【Q&A】ALPS処理汚染水、押さえておきたい14のポイント

原発

2023年8月1日作成
2023年8月21日更新

2023年8月末にも海洋放出が開始されようとしているALPS処理汚染水。押さえておきたい14のポイントをまとめました。
印刷用(PDF、A4 8頁) >2分でわかる動画シリーズ「汚染水って何? 何が含まれているの?」など4本

Q:「処理水」? 「汚染水」?

図1 処理水発生のメカニズム

福島第一原発のサイトでは、燃料デブリの冷却水と原子炉建屋およびタービン建屋内に流入した地下水や雨水が混ざり合うことで発生した汚染水を、多核種除去装置(ALPS)で処理し、タンクに貯蔵しています(図1)。その量は、134万m3(2023年7月現在)。

政府・東電は、この水を「ALPS処理水」と呼んでいます。一方で、トリチウムやそのほかの放射性物質が残留しているので「汚染水」と呼ぶ人もいます。

正確には「処理されているが、放射性物質が残留する水」というべきなのでしょう。しかし、長いので、ここでは「ALPS処理汚染水」または「処理汚染水」と呼ぶことにします。 ちなみに、政府は「ALPS処理水」の定義を「トリチウム以外の核種について、環境放出の際の規制基準を満たす水」としています(注1)。しかし、現在、タンクに貯められている水の約7割については、トリチウム以外の放射性物質も基準を超えて残留しているため、「処理水」とは言えません。詳しくは次の項目をご覧ください。[TOP]

Q:何が含まれている?

東京電力の発表では、処理汚染水には約780兆ベクレルのトリチウムが含まれています(2021年5月時点)。2010年、福島第一原発からは2.2兆ベクレルのトリチウムが海に放出されていたので(注2)、その約350倍の量となります。

注目すべきは、トリチウム以外の放射性物質も基準を超えて残留していることです。残留しているのは、ヨウ素129、ストロンチウム90、ルテニウム106、テクネチウム99、セシウム137、プルトニウム239、炭素14、カドミウム113mなど。

当初、東京電力は、ALPSを通すことにより、トリチウム以外の放射性物質は除去できており、基準を満たしていると説明していました。

2018年8月に開かれた説明公聴会の資料(図2)では、基準を満たしているデータのみが示されていました。ところが、共同通信をはじめとしたメディアの報道により、トリチウム以外の放射性物質も基準を超えて残留していることが明らかになりました。(注3

図2 2018年8月の説明・公聴会の資料より

トリチウム以外の放射性物質(左からセシウム137、ストロンチウム90、ヨウ素129、ルテニウム106、コバルト60、アンチモン125)について、ALPS処理後は基準内に収まっている時期のデータを使用している。

報道のあった当時、FoE Japanなどが、ALPSの出口データを確認したところ、ヨウ素129、ストロンチウム90などで、多くの基準超えが発生していました。>詳しくは「ALPS処理水、トリチウム以外核種の残留~「説明・公聴会」の前提は崩れた」(2018年8月29日)

図3 トリチウム以外でも基準超えしている水の割合(2021年12月31日時点)

その後の東電の発表により、現在タンクにためられている水の7割弱で、トリチウム以外の62の放射性核種の濃度が全体として排出基準を上回っており、最大で基準の2万倍近く注4)となっていることが明らかになりました(図3)。

東電は海洋放出する前に二次処理を行い、これらの放射性核種も基準値以下にするとしています。

問題なのは、タンクに残留するこれらの放射性物質の総量が示されていないことです。また、二次処理した結果、どのくらい残留するかもわかっていません。全体の水の量が膨大であるため、濃度を下げたとしても放出される放射性物質の量はそれなりに大きいでしょう。 何がどのくらい放出されるのかという基本的な情報が明らかにされていないのです。[TOP]

Q:東電はすべてのタンクについて放射性物質を測っている?

