フィリピン・タガニート・ニッケル鉱山開発・製錬事業と日本の関わり
場所: フィリピン 北スリガオ州クラベル町タガニート
鉱山開発(1987年鉱採掘開始。4,862.75 haの採掘許可。2034年まで)
事業者:タガニート鉱山社(TMC)
NAC * 65%、大平洋金属33.5%、双日1.5%
* NAC(Nickel Asia Corporation)に対する住友金属鉱山の出資比率は26%
製錬所(2013年9月操業開始 。ニッケル年産 3 万トン)
事業者: タガニートHPALニッケル社
住友金属鉱山75.0 %、NAC 10.0 %、三井物産15.0 %
総工費: 約15.9億ドル
融資=国際協力銀行(JBIC)
約7.5億ドル(2011年7月)、約1億ドル(2013年2月=民間と協調)
付保=日本貿易保険(NEXI)(2011年7月)
問題点
先住民族ママヌワの生活・文化への影響
1987年から大平洋金属と双日が出資する日系企業が採掘を開始した後、中国や台湾の企業も進出してきたため、タガニート地域一帯に採掘現場が広がる中、その地域で伝統的な生活・文化を営んできた先住民族ママヌワの人びとは、20年以上もの間に少なくとも5回は居住地から追い立てられてきた。鉱山企業が移転地を用意したのは2011年になってからであった。
移転地での生活は、コンクリートの家が用意され、電気も通っており、一見よい環境に見える面はあるが、農業を行なう場所もなく、近海も鉱山サイトから赤土が流出して魚が獲れないため、移転地の近くで生活の糧を見つけるのは難しい状況となっている。移転地から離れた場所に生活の糧を求める先住民族も見られるが、移動手段に費用がかかることも障害の一つとなっているケースもある。
先住民族ママヌワへの人権侵害
タガニート地域でニッケル鉱山開発による先住民族への影響について懸念を示し、中国系の企業が同地域で計画していた鉱山開発の拡張に反対の声をあげていたヴェロニコ・デラメンテ氏(享年27歳)が、2017年1月、移転地近くでオートバイに乗ってやってきた2人組によって射殺された。デラメンテ氏は、生前から死の脅迫を受けていた。
このように、自分たちの土地の権利や生活を守ろうと声をあげてきた先住民族や住民が殺害されるという超法規的処刑(Extrajudicial killings)は、さまざまな開発現場で起きている。こうした人権状況の下で事業に関わる日本の関連企業・関連政府機関は、人権状況の改善に向けた対応を現地国政府に要請すること、また人権状況が改善されない場合には、日本が投融資を行なう現場で、土地や環境を守ろうとしている先住民族や住民に対する人権侵害の加担者になる可能性が否めないことから、投融資の停止や撤退を考慮することが求められている。
近隣河川の重金属(六価クロム)汚染
タガニート鉱山の周辺地域では、ハヤンガボン川とタガニート川の2箇所の河川水、また湧水で、雨季になると、日本の環境基準(0.02 mg/L以下)を超える六価クロムが検出され続けている。
六価クロムは発がん性、肝臓障害、皮膚疾患等も指摘される毒性の高い重金属である。地元住民の健康被害等を未然に防止する観点からも、早急かつ有効な汚染防止対策の確立と実践が事業者に求められる。日本の関連企業・関連政府機関は、地元政府機関の甘い監視や規制の下、『ダブル・スタンダード』で公害輸出をすることがないよう、日本国内と同等の基準を遵守するための積極的な対応をとるべきである。
労働者の人権侵害―違法な雇用形態や不当解雇
住友金属鉱山が筆頭株主のタガニートHPALニッケル社(THPAL)は、製錬事業に関わる人員輸送業務を担う運転手を中間業者からの派遣の形で確保してきた。運転手は、THPALが契約する中間業者を変更すると、新たな中間業者に移籍して同製錬事業における同じ業務を担い続ける一方、各中間業者とは1年間などの期間雇用契約を繰り返し結ばされてきた。
運転手は、こうした自分たちの雇用形態等がフィリピン労働法に違反する「偽装請負」に当たると指摘。同法に基づき、6ヶ月の勤務後に自分たちがTHPALの正社員になる権利があると主張してきた。こうした批判が内外からなされるようになった後、3社目の中間業者(MTEL社)が初めて期間雇用契約を途中で変更する形で、運転手は「中間業者の正社員」であるという体をとるようにはなったものの、THPALが直接雇用する形で正社員になれた運転手は依然として一人もいない状況が続いている。
また、「偽装請負」であることを示す状況などを当局に証言した運転手が、不当に解雇される事態も起きた。