまいます。これでは本末転倒ではないでしょうか? 

地域の間伐材・未利用材では足りず、海外から燃料輸入…

バイオマス発電は、固定価格買取制度(FIT)により、促進されてきました。2012年のFIT施行前の導入量は231万kWでした。これにFITで認定されたものを加えた量は、2015年度末に601万kW、2019年12月には1,085万kWにまで急増しています(図1)。うち747万kWが「一般木質バイオマスおよび農産物残さ」(輸入木質ペレット・木質チップ、パーム椰子殻(PKS)など)およびバイオマス液体燃料(パーム油など)による発電で、その多くを海外に依存しているのです。

図 1. バイオマスのFIT認定量
出典:第6回バイオマス持続可能性ワーキンググループ(2020年8月4日)資料1

それでは、第6次エネルギー基本計画素案では、バイオマス発電についてはどのように書かれているのでしょうか?

「木質バイオマスを始めとしたバイオマス発電は、災害時のレジリエンスの向上、森林整備・林業活性化などの役割を担い、地域の経済・雇用への波及効果が大きいなど、地域分散型、地産地消型のエネルギー源として多様な価値を有するエネルギー源である。」(p.34)

確かに、FITの導入時には、地域の間伐材や未利用材を上手にバイオマス発電に使えば、林業が活性化し、森林整備にお金が流れ、「疲弊した山間地が活性化する!」という期待が大きかったことは理解できます。しかし、現状はそう甘くはありませんでした。

そもそも、地域の間伐材、未利用材の量には限界があります。5,000kW級のバイオマス発電所を稼働させるのには、年間約60,000トンの燃料(約10万立方メートル相当)が必要とされていますが、これは一つの県の木材生産量にも匹敵します(注1)。つまり、中規模以上のバイオマス発電所を稼働させるためには、地域の間伐材・未利用材ではまったく足りないのです。

また、林地残材は林地からの搬出コストが高く、大量に調達するためには広範囲から収集する必要があるため、運搬費がかさみます。

このため、ほとんどの大規模なバイオマス発電所は、安定的かつ大量に調達できる輸入バイオマス燃料を前提にして計画されているのです。

経済産業省にもそのような認識はあるようで、前述の続きとして、

「一方、エネルギー利用可能な木質や廃棄物などバイオマス資源が限定的であること、持続可能性の確保、そして発電コストの高止まり等の課題を抱えることから、森林・林業施策などの各種政策を総動員して、持続可能性の確保を大前提に、バイオマス燃料の安定的な供給拡大、発電事業のコスト低減等を図っていくことが必要である。」(p.34)

というようなことが書いてあります。しかし、ここで大前提としている「持続可能性の確保」は具体的には何をさすのでしょうか? また、どのように担保するのでしょうか? 

さらに、「持続可能」であるバイオマス燃料は、どの程度、存在しているのでしょうか? これが大問題です。

「持続可能性」はあいまいなまま

「持続可能性」というからには、少なくとも森林減少・劣化を引き起こしたり、生物多様性を破壊したり、人権侵害や労働問題などを引き起こしたりしてはいけないはずです。

しかし、現在、輸入されているバイオマス燃料の多くは、この点があいまいなまま残されています。

たとえば、日本の主要商社は、バイオマス発電用に年間数百万トンもの木質ペレットを、北米やベトナムから輸入しています。

図 2. 日本の木質ペレット輸入量
出典:財務省 普通貿易統計「品別国別表(HSコード4401.31.000)」よりFoE Japanが作成

日本の商社は、アメリカの大手ペレットメーカーであるエンビバ社、カナダのパシフィック・バイオエナジー社やピナクル・リニューアブル・エナジー社などと木質ペレットの長期売買契約を結んでおり、今後数年以内に輸入量はさらに数百万トン以上上積みされそうです(注2)。

しかし、アメリカやカナダで森林保全に取り組むNGOからは、これらの木質ペレット生産用の木材を得るため、湿地林や天然林が皆伐され、貴重な生態系が破壊されたことが報告されています。企業は「もっとも持続可能な原料を利用している」などと説明していましたが、ペレット工場に次々に丸太が運び込まれている様子が写真入りで報告されています。

