【G7気候・エネルギー・環境大臣会合コミュニケに対する声明】日本政府は脱化石燃料に向け政策転換を
5月27日、ドイツでG7気候・エネルギー・環境大臣会合が開催されコミュニケが採択された1。G7コミュニケは、気候危機・生物多様性損失・汚染という三つの地球規模的危機に対する深い懸念を示した上で、国内電力部門の2035年までの脱炭素化や、排出削減対策が講じられていない化石燃料事業2への国際的な公的資金供与を2022年末までに停止することなどにコミットした。また、生物多様性保全や、循環型社会への移行、公正な移行についても盛り込まれた。しかし、日本政府の現在の政策では、2030年も化石燃料に大幅に頼ったエネルギー政策になっており、気候危機を止めることはできない。
私たちは、日本政府に対し、このコミュニケにおけるコミットを履行するために、再生可能エネルギー中心の社会と気候正義に基づく社会の実現に向けて政策を加速させることを要求する。
1. 石炭火力を2030年までに廃止し、電力供給は再エネに
コミュニケは、排出対策の講じられていない化石燃料インフラが将来にわたる排出を固定化させることに言及し、電力セクターの大部分を2035年までに脱炭素化させることを目指すと明言した。また石炭火力発電所のフェーズアウトについて、時期は明示されなかったが言及された。
日本政府は、第6次エネルギー基本計画改定において2030年度のエネルギーミックスを見直し、化石燃料で発電の41%を(うち石炭火力で19%)、原発で20〜22%、再生可能エネルギーで36〜38%供給するとしている。
2035年までの電力部門での脱炭素化達成のためには、国内政策の見直しが急務である。実用化・商用化の見通しが不確かで3、削減効果も疑問視される水素・アンモニア、CCSなどの燃料や技術をあてにしていては、2035年に間に合わない恐れが大きい。また原発は、リスクやコストが大きく、トラブルや事故、解決不可能な核のごみなどを考えれば、再稼働すべきではない。再生可能エネルギー中心の電力システムへの移行が必要である4。そのためには、エネルギー需要の抜本的な削減も求められる。
IPCCは、世界の平均気温上昇を1.5℃までに抑えるためには、世界の二酸化炭素排出を2030年に約半減しなければならないと指摘している。また、既存および計画中の化石燃料インフラからの二酸化炭素排出によって、2℃上昇をもたらすとも指摘している。日本の2030年度削減目標(NDC)は2013年度比で温室効果ガス46%削減という低い目標にとどまっており、そもそも1.5℃目標と整合しない。Climate Action Trackerによれば、「日本のGHG総排出量(土地利用、土地利用変化および林業(LULUCF)を除く)は、2030年までに2013年度比で62%、2040年までに82%削減される必要がある」と報告している5。1.5℃目標達成のために、日本政府は少なくとも60%以上の削減を掲げる必要がある。
2. 化石燃料事業に対する国際的な公的資金の停止を
声明では、パリ協定2条1項(資金の流れも脱炭素化させていくこと)を実施するため、化石燃料事業への公的支援をフェーズアウトさせ、クリーンエネルギーへの投資に転換していくことが盛り込まれた。特に、昨年のG7で、排出削減対策の講じられていない石炭火力発電への政府による新規の国際的な直接支援を2021年末までに終了させることを明言したことを確認し、さらに、2022年末までに排出対策の講じられていない化石燃料エネルギーセクターへの政府による新規の国際的な直接支援を終了することに条件付きでコミットした。
一方、日本政府は昨年のG7首脳宣言でのコミットメントにもかかわらず、2022年以降も海外の新規の石炭火力発電事業への公的支援を継続する姿勢を崩していない点は看過できない6。日本政府は、インドラマユ石炭火力発電事業(インドネシア)及びマタバリ石炭火力発電事業フェーズ2(バングラデシュ)の本体工事に対する国際協力機構(JICA)を通じた新規円借款について、既に実施に向けた手続を行っている案件、つまり新規の案件ではないため、G7首脳宣言の適用対象ではないとの解釈を示してきた。
海外の新規の化石燃料エネルギー事業全般への公的支援停止についても、日本政府による文言の解釈と運用に注視が必要である。石炭火力発電と同様、「新規」の解釈についての問題は言うまでもないが、それに加え、日本政府が現在、海外でも推進しようとしているアンモニア・水素混焼技術が「排出対策」の一部として含まれるようなことがあってはならない7。
日本政府は、G7の中でも2番目に大きな化石燃料事業への公的資金提供国である。2018年から2020年の間、年間平均10億9千万ドルの額を、海外における石油・ガス・石炭事業に拠出している8。
日本政府はG7でのコミットメントを確実に実施し、日本政府が例外扱いとしている石炭火力事業2案件について即時中止すべきである。また、化石燃料全般に対策を拡大したG7でのコミットメントを日本が恣意的な解釈をもって骨抜きにすることがないよう、パリ協定と整合した対応が求められる。
3. 人々・平和・環境を中心に据えた「エネルギー安全保障」の議論を
