石炭火力を延命するGENESIS松島計画とは?

気候変動2023.11.29

長崎県の西海市にある電源開発が所有・運営する松島発電所。ここには運転40年を超える石炭火力発電が2基あります。このうち2号機に、石炭をガス化してタービンを回す装置を新たに設置するというのが「GENESIS松島計画」です。既存の設備でも、新たな設備でも石炭を使うので、石炭の消費量はむしろ増え、CO2削減効果はごくわずかです。

将来的には脱炭素燃料へ移行するとのことですが、現時点では具体的な計画はなく、可能性として示されているのは化石燃料から生成するアンモニアやバイオマスなど問題があるものです。実際、多大なコストをかけて石炭を燃やし続けることとなる「GENESIS松島計画」の背景と問題点をまとめました。

なお2023年10月31日、電源開発は、2024年度末(2025年3月)に既存の2基を停止することを発表しました。これまでは「2030年までに」とされていたため、一歩前進です。一方、GENESIS松島計画は引き続き推進するとしていますが、そのスケジュールは2年遅れ、工事開始を2026年、運転開始を2028年度(それぞれ見込み)となっています。計画を止められる可能性はまだあります。

・電源開発株式会社ニュースリリース
「松島火力発電所の今後について」2023年10月31日
https://www.jpower.co.jp/news_release/2023/10/news231031_2.html

*本記事は、2023年9月末に気候ネットワークが開催した「長崎・松島スタディツアー」で視察した内容も含めて作成しています。

電源開発松島発電所(長崎県西海市・松島の展望台より)

電源開発・松島発電所の歴史・概要

1981年1月に1号機、6月に2号機が運転を開始しました。1970年代のオイルショックを受けて「エネルギー源の多様化」を意図して建設されたそうです。日本初の輸入炭を利用した発電所で、石炭はオーストラリアから輸入しています。国内炭も一部使用され、2001年までは近隣の池島炭鉱産の石炭も利用されていたそうです。

・電源開発 松島火力発電所
https://www.jpower.co.jp/learn/facilities/matsushima.html

GENESIS松島計画の概要

概要

・所在地: 長崎県西海市大瀬戸町
・出力: 新設約18万kW、既設約32万kW
・着工: 2026年(見込み) *2023年10月末に修正、以前は2024年
・運転開始: 2028年度(見込み) *2023年10月末に修正、以前は2026年度
・発電方式: ガスタービンおよび汽力(複合発電方式)

2021年4月、電源開発は松島火力発電所の2号機に石炭ガス化設備を付け加え、石炭ガス化複合発電に転換する計画を発表しました。

・電源開発株式会社「GENESIS松島計画の環境影響評価実施に向けた準備開始について」2021年4月
https://www.jpower.co.jp/news_release/2021/04/news210416_2.html

石炭ガス化設備は、「大崎クールジェンプロジェクト」(https://www.osaki-coolgen.jp/)を通じて実証したものを初めて商用化するものです。

ガスタービンの出力は約11 万kWですが、既設蒸気タービン出力のうち排熱回収ボイラーからの発生蒸気による出力約7万kW相当分を合計して、新設分が約18万kWということになっています。
既存の50万kWの蒸気タービンはそのままですが、32万kW相当となるように投入する石炭を約3分の2とするとのこと。

図:発電設備概要(「環境影響評価方法書のあらまし」掲載の図に加筆)
2208matsushima_aramashi.pdf (jpower.co.jp)

ガス化設備には、「ガス化に適した発熱量の低い炭種も使用する」とし、石炭の合計使用量は現状よりも増える見通しとなっています。

図:発電用燃料の種類 (「環境影響評価方法書に係る審査書」より)

以下は、設備配置計画図です。「CO2分離回収設備エリア」「カーボンフリー燃料設備エリア」は、具体的な計画はなくスペースとして描かれているのみです。

図:設備配置計画(「環境影響評価方法書のあらまし」より)
2208matsushima_aramashi.pdf (jpower.co.jp)

環境アセスメント

2021年10月に配慮書(第1段階)、2022年9~10月に方法書(第2段階)の縦覧・意見募集が行われました。

NGOや市民の呼びかけもあり、それぞれ800通、3000通を超える意見が寄せられました。
2021年12月16日、環境省は2号機の環境影響評価の意見書として「2030年や50年に向けた二酸化炭素(CO2)排出削減への対応の道筋が描けない場合には事業実施の再検討を含め、あらゆる選択肢を検討することが重要」などとする内容を取りまとめ経済産業省に提出しています。

二酸化炭素排出について電源開発は、石炭ガス化設備による熱効率向上により10%の削減ができるとしています。温室効果ガスの大幅削減、そして石炭火力からの早期脱却が求められる今、わずか10%の削減はほぼ無意味です。それどころか、古い設備を3分の2使い続けることを許してしまうのです。そこに大規模な資金をつぎ込むという計画なのです。

環境アセスメントも、まだあと「準備書」「評価書」の2段階が残っています。止められる可能性はまだあります。

・詳細や資料はこちら
https://www.meti.go.jp/policy/safety_security/industrial_safety/sangyo/electric/detail/genesismatsushima.html

長崎県西海市と松島の状況

西海市市勢要覧/西海市 (city.saikai.nagasaki.jp)

