【抗議声明】国際協力銀行によるニュースケール社出資に抗議 - SMRでも、放射能汚染、核廃棄物、事故リスク、テロや戦争リスク変わらず

原発

2022年4月6日

4月5日、日本政府が100%出資する公的金融機関・国際協力銀行(以下、JBIC)がアメリカ合衆国法人NuScale Power(以下、ニュースケール社)への出資を発表した1。JBICによる出資額は約110百万米ドルとされている。ニュースケール社は小型モジュール炉(以下、SMR)2を研究・開発する企業で、日本政府はエネルギー基本計画等で、小型原子炉の研究を進めるとしており、JBICは「本出資はこのような日本政府の政策に基づく」としている。

FoE Japanは、以下の理由で、JBICによる今回の株式取得に対し抗議するとともに出資の撤回を要請する。

1.SMRという新たな装いをしていようとも、ライフサイクルにわたる放射能汚染、核廃棄物、事故リスクに加え、テロや戦争のターゲットとなるリスクなどの問題を抱えていることは、従来の原発と何ら変わりはない。既存の核廃棄物の処分方法等も決まっていない中で、さらなる核廃棄物を生み出すことになる。福島第一原発事故は収束しておらず、またウクライナ危機により原発の危険性はますます明らかになってきている。原子力を利用し続けることに、公的資金を投入することを容認することはできない。

2.SMRは、工場生産することで品質を保ち、また大量生産が可能になることでコスト低減につながると主張されている。しかし、「大量生産」ができるほどの原子炉に対する需要が生じるとは考えづらく、また周辺施設やテロ対策等は、規模に関わらず必要なコストは変わらないため、実際には単位発電量あたりのコストはむしろ増加する。補助金なしでは成り立たないのが現実である3。SMRは経済的にも成り立たず、気候変動対策として真に必要な対策を遅らせるだけである。公的資金を投入する正当性は見出せない。

JBICは出融資・保証を行う際に、『環境社会配慮確認のための国際協力銀行ガイドライン』(以下、環境ガイドライン)に基づき、すべての事業をスクリーニングにかけてカテゴリ分類し、そのカテゴリに応じて、環境社会配慮確認を行うこととなっている。原子力プロジェクトに関しては、『原子力プロジェクト にかかる情報公開配慮確認のための指針』(以下、指針)を有し、これに基づき情報公開等が行われることになっている。

指針は、「東京電力福島第一原子力発電所事故の教訓を踏まえ原子力の利用にあたって最も優先されるべきは安全であるとの認識の下、当行として、適切な 情報公開配慮の確保に最大限の努力を行うためのものである」としている4。しかし、本出資案件は、環境ガイドライン上、「通常特段の環境社会影響が予見されないプロジェクト(追加設備投資を伴わない株式取得)であり、かつ環境ガイドラインに掲げる影響を及ぼしやすい特性を持たず、影響を受けやすい地域またはその近傍に立地せず、人権への重大な影響を及ぼす可能性がないため」とされ、カテゴリCに分類されている5。このため、ほとんど情報公開が行われていない。

研究を行う企業の株主取得とはいえ、NuScaleは小型炉の商業化を目指しており、環境社会や人権への影響が予見されないとは到底考えられない。むしろ大規模かつ不可逆的な環境社会影響を伴う事業に直結することが予想される。

このため、本来であればJBICは本案件をカテゴリAとし、適切な情報公開とともに必要な環境レビューを行うべきであった。今回の出資決定は、JBIC自らのガイドラインにも違反し、必要な手続きを行わなかったことになる。

以上

【脚注】
注1: 国際協力銀行プレスリリース「米国法人NuScale Power, LLCに対する出資」(2022年4月4日)
https://www.jbic.go.jp/ja/information/press/press-2022/0404-016140.html
2021年に日揮とIHIがニュースケール社へ出資するために設立した特別目的会社を経由してJBICが出資を行うとしている。
注2: SMRとは、おおむね 30 万 kW 以下の出力で、モジュール毎に工場で生産して現地で組み立てる方式の原子炉を指す。
注3: 松久保肇(原子力資料情報室事務局長)プレゼン資料「小型原子炉は未来のエネルギー?」(2022年1月27日)https://www.foejapan.org/energy/fukushima/pdf/20220127_1.pdf
注4: 国際協力銀行「原子力プロジェクトにかかる情報公開配慮確認のための指針」(2017年12月)
https://www.jbic.go.jp/ja/business-areas/environment/images/consultation01.pdf
注5: カテゴリ分類(米国法人の株式取得)https://www.jbic.go.jp/ja/business-areas/environment/projects/page.html?ID=63244&lang=ja

 

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