【声明】置き去りとなったALPS処理汚染水長期陸上保管の選択肢~きわめて不十分な小委員会の議論~

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出典:第14回 多核種除去設備等処理水の取扱いに関する小委員会 資料3
https://www.foejapan.org/energy/fukushima/img/191223.jpg (クリックして拡大

東電福島第一原発の敷地にたまり続けるALPS処理汚染水に関し、経産省のもとに設置された「多核種除去設備等処理水の取扱いに関する小委員会」(ALPS小委員会)が、本日にも会合を行い、近日中に何らかの取りまとめを発表するとみられています。 しかし、現在までの同委員会での審議を見る限り、汚染水の長期陸上保管や敷地利用に関しての議論は、きわめて不十分と言わざるをえません。

<陸上保管案>
昨年8月、経済産業省ALPS小委員会が実施した公聴会では、漁業関係者も含めた多くの参加者から「陸上長期保管を行うべき」という意見が表明されました。これを受けて山本 一良委員長は、陸上保管案も一つのオプションとして検討することを約束。しかし、タンク保管などの陸上保管がようやく俎上に上がったのは、一年近くたった今年8月9日の第13回委員会でのことでした。

陸上保管案については、大型プラント技術の専門家も複数参加している民間のシンクタンク「原子力市民委員会」が、「大型タンク貯留案」、「モルタル固化案」を発表し、すでに経済産業省に提出しています(注1)。しかし、「大型タンク貯留案」に関しては、第13回の会合で東電が「検討したが、デメリットが大きい」という趣旨の説明を行ったのみ。これに対する質疑や議論は行われていません。「モルタル固化案」に関しては、小委員会の議論の俎上にすらのぼっていません。
東電が「大型タンク貯留案」のデメリットとして挙げたのは、「敷地利用効率は標準タンクと大差ない」「雨水混入の可能性がある」「破損した場合の漏えい量大」といった点でした(注2)。原子力市民委員会は、これに対し、「石油備蓄などに多くの実績があり堅牢である」、「面積当たりの貯水量が向上する」、「ドーム型を採用すれば、 雨水混入の心配はない」、「提案には、防液堤の設置も含まれている」とした上で「長期保存による放射能減衰の効果は大きい」としています。
また、「モルタル固化案」について、ALPS小委員会事務局は、「実績がない」としていますが、原子力市民委員会は、国内外で「しっかりとした実績がある」としています。
ALPS小委員会は、こうした反論をきき、きちんとした議論を行うべきではないでしょうか?

<敷地利用>
敷地をめぐる議論も、中途半端なままです。
東電が第14回会合で示した敷地利用計画は、使用済核燃料や燃料デブリの一時保管施設(81,000m2)、資機材保管・モックアップ施設に加え、研究施設など、本当に必要なのかよくわからないものも含まれています(注3)。また、使用済み核燃料取り出しの計画はつい最近最大5年程度先送りすることが発表されたばかりで(注4)、デブリの取り出しについても、処分方法も決まっておらず、このままのスケジュールで取り出すことは現実的ではありません。

委員からは、「福島第一原発の敷地の利用状況をみると、現在あるタンク容量と同程度のタンクを土捨て場となっている敷地の北側に設置できるのではないか」「敷地が足りないのであれば、福島第一原発の敷地を拡張すればよいのではないか」などといった意見がだされました(注5)。
敷地の北側の土捨て場にもし大型タンクを設置することができれば、約48年分の水をためることができると試算されています(注6)。
ALPS小委員会では、委員から再三にわたり、「土捨て場の土を外に運びだすことができないのか」という質問がなされましたが、原子力規制庁からは、「外に出す基準について検討が必要」という趣旨のあいまいな回答にとどまっています。
ちなみに、土捨て場にためられている土について、東電は「数Bq/kg~数千Bq/kg」と説明しています(注7)。
敷地拡大の可能性については、事務局は「福島第一原発の外側である中間貯蔵施設予定地は、地元への説明を行い、福島復興のために受け入れていただいており、他の用途で使用することは難しい」としています(注8)。地元への説明・理解は不可欠ですが、その努力をまったくせずに、「敷地拡大は困難」という結論を出すことは時期尚早でしょう。
また、事務局が第15回会合で示した取りまとめ案(資料4)は、事務局の説明を一方的に書いている部分委員が提案してもいないことが盛り込まれているなど問題が多いものです。
ALPS小委員会は、敷地の利用状況・利用計画・拡大の可能性について、土捨て場の土の運び出しの可能性も含めて、真摯な検討を行うべきでしょう。

私たちは、経済産業省ALPS小委員会が陸上長期保管案や敷地利用に関する検討を継続して行うとともに、あらためて、福島県内外で関心を有する幅広い市民参加の上での公聴会を行うことを求めます。

注1) 原子力市民委員会「ALPS 処理水取扱いへの見解」2019年10月3日
http://www.ccnejapan.com/20191003_CCNE.pdf
注2) 第13回 多核種除去設備等処理水の取扱いに関する小委員会 資料4-2「多核種除去設備等処理水の貯留の見通し」
https://www.meti.go.jp/earthquake/nuclear/osensuitaisaku/committtee/takakusyu/pdf/013_04_02.pdf
注3) 第14回 多核種除去設備等処理水の取扱いに関する小委員会 資料3 「廃炉事業に必要と考えられる施設と敷地」
https://www.meti.go.jp/earthquake/nuclear/osensuitaisaku/committtee/takakusyu/pdf/014_03_01.pdf
注4) 福島核燃料搬出、23年度断念へ(共同通信、2019/12/20 06:53)
https://this.kiji.is/580500228437165153?c=39546741839462401
注5) 第13回、第14回 多核種除去設備等処理水の取扱いに関する小委員会
注6) 2019年11月17日「公開シンポジウム:どうなっているの? ALPS処理汚染水 「海洋放出が唯一の選択肢」は本当か?」川井康郎氏資料による
注7) 第15回 多核種除去設備等処理水の取扱いに関する小委員会における東電発言 注8)第15回 多核種除去設備等処理水の取扱いに関する小委員会 資料4
https://www.meti.go.jp/earthquake/nuclear/osensuitaisaku/committtee/takakusyu/pdf/015_04_01.pdf

 

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