貴重なカリブー(トナカイ)の生息地である森林にも伐採が及んでいます。

写真:パシフィック・バイオエナジー社のペレット工場に丸太を運び込むトラック © Dominick DellaSala

写真:木質ペレットの原料生産のために伐採された湿地林(アメリカ・東南部)©Dogwood Alliance

マレーシアやインドネシアから輸入したパーム油も、バイオマス燃料として、発電所で燃やされています。パーム油の需要急増は、原料となるアブラヤシ生産のための農園拡大により、熱帯林減少の原因になるのに加え、先住民族や地域住民の土地や森林を農園にしてしまったり、農園における労働問題が発生したりといった社会的な問題も指摘され続けています。持続可能性が確認されたRSPO(持続可能なパーム油のための円卓会議)認証油を使うとしている企業もありますが、RSPO認証油は供給量に限界があり、食品など従来用途の需要を満たすのに精いっぱいではないでしょうか。

現在、FITの事業計画策定ガイドラインでは、燃料の持続可能性については触れられているものの、具体性がなく、とりわけ木質バイオマスに関しては、第三者機関による認証制度だけではなく、事業者団体による認定や、企業の独自による確認でも足りることになってしまっています(注3)。

そもそもCO2を削減できるのか?

バイオマス発電の促進により、本当にCO2削減ができるのかどうかにも疑問があります。

前述の通り、バイオマス燃料の生産段階において、森林減少・劣化が生じることも多く、その場合、森林や土壌に貯蔵されていた炭素が、CO2の形で大気中に排出されてしまいます。つまり、バイオマス発電の促進が、地表での重要な炭素ストックである森林や土壌を破壊し、むしろCO2排出の原因となってしまうのです。

破壊された森林が元の状態に回復しないこともありますし、回復したとしても、数十年以上かかることが多く、それまでは森林・土壌に固定されていた炭素が燃焼により大気中に放出されるため、大気中のCO2が増加した状態となります(注4)。

バイオマス事業がある場合、ない場合双方における、
一定期間後のCO2の蓄積変化の概念図

森林は森林のまま、「炭素の貯蔵庫」として、また、生物多様性保全のために、そのまま維持していくことが重要なのではないでしょうか?

森林を破壊せず、地域の間伐材・未利用材や廃棄物系によるバイオマス発電がどのくらい可能なのか。これについては慎重に検討する必要があります。

また、バイオマス発電の発電効率は化石燃料と比べても低いため、発電よりも熱利用の方を追求するべきではないでしょうか?

現在のエネルギー基本計画は、2030年における電源構成目標としてバイオマス発電を6-7GWとしています。第6次のエネルギー基本計画においては、さらに拡大して8GW+αとしています。しかし、上記の観点から、バイオマス発電は、廃棄物系、地域の間伐材・未利用などでまかなえる規模とし、熱利用を検討すべきでしょう。

(満田夏花、小松原和恵)

参考)バイオマス発電のFIT認定容量(2021年3月末時点)
メタン発酵ガス:107,807kW
未利用材:561,384kW
建設廃材:94,210kW
一般廃棄物・木質以外:460,251kW
上記合計 1,223,652 kW (1.2GW)
一般木質・農作物残さ:6,738,709kW(6.7GW)「一般木質・農作物残さ」の多くが輸入燃料と考えられます。農作物残渣は、PKS(パーム椰子種子殻)です。

注1)田中淳夫(2019)「絶望の林業」

注2)商社等の木質ペレットの主な長期購入契約は下表参照。

出典:サプライヤー等のウェブサイトよりFoE Japanが作成

注3)FITの「事業計画策定ガイドライン」においては、パーム油、PKSなどの農産物の収穫に伴って生じるバイオマス燃料については、主産物・副産物を問わず、RSPO(持続可能なパーム油のための円卓会議)、RSB(持続可能なバイオマスのための円卓会議)といった第三者認証制度によって持続可能性が認証されたものでなければならないとしています。一方で、木質バイオマスについては、具体的な認証については記述されておらず、詳細は、林野庁による「木材・木材製品の合法性、持続可能性の証明のためのガイドライン」を参照することとしており、当該ガイドラインでは、第三者認証のみならず「関係団体による認定」「個別企業の独自の取組」も併記しています。

注4)IPCCの報告書の著者をはじめとする科学者796名は、バイオマスエネルギーのために木を伐採すると、森林に貯留されている炭素が放出されること、たとえ森林が再生したとしても、大気中の炭素が数十年から数世紀にわたって増加することを指摘。さらに世界のエネルギーの3%を木材によって発電するとなると、世界の商業伐採量を現在の2倍にしなければ賄えないと警告しています。

“Letter From Scientists to the EU Parliament Regarding Forest Biomass", 9 January 2018

 

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