東電は「放射線影響評価」を行い、これをもとに政府は処理汚染水の海洋放出の人や環境への影響は無視できるくらい小さいとしています。しかし、東電がソースターム(放出する放射性物質の種類と量)として示しているのは、3つのタンク群(合計3.6万m3)のみ。タンクの水全体の3%弱にすぎません。64の放射性物質(ALPS除去対象の62核種、トリチウム、炭素14)のデータがそろっているのは、この3つのタンク群だけであったためです(注5)。

東電は、ほかのタンク群については、放出する前に順次30核種を測定するとしています。放出が完了するのには30年以上かかるとみられますが、それまでまたないと、結局、どのような放射性物質が、どのくらい放出されたか、わからないということになります。 なお、主要7核種およびトリチウム、炭素14については、すべてのタンク群での測定データが公開されていますが、データを見る限りタンクごとのバラツキが大きく、前述の3つのタンク群がタンク水全体を代表しているとはとても言えない状況です。[TOP]

Q:トリチウムって何?

水素の同位体である「三重水素」で、陽子1個と中性子2個から構成されます。半減期12.32年の放射性物質で、ベータ崩壊をし、ヘリウムに変わります。 放出するエネルギーは小さく、最大で18.6keVで、セシウム137の最大値512keVの30分の1程度です。

トリチウムは自然界にも水の形で存在しますが、核実験や原発施設からの放出によって増加しています。[TOP]

Q:トリチウムは安全?

トリチウムの影響については専門家でも意見が分かれています。政府は、トリチウムからの放射線は紙一枚でも遮ることができる、水と同じ性質を持つため人や生物への濃縮は確認されていないなどと安全性を強調しています。

トリチウムが出すベータ線はガンマー線と比べて飛距離が短いのですが、こうした放射性物質が問題になるのは、体内に入ったときの影響です。トリチウムが有機化合物中の水素と置き換わり、食物を通して、人体を構成する物質と置き換わったときには体内に長くとどまり、近くの細胞に影響を与えること、さらに、DNAを構成する水素と置き換わった場合には被ばくの影響が強くなること、トリチウムがヘリウムに壊変したときにDNAが破損する影響などが指摘されています。(注6)[TOP]

Q:トリチウムは世界中の原発から排出されているから問題ないのでは? なぜ、今回の放出だけ問題にされるの?

今回の処理汚染水の放出が、いままでの原発からの排水と大きく違う点は、処理されているとはいえ、デブリ(核燃料が溶け落ちたもの)に触れた水の放出であるということです。これは、トリチウム以外にも、さまざまな放射性物質を含んでいることを意味します。

トリチウムに関して言えば、確かにトリチウムは国内外の原発から放出されています。日本の沸騰水型原発(BWR)からは1年間に数百~数兆ベクレル、加圧水型原発(PWR)からは数十兆ベクレル、まだ完成していませんが、六ヶ所再処理工場からはけた違いに多くのトリチウムが排出されます。海外の原発でもトリチウムが放出されています。 ただ、環境中のトリチウムの量が少しずつ多くなることの累積的影響についてはまだわかっておらず、世界中の原発から出されているからよい、ということにはなりません。[TOP]

Q:トリチウム濃度を排出濃度基準の『40分の1』に希釈する?

政府・東電は、処理汚染水を海水で希釈し、トリチウム濃度を1リットルあたり1,500ベクレルにして放出するとしています。これは、トリチウムの排出濃度基準1リットルあたり6万ベクレルの「40分の1」と説明されていますが、果たしてそうなのでしょうか?

6万ベクレル/リットルというのは、原発敷地内に排水以外に考慮すべき放射線源がない場合、かつ排水中にトリチウムのみが含まれている場合の基準になります。

法令上、福島第一原発の敷地境界線における追加線量を、年間1ミリシーベルトにすることが求められていますが、敷地上のさまざまな放射線源を考慮すれば、液体廃棄物の線量は0.2ミリシーベルト程度に抑える必要があり、また、セシウム134、137、ストロンチウム90など他の放射性物質も含まれていることも考慮し、トリチウムの濃度は1,500ベクレル/リットルと決められたという経緯があります(注7

Q:海に流すしかないのでは?

技術者や研究者も参加する「原子力市民委員会」(座長・大島堅一龍谷大学教授)は、海洋放出や大気への放出ではなく、「大型タンク貯留案」「モルタル固化処分案」を提案しています(注8)。詳しくは次の項目をご覧ください。[TOP]

Q:「大型タンク貯蔵案」と「モルタル固化案」は検討された?

