【声明】処理汚染水の海洋放出決定に抗議する

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本日、日本政府は関係閣僚会議にて、福島第一原発の敷地でタンク保管されているALPS処理汚染水の海洋放出処分を決定した。昨年2月、ALPS小委員会の報告書が発表されて以来、公開の場での説明会や公聴会は一切行われなかった。モルタル固化処分や石油備蓄で使われる堅牢な大型タンクによる安定貯蔵などの代替案が提案されているのにもかかわらず、まったく議論がなされなかった。漁業関係者をはじめ国内外で広がる多くの反対や懸念の声を無視し、きわめて非民主的なプロセスで一方的に決定された。私たちは今回の決定に強く抗議する。

1. 放射性物質の総量が不明

タンクにためられている水には、トリチウムが約860兆ベクレル含まれている。これに加え、建屋や炉内に約1,200兆ベクレル残留していると推定されているが、定かではない。
トリチウムのみならず、セシウム134、セシウム137、ストロンチウム90、ヨウ素129などの放射性物質が残留し、タンク貯留水の約7割で告示濃度比総和1を上回っている1。トリチウム以外の核種が残留していることがはじめて明らかになったのは2018年の共同通信2による報道によってであり、それまで東電はトリチウム以外の放射性物質は除去し、基準を下回ると説明していた。
現在、東電はトリチウム以外の放射性物質について「二次処理して、基準以下にする」としているが、どのような放射性物質がどの程度残留するか、その総量は示されていない。

政府は最大年間22兆ベクレルのトリチウムを海洋中に放出するとしている。原発事故以前、福島第一原発からの海洋中へのトリチウムの放出は年間1.5~2.5兆ベクレルであった3。すなわちその約10倍の量のトリチウムを、数十年にわたり海洋に放出することとなる。

東電は、仮に処理汚染水を海洋放出する場合、希釈してトリチウム濃度を1,500ベクレル/リットルにするとしている。一部メディアが、これを「基準の40分の1に薄めて放出」としているが、これはミスリーディングである。6万ベクレル/リットルはあくまでトリチウム単体であった場合の基準である。福島第一原発では、地下水バイパスからの排水のトリチウム濃度を決める際、敷地境界線上における法令上の基準である年間追加線量1ミリシーベルトを達成するため、敷地内の施設からの放射線量など他の線源を考慮し、排水からの影響を約2割とし、また、排水に含まれる他核種も考慮に入れて1,500ベクレル/リットルと決められた経緯がある。つまり1,500ベクレル/リットルは、あくまで規制上の要求であったことに注意が必要である。

2. 検討されなかった代替案

技術者や研究者も参加する「原子力市民委員会」は「大型タンク貯留案」、「モルタル固化処分案」を提案し、経済産業省に提出した。十分現実的な内容で実績があるにもかかわらず、これらはまったく検討されなかった。
「大型タンク貯留案」は、ドーム型屋根、水封ベント付きの大型タンクを建設する案だ。建設場所としては、福島第一原発の敷地内の7・8号機建設予定地、土捨て場などを提案。大型タンクは、石油備蓄などに使われており、多くの実績をもつ。ドーム型屋根を採用すれば、 雨水混入の心配はない。防液堤の設置も含まれている。「モルタル固化処分案」は、アメリカのサバンナリバー核施設の汚染水処分でも用いられた実績がある。汚染水をセメントと砂でモルタル化し、半地下の状態で保管するというものである。
 ALPS小委員会の報告書には、東電が一方的に、大型タンク保管案を否定する見解のみが記され、今回の政府決定にも採用された。その過程で、一度たりとも、提案を行った原子力市民委員会に対するヒアリングや議論等は実施されなかった。

3. 漁業者との約束を反故に

地元の漁業者は、事故直後から、東電による汚染水の意図的、非意図的な放出に何度も苦汁を飲まされてきた。2011年4月、東電は汚染水1万トンを「緊急時のやむをえない措置」として放出。この時、漁業者との協議はなく、全漁連は東電に対して強く抗議した。2013年には、原発構内の高濃度の汚染水が流出し続けていることを、東電は後から発表した。2015年、福島県漁連が地下水バイパスやサブドレンの水を海洋放出することを了承せざるを得なかったとき、タンクにためられているALPS処理汚染水に関して、東電は「関係者の理解なしには処分をしない」と約束した4。それにもかかわらず、海洋放出をするとなれば、この約束を反故にすることなる。