ロシアのウクライナ侵攻をうけて、ロシアからの化石燃料の輸入停止が進められている9。化石燃料の輸出はロシアの歳入の36%を占めており10、プーチン政権を支えてきたと考えられる。欧米企業がロシアでの事業から撤退を決める中、日本の官民の動きは鈍いままだ。例えば、日本が官民をあげて推進した「サハリン1」「サハリン2」といった石油・ガス事業に関して、欧米の石油メジャーは撤退を表明したが、日本の官民は継続する方針を明らかにしている。
現在、日本は一次エネルギーの約9割、電力の75%を化石燃料に依存している。このような状況の中「エネルギー安全保障」の議論では、原発再稼働や石炭火力の維持などの声も強くなっている。しかし、原発は、莫大な安全対策費が必要で、燃料も輸入に依存している。事故やトラブルも多く、戦争やテロの攻撃対象になるリスクもある。「エネルギー安全保障」とは真逆のものだ。海外産の化石燃料への依存こそ、エネルギーコスト上昇に結びついてきた。
気候変動対策のためには、G7コミュニケでも示されているように化石燃料依存を断ち切らなければならない。さらにコミュニケは、気候変動政策やエネルギートランジションに妥協することなく、ロシアのウクライナ侵攻によりもたらされた化石燃料高騰などへの対応が必要だと明記した。解決不可能な核のごみをはじめ、さまざまな問題を抱える原子力発電の再稼働、新設や新型炉の開発も、行うべきではない。早急に進めなければならないのは、エネルギー政策の根本的な見直しと、省エネの徹底など需給状況への対策だ。
今回の環境エネルギー大臣会合で示されたのは、日本には現状の政策の延長ではない大きな方向転換が必要だということだ。来年のG7でリーダーシップを発揮するためにも、日本政府には気候変動対策の強化、脱化石燃料に向けた行動と政策転換を求める。
以上。
注釈:
1. G7気候・エネルギー・環境大臣コミュニケ,2022年5月27日, https://www.g7germany.de/g7-en/g7-documents
2. アベイトメント。一般的には、温室効果ガスの排出量を減らすため化石燃料インフラなどにCCS(二酸化炭素回収・貯留)を設置することを指す。
3. トランジション・ゼロ「日本の石炭新発電技術:日本の電力部門の脱炭素化における石炭新発電技術の役割」2022年2月14日, https://www.transitionzero.org/reports/advanced-coal-in-japan-japanese
4. 議長国ドイツは、2030年までに電力消費量の80%以上を再エネとし、2035年以降は国内で発電・消費される電力部門はほぼ気候中立とする目標。JETRO「再生可能エネルギー拡大へ関連法改正案を閣議決定(ドイツ)」2022年4月18日, https://www.jetro.go.jp/biznews/2022/04/c4dc343756ca99e3.html
5. Climate Action Tracker「日本の1.5°Cベンチマーク~ 2030 年温暖化対策目標改定への示唆~」2021年3月, https://climateactiontracker.org/documents/849/2021_03_CAT_1.5C-consistent_benchmarks_Japan_NDC-Translation.pdf
6. FoE Japan等「「日本がG7首脳宣言を骨抜きにすることは許されない~ インドネシア・バングラデシュへの新規石炭火力支援は合意違反~」」https://foejapan.org/issue/20210716/3684/ 、及び、2022年4月14日参議院議員外交防衛委員会での審議における外務大臣答弁
7. 国際的な議論では、化石燃料インフラに対する排出対策としてはCCSがOECDルールの中で認められている。水素・アンモニアは、現時点で化石燃料起源が主であり、排出削減効果が疑問視されている。こちらの声明も参照のこと「日本政府は海外石炭火力支援に関するOECDルールの解釈を見直すべき ~アンモニア混焼等は支援対象外~」2022年02月25日 https://sekitan.jp/jbic/2022/02/25/5463
8. Oil Change International “Opportunity to shift G7 finance from fossils to clean energy” 2022年5月 https://priceofoil.org/content/uploads/2022/05/OCI-G7-Fact-Sheet.pdf
9. 例えば”G7 Leaders’ Statement” 2022年5月8日 https://www.whitehouse.gov/briefing-room/statements-releases/2022/05/08/g7-leaders-statement-2/
10. ロイター “Factbox: Russia’s oil and gas revenue windfall” 2022年1月21日https://www.reuters.com/markets/europe/russias-oil-gas-revenue-windfall-2022-01-21/