大型タンク貯留案」は、石油備蓄などに実績のある、ドーム型屋根、水封ベント付きで10万立方メートルの大型タンクを建設する案です。建設場所としては、福島第一原発の敷地内の7、8号機建設予定地や土捨て場、敷地後背地等などを提案しています。

東電は大型タンク貯留に関して、「雨水混入の可能性がある」「破損した場合の漏えい量大」といった点をデメリットとして挙げ、これがこのまま政府見解にも使われていますが、大型タンクは、石油備蓄などに多くの実績があります。当然、雨水混入対策や破損漏洩対策はされています。

モルタル固化処分 
出典:Savannah River Remediation LLC (SRR)

モルタル固化処分案」は、アメリカのサバンナリバー核施設の汚染水処分でも用いられた手法で、汚染水をセメントと砂でモルタル化し、半地下の状態で保管するというものです。

利点としては、安定的に保管でき、放射性物質の海洋流出リスクを遮断できます。こうした利点により、原子力市民委員会としては、大型タンク保管よりは、モルタル固化を推奨しています。しかし、東電・政府は、「水和熱が発生し、水が蒸発する」としていますが、これについても、提案を行った原子力市民委員会は「分割固化、水和熱抑制剤投入で容易に対応できる」としています。 こうした代替案が、公の場で提案者をまじえた形できちんと議論されたわけではありません。[TOP]

Q:敷地は本当に足りないの?

現在の東電の敷地利用計画は、デブリ(溶け落ちた燃料)の取り出しが前提となっています。取り出したデブリの一時保管場所として広大なスペースを確保しているのです。しかし、デブリの取り出しは暗礁にのり上げています。たとえ取り出せたにしろ、その先どうするのか決まっていません。そもそも、現在の廃炉ロードマップがすでに破綻しているという指摘もあります。現実的な廃炉計画を策定しなおすべきではないでしょうか。[TOP]

Q:「関係者の理解」って何? 「関係者の理解」は得られるの?

政府および東電は2015年、福島県漁業組合連合会(県漁連)に対して、処理汚染水に関して「関係者の理解なしには、いかなる処分も行わない」と文書で約束をしました。

それにもかかわらず、政府は2021年4月、処理汚染水の海洋放出方針を決定しました。

その後も、県漁連、全漁連は、放出に対して繰り返し反対の意思表明をしており、4年連続で放出反対の特別決議を採択しています(注9)。また、相馬双葉漁業協同組合は、2023年7月、「断固反対」の考えを国に伝えました(注10)。

「関係者」の範囲は曖昧ですが、最たる関係者である漁業者の理解が得られているとはいえません。[TOP]

Q:福島県内の自治体の意見は? 近隣県は?

2020年10月の段階で、福島県内59市町村のうち、44の市町村が、処理汚染水の放出に関する意見書や決議を可決。そのうちの27が放出の反対や陸上保管を求めるもの、14が関係者からの丁寧な意見聴取や風評対策を求める内容でした。(図4、注11

図4 決議や意見書を採択した福島県の市町村

政府が海洋放出方針を決めた2021年4月以降では、23市町村議会が意見書を可決。そのうちの16市町村議会が、方針の撤回や反対、処理水の「陸上保管」を求める内容で、6議会が風評対策や丁寧な説明を求める内容でした。いわき市議会は、政府や東電に対して、漁業者との「約束」の履行を求める内容でした。(注12

近隣県では、宮城県議会は、2023年7月、海洋放出に反対する意見書を全会一致で採択しました。(注13)[TOP]

Q:公聴会は開かれたの?

政府は、2018年8月、福島で2箇所、東京で1箇所、「説明・公聴会」を開催しました。意見を述べた44人のうち、42人が明確に海洋放出に反対しました。その後、公聴会は開催されていません(注14)。[TOP]

Q:汚染水を増やさない対策は?