西海市は長崎市の西隣に位置し、人口は約26,000人です。長崎大の学生によると、長崎市から佐世保に行くルートが2つあり、西海市を通るルートのほうが15〜20分遠いため、西海市経由ルート沿いの飲食店がどんどんつぶれているとのこと。海岸線の美しい、自然豊かな場所ですが、観光でのにぎわいはあまり見られません。

松島は西海市の西側、瀬戸からフェリーで20分ほどのところにあり、人口は約800人、小さな集落があり小学校もあります。大正時代から昭和初期にかけては、松島にも炭鉱があり、その遺構が今も残っています。

常時500人、最大1000人程度の雇用を生んでいる松島火力発電所は、地域の人にとって「経済を支える存在」と見られ、GENESIS松島計画も、松島発電所の閉鎖を危惧した市議会からの要請があって持ち上がったのだと、ツアーに同行した地元の方は語ります。

フェリーから望む松島 左手には風力発電、右手に石炭火力発電

池島炭鉱

松島の近くにある池島という島にも、炭鉱がありました。2001年に閉山していますが、現在もインドネシアやベトナムの研修生を受け入れたり、一般の見学も行っています。2023年9月のツアーで、私たちも訪問しました。

周囲約4kmの池島周辺の海底に広がるこの炭鉱は、三井松島産業の子会社・松島炭鉱の経営のもと1959年に営業出炭が開始され、松島石炭火力発電所に石炭を供給してきました。海外産石炭との価格競争などにより経営が立ち行かなくなった中、2000年の坑内火災で一部の坑道が閉鎖されたことが直接の引き金となり、2001年に閉山を迎えました。

池島炭鉱 坑内を見学
作業員の装備を体験

見学では、炭鉱内の労働の様子を映像も交えながら伝えていただきました。3交代制のシフトで24時間進められる作業。重い荷物を身につけた労働者たちが体力を保ちながら効率よく広大な炭鉱内を移動できるよう作られた、人間用のベルトコンベヤー「マンベルト」。それに乗って急な斜面の下へ上へと運ばれていく労働者たちなどが映されていました。

見学ツアーでは、坑内労働者の持ち物や装備一式を身につける体験もありました。やってみた女子学生の「とても重かった」との感想。実際、肉体的に過酷な坑内労働を女性が担うことは、2006年の改定まで労働基準法において原則禁止されてきたことでした。

約40年間の営業期間を通して65名が火災や爆発などで亡くなったとのこと。つまり2年に1度ほどの頻度で死亡事故も起きていたということです。ガイドの方は「日本の炭鉱はどこでもそうだった」と話します。また、炭鉱内には作業で発生する粉塵を吸い集める装置があったものの、じん肺の罹患も多かったようです。フェリー乗り場にも、炭鉱で働いていてじん肺で亡くなった方に損害賠償を出すと経産省が呼びかけるポスターが貼られていました。

・池島炭鉱跡
https://www.at-nagasaki.jp/spot/61048

・産経新聞「九州の礎を築いた群像:三井松島産業編(3)閉山」2016年7月27日
https://www.sankei.com/article/20160727-WVPK7PANMNIMDHXNOWAZQAYI5Y/

・「改正労働基準法(妊産婦等の坑内労働の就業制限関係)の施行について」2006年10月
https://www.mhlw.go.jp/general/seido/koyou/danjokintou/koyou_kaisei/03.html

西海市の地球温暖化対策実行計画

・西海市の地球温暖化対策実行計画(2023年3月策定)
https://www.city.saikai.nagasaki.jp/soshiki/kankyo_seisaku/2/10426.html

西海市は2020年にゼロカーボンシティを宣言し、市域全体のCO2排出量を2030年度には2013年度比で46%削減する目標となっています。2019年にはすでに38%減っていますが、人口が減っているのと、市外に移転した産業が多いため、数値上はCO2が減っています。三大産業は、松島石炭火力発電所に加え、大島造船所、製塩のダイヤソルトです。

西海市の特徴として、離島へ船で移動することも多いため、運輸部門の排出量が34%と大きくなっています。船以外の公共交通はバスしかなく、本数も少ないため、車の移動が基本となっています。公共交通を増やせればよいものの、過疎化と高齢化が進んでいます。地元バス会社も赤字続きで西海市が税金で支えているそうです。

再エネの導入が計画に書かれていますが、どのように市民を巻き込んで具体化していけるかが今後の課題と地元の方はいいます。

西海市、松島を訪問して(感想)

地元の方やや学生の皆様にご参加いただきながら、住民の方々の立場や地域の状況を目の当たりにしたことで、東京をベースとするNGOの活動ではともすると理想論に偏りがちな私の視野の狭さに反省させられ、「公正な移行」を考える視点を見直す経験となりました。また、過酷で危険な坑内労働の実態に衝撃を受けた池島炭鉱ツアーでは、人々を犠牲にしながら経済発展してきた歴史を改めて噛み締めました。(ヒル・ダリア・エイミー)

美しい海岸線とのどかな風景・・長崎から西海市に向かう海沿いの道は続いています。それは同時に、大きな商業施設も、飲食店さえもほとんどない道でもありました。地元の人にとって「何もないこの地に雇用を生み出している」存在である松島発電所。
周辺をバスで回り、地元の方などのお話をお聞きするなかで、発電所が立体的に見えてきました。その美しい風景は、原発立地の町も思い起こさせます。(吉田明子)

 

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