声明:60年超の老朽原発の運転を可能とする改正電気事業法の施行に抗議――福島第一原発事故の教訓を蔑ろにし、国民を危険にさらす
福島原発事故の教訓を踏まえ「原則40年、1回に限り20年の延長可能」と規定されてきた原発の運転期間。6月6日、60年を超える原発の運転を可能にする改正電気事業法が施行されました。これは原子力事業者の思惑に従う一方で、福島第一原発事故の教訓を蔑ろにし、国民を危険にさらすものです。FoE Japanは以下の抗議声明を発出しました。
声明:60年超の老朽原発の運転を可能とする改正電気事業法の施行に抗議
――福島第一原発事故の教訓を蔑ろにし、国民を危険にさらす
6月6日、60年を超える原発の運転を可能とする改正電気事業法が施行された(注1)。
2012年、福島第一原発事故の教訓を踏まえ、それまで明確な規定がなかった原発の運転期間の上限について、「原則40年、1回に限り、原子力規制委員会が認める場合は20年延長できる」とした原子炉等規制法の改正が与野党合意のもとに成立した。
当時の国会審議においては、「40年」とした理由について、原発を構成する設備や機器の設計寿命が40年とされていること、システム自体が年数がたって古くなっていくことと説明された(注2)。この説明の妥当性を否定するような新事実が判明したわけではなく、状況は変わっていないはずである。
老朽原発は、危険である。
原発の複雑な機器、配管、電気ケーブル、ポンプ、弁などの多種多様な部品や材料が、時間の経緯とともに劣化するが、この中には交換ができないもの、検査ができないものも多い。
原子炉圧力容器は中性子をあびてもろくなる現象が生じる(中性子照射脆化)。
新制度では、行政処分や司法判断による運転停止も、事業者の責によらないと判断された場合は60年の運転期間に上乗せできるようになる。
しかし、事業者の責によるかよらないかを問わず、停止期間中も劣化は進む(注3)。
原子力規制委員会は、従来から30年を超える原発に関して、高経年化(老朽化)対策の審査を行ってきた。しかし、この審査は、事業者の申請に基づき、事業者の評価を前提としたものである。実態は、確認すべきデータを確認しなかったり、事業者の甘い評価をうのみにしていたりと、厳しい審査は望めない。
原発を推進してきた経済産業省が、運転期間延長の認可権限を持つことになる点も問題だ。
経済産業省の審査基準は、到底「基準」と呼べるようなものではない。①平和の目的以外に利用されるおそれがないこと、②設置許可の取り消しや運転停止命令が出ていないこと、③電気の安定供給に資することーなどであるが、①②は当たり前、③はどのようにも解釈ができる曖昧なものだ。原発を推進している経済産業省が、この基準をもって事業者の延長申請を却下することはまずないだろう。
さらに行政処分や仮処分命令によって運転を停止していた場合、当該処分・命令が取り消されたことにより、「運転を停止する必要がなかった」と判断される期間については60年に上積みできることとされており、これも経済産業省がその妥当性について判断することとなる。しかし、行政処分や差し止め命令が行われたことには、当時の行政や司法がそうした判断を下した何らかの理由があるはずであり、経済産業省が後から「必要がなかった」と判断することができるのだろうか。仮に当該処分や命令が不当であり、事業者が不利益を被った場合は、事業者は法律に基づき救済されるべきであり、運転期間を延長できるとすることは筋違いだ。
新制度が導入された背景には、原発を長期運転させたい原子力事業者から、原子力規制委員会に対して、運転停止期間を運転期間から除外してはどうかという提案がされていたことにある(注4)。原子炉等規制法、電気事業法の改正は、こうした事業者の思惑に全面的に従ったものだ。
改正電気事業法の施行は、危険な超老朽原発の運転を可能とする。福島第一原発事故の教訓を蔑ろにし、国民の安全を危険にさらすものだ。
私たちはこれに強く抗議する。
以 上
注1)今回施行される改正電気事業法は、2023年、GX脱炭素電源法(原子力基本法、電気事業法、原子炉等規制法など5つの法律の改正)の一環として成立した。この時、運転期間を原則40年、最長60年とする規定が原子炉等規制法から削除され、緩めた形で電気事業法に移された。これに伴い、原発の運転期間の延長についての認可権限が、原子力規制委員会から経済産業大臣に移された。
注2)当時の担当大臣(環境大臣)の細野豪志氏は、「作動するそのそれぞれの機器の耐用年数というものも考慮にした中で40年というところの数字を導き出した」「例えば電気製品をとっても、車を見ても、40年前の技術で今そのまま通用するものは、逆に言うとほとんどない」と説明している(第180回国会衆議院環境委員会(2012年6月5日))。
注3)原子力規制委員会は、「コンクリート構造物の中性化、塩分浸透、アルカリ骨材反応、機械振動、凍結融解による強度低下、原子炉圧力容器のスタビライザ等の摩耗といった事象については、長期停止期間中もそうでない期間と同様に劣化が進展する」としている。(原子力規制委員会「運転期間延長認可の審査と長期停止期間中の発電用原子炉施設の経年劣化との関係に関する見解」令和2年7月29日)
注4)第1回主要原子力施設設置者(被規制者)の原子力部門の責任者との意見交換会(2017年1月18日)など
【ご寄付のお願い】
FoE Japanは、皆様のご支援に支えられて、原発・エネルギー政策に関する情報分析や発信、政府や議員への働きかけ、福島ぽかぽかプロジェクトの実施などの活動を継続しています。
現在、たいへん財政状況が厳しくなっています。よろしければご寄付をご検討いただければ幸いです。
ご寄付はクレジットカード、銀行振り込みなどで可能です。
▶︎詳しくはこちらからご覧ください。