建屋内への地下水の流入を止めない限り、汚染水は発生し続けます。現在までに、凍土壁、地下水バイパス、建屋近傍の井戸(サブドレン)からの汲み上げなどの対策が取られ、一定の効果は得られているものの、地下水の流入は続いています。福島大学の柴崎直明教授らの研究グループは、現在の凍土壁のさらに外側に「広域遮水壁」を建設し、敷地内への地下水流入を止めるべきと提言しています。「広域遮水壁」は、コンクリートや粘土などを用いる、従来型の工法で、費用は凍土壁の半分くらい、工期は数年程度です。(図5、注15) さらに、「広域遮水壁」で囲まれるエリアに「集水井と水抜きボーリング」を設置することで、効果的に地下水位を下げることができことも提案されています。

図5 広域遮水壁の提案
出典:地団研ブックレットシリーズ16「福島第一原発の汚染水はなぜ増え続けるのか」p.26

しかし、この提案は真剣に検討されないまま、現在にいたっています。[TOP]

Q:IAEA(国際原子力機関)の「お墨付き」をどう考える?

IAEAが2023年7月、処理汚染水の海洋放出は国際的な基準に整合しているという趣旨の包括報告書を発表しました。これにより、海洋放出がIAEAの「お墨付き」を得たと報道されています。

しかし、IAEAのレビューは、基本的に日本政府・東電から提供された情報に基づくものであり、たとえば、海洋放出以外の代替案についてはレビュー対象となっていません。また、前述の通り、東電が「放射線影響評価」の元となるソースターム(放出する放射性物質の種類と量)として示しているのは、わずか3つのタンク群のデータ(タンク水全体の3%弱)にすぎませんが、それをよしとしてしまっています。

IAEAは原子力の利用を促進する立場の機関であり、中立とは言えません。 また、IAEAの安全基準と照らしてみても、少なくとも「正当化(justification)」、「幅広い関係者との意見交換」に適合していないはずなのですが、日本政府の見解を繰り返すような結論となっています。詳しくは、原子力市民委員会の「見解(注16)をご参照ください。[TOP]


注1)経済産業省「東京電力福島第一原子力発電所におけるALPS処理水の定義を変更しました」(2021年4月13日)

注2)経済産業省「多核種除去設備等処理水の取扱いに関する小委員会(第16回)」資料4

注3)共同通信「基準値超の放射性物質検出/トリチウム以外、長寿命も」2018年8月19日配信

注4)経済産業省「多核種除去設備等処理水の取扱いに関する小委員会(第10回)」資料3

注5) FoE Japan質問に対する東京電力からの回答(2022年2月8日)

注6)たとえば以下参照。

馬田 敏幸「トリチウムの生体影響評価」(『産業医科大学雑誌』Vol.31 No.1 (2017) p.25)

Ian Fairlie, A hypothesis to explain childhood cancers near nuclear power plants, Journal of Environmental RadioactivityVolume 133, July 2014, Pages 10-17

上澤千尋「福島第一原発のトリチウム汚染水」(「科学」2013年5月)

Tim Deere-Jones (Marine Radioactivity Research & Consultancy: Wales: UK),Tritiated water and the proposed discharges of tritiated waterstored at the Fukushima accident site

注7)東京電力「地下水バイパスの運用目標(排水の基準)について」(2016年12月16日)

注8)原子力市民委員会 「ALPS 処理水取扱いへの見解」

注9)NHK NEWS WEB「“処理水の放出反対”県漁連 が4年連続で特別決議採択」(2023年6月23日)

朝日新聞「全漁連、原発処理水の海洋放出に「反対」決議 東電は夏に放出予定」(2023年6月22日)

注10)朝日新聞「相双漁協「断固反対」 迫る処理水放出」2023年7月19日

注11)福島民報「決議や意見書、44市町村議会で可決」2020年10月9日

注12)朝日新聞「地方議会の4割が意見書」2023年7月6日

注13)NHKオンライン「処理水の海洋放出に反対 宮城県議会が全会一致で可決」2023年7月4日(7月31日閲覧)

注14)政府が「関係者」とした人たちを対象とする会合は多く開催されていますが、誰もが参加でき、意見を述べることができる公開の会合は、政府主催では開催されていません。

注15)地団研ブックレットシリーズ16「福島第一原発の汚染水はなぜ増え続けるのか」p.26

注16)原子力市民委員会「 見解:IAEA 包括報告書はALPS 処理汚染水の海洋放出の「科学的根拠」とはならない海洋放出を中止し、代替案の実施を検討するべきである 」(2023年7月18日)


【2分でわかる!汚染水動画シリーズ】

#1 汚染水って何?何が含まれているの?

#2 トリチウムってなに?

#3 代替案は?

#4 人々の声は?

 

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