地元および全国の漁業者は繰り返し反対の意向を表明している。

福島県漁業協同組合連合会の野崎会長は、「地元の海洋を利用し、その海洋に育まれた魚介類を漁獲することを生業としている観点から、海洋放出には断固反対であり、タンク等による厳重な陸上保管を求める」と強く反対している。
反対しているのは福島の漁業者だけではない。茨城沿海地区漁業協同組合連合会も2020年2月、汚染水を海に放出しないように求める要請を行った。宮城県漁連も海洋放出に反対の意見を表明している。国際環境NGO FoE Japanが、岩手、宮城、福島、茨城、千葉、東京の6都県の漁協を対象に行ったアンケートにおいても、海洋放出に関してはほぼすべての漁協が反対であった5 。

2020年6月23日には全国漁業協同組合連合会(全漁連)が、通常総会にて、汚染水に関し「海洋放出に断固反対する」との特別決議を全会一致で採択した。 ある漁業者は以下のように語ってくれた。
「漁業の復興に向けて、少しずつ前進してきた。これから、福島の海をもっとよくしていかなければ、競争力は取り戻せない。いかに浄化するとはいえ、放射能は含まれている。海洋放出に反対する」。政府はこうした漁業者の声を重くうけとめるべきではあるまいか。

4. 非民主的な決定プロセス

ALPS小委員会が報告書を取りまとめて以降、経産省はその内容に関する公の場での説明会や公聴会などは実施していない。
公聴会を開催する代わりに、経産省は、2020年4月以降、自らが選んだ産業団体や自治体の代表からの「御意見を伺う場」を、福島や東京で、計7回開催した。関係各省の副大臣が出席する中、事前に経産省から説明を受けている自治体の首長や各団体の代表が一人ずつ意見を言い、質疑もほとんど行われない、という極めて儀式的な会合であった。発言をした44人中、43人は男性。結果的に、女性や若者の声はきかれなかった。
こうした形式的な意見聴取の場でさえ、福島県漁連のみならず、福島県森林組合連合会、福島県農業協同組合中央会も海洋放出、大気放出に反対の意見を述べた。すなわち、地元の一次産業の団体が、いずれも反対したことになる。

5. 開かれた検討および議論を

政府やメディアは、ALPS処理汚染水の海洋放出の影響を「風評被害」に限定し、矮小化している。しかし処理汚染水の海洋放出は、放射性物質を環境中に放出することである。本来、原発事故は人災であり、その加害者は国及び東電である。「風評被害」のみを強調する政府の手法は、海洋放出の影響やリスクについて指摘する人をあたかも加害者のようにみなし、健全な議論を封じることにつながる。
今からでも遅くない。政府は、処理汚染水に含まれる放射性物質の総量を示したうえで、代替案およびリスクについて、開かれた検討および議論を行うべきである。

脚注:
1.それぞれの放射性物質の実際の濃度を告示濃度限度で除し、それを合計したもの。排出するときは1を下回らなければならない。
2. 共同通信「基準値超の放射性物質検出/トリチウム以外、長寿命も」2018年8月19日
3. 原子力規制庁「原子力施設に係る平成27年度放射線管理等報告について」によれば、福島第一原発からのトリチウム放出量(ベクレル/年)は以下の通り。

2006年2007年2008年2009年2010年
約2.6兆約1.4兆約1.6兆約2.0兆約2.2兆

ちなみに、原発事故以前の福島第一原発からのトリチウム以外の放射性物質に関しては、検出限界以下であった。
4. 2015年8月25日「東京電力(株)福島第一原子力発電所のサブドレン水等の排水に対する要望書に対する回答について」
5. 2020年5月19日「処理汚染水について6都県の漁協にアンケート」FoE Japan


FoE Japanは、ALPS処理汚染水をめぐる福島の漁業者らの声を「見える化」するため、映像を作成し、公開しました。
漁業者たちは、試験操業を行いつつ、独自に放射能測定を行うなど、信頼を回復する努力を積み重ねてきました。漁業の復興に向けて一歩ずつ積み上げ、ようやく漁獲制限がすべて解除になった矢先に…。漁業者たちの言葉に苦悩がにじみます。


▼処理汚染水について6都県の漁協にアンケート
9割が海洋放出に「反対」、85%が「福島県外での意見聴取を行うべき」
https://www.foejapan.org/energy/fukushima/200519.html


【参考情報】
東電福島第一原発で増え続ける、放射能を含んだ「処理水」Q&A

 

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