COP22マラケシュ会議~マラケシュは「アクションCOP」としての期待に応えたか?

気候変動

昨年パリ協定が採択され、地球の平均気温上昇を1.5度に抑えるというパリ協定の目標を達成するためにも、すでに気候変動の影響を受ける人々を救うためにも、いますぐの「アクション」が必要と言われ、COP22は「アクションのCOP」として期待されていました。
ですが、マラケシュ会議はアクションのCOPとしての期待にこたえることはできず閉幕しました。
詳細なCOP22の報告は、FoE Japanの声明をご覧ください。(PDFはこちら)

COP22マラケシュ会議は「アクションのCOP」ならず
先進国は2020年前の削減目標と途上国支援の強化を

2016年12月14日

「アクションのCOP」と言われたマラケシュ会議ですが、残念ながら真のアクションと緊急性に欠けたCOPとなりました。特に、先進国による2020年前の削減目標と途上国支援の強化がほとんどなかったことは、今回のCOPが「アクションのCOP」としての期待に応えられなかったことを意味します。

記録的な速さでパリ協定が発効し、第一回パリ協定締約国会合(CMA1)には70カ国以上の閣僚が参加しました。そして今回のCOPでは、2018年までにパリ協定を実施するためのルールブック作りを行う事が合意されました。しかしパリ協定が実際に実施に移されるのは2020年以降です。さらに、直近で採れる行動の決定を2018年のCOP24まで先送りしたため、2020年前の行動強化の可能性をほぼ見送ってしまったことになります。地球の平均気温上昇を1.5℃以下に抑えるためには、今後10年程の間に急速な温室効果ガス削減が必要なことを考えると、このCOPの結果は将来を危うくするのものと言えるでしょう。

すでに気候変動の影響を深刻に受けている人々への実質的な支援に関する議論は、2019年に開催されるワルシャワ国際メカニズムのレビュー時まで持ち越されました。アフリカ再生可能エネルギーイニシアチブ(AREI)や、交渉の外で発表されたいくつかの取り組み以外、マラケシュCOPが具体的な行動に帰結する事はありませんでした。石炭火力や原発などの「汚いエネルギー」に対する現場レベルでの市民の取り組みや、エネルギー変革を加速させていくことの重要性がさらに明確になりました。

また、アメリカ大統領選でトランプ氏が選出されたことは、気候変動交渉に目に見える影響を与えた訳ではありませんでしたが、トランプ氏に関するメディアの狂乱や、トランプ氏に関する話題が交渉の傍で見られました。各国政府代表団などは「様子見」でしたが、アメリカ大統領選の結果が会議場内の空気を暗くし、いつもより遅いペースで進むこのCOPにも影響を与えました。

マラケシュへの期待

マラケシュ会議では、COP16カンクン会議で合意されていた2020年までの行動の強化、そして、パリ協定が発効したことによる政治的モメンタムの維持が期待されていました。以下、項目別に振り返ります。

2020年前の野心強化

マラケシュでの重要な課題の一つは、「気温上昇を1.5℃以下におさえる努力をする」というパリ協定のゴールを、どうやって達成するかということでした。そのためには2020年前の行動が重要でした。

COP22に先立って発表されたUNEP(国連環境計画)のエミッションギャップレポート1は、現時点で提出されている各国の国別目標(NDCs)を積み上げると、2020年から2030年の間に2.9℃から3.4℃の気温上昇が起こると指摘しています。このレポートは、先進国が途上国に対し十分な支援をしなかった場合、途上国は国別目標の実施が出来ないだろうという問題についてはとくに考慮していません。つまり、現状の気候資金の議論が不十分であることを加味すると、途上国への資金が不足して国別目標の実施が困難になった場合に、気温上昇はさらに進む可能性があります。

1.5℃目標を達成する可能性を残すために、2020年目標をさらに強化する必要があります。また、もし削減目標の強化がなければ、政府はBECCS(CO2回収貯蔵バイオエネルギー)などのまだ安全性や実効性が確認されていないネガティブエミッション技術に舵を切る可能性があります。そういった技術は大規模に実施するにはまだ実証が足りず、さらに食料安全保障への影響も懸念されます。また、土地の需要が増大することにより、脆弱な国々への負担が不当に増える可能性があります。

適応と損失と被害に対する国際的な支援があれば、途上国は排出削減やエネルギー変革にもっと国家予算を振り分けることが出来ます。特にアフリカグループや途上国グループ、同志途上国グループなどは、今後数年の行動の強化を求めています。パリ協定特別作業部会(APA)での議論が注目されましたが、2020年前のアクション、気候資金、技術移転、そして能力強化等の重要な課題は議題から外されているため、マラケシュ会議の場では議論の内容が見えにくかったといえます。

2020年から2030年の間の野心引き上げの機会として注目されている2018年の促進的対話は、マラケシュ会議2週目に開催された議長国モロッコによる非公開のコンサルテーションの場で議論され、またCOP22の決定文書にも記載がありました。詳細については2017年春の補助機関会合で話し合われることになりました。

残念ながら、すべての参加国が公平な負担を負い、2020年前のアクションを強化することの重要性は先進国の政府からほとんど認識されていませんでした。FoEグループや宗教団体、労働者組合、その他の環境団体は合同で新たなレポート(「市民社会公平性レビュー 1.5℃への道筋」) を発表し、この問題について強調しました。

日本やEUなどは2020年までの削減目標をすでに達成しているにもかかわらず 、2020年目標の強化がなされることはなく、オーストラリアのみがマラケシュ会議中に京都議定書の第二約束期間に関するドーハ改正を批准しました。EUがドーハ改正を批准しなければ、ドーハ改正発効条件が満たされません。

また、マラケシュの地で先進国から2020年目標の強化についてほとんど聞く事はありませんでした。二週目に開催された野心と支援に関する促進的対話の場では、2020年以降の能力強化に関する支援の表明が相次いで見られましたが、先進国の閣僚の多くが促進的対話に出席しませんでした。

パリ協定実施の準備と2020年以降

国際条約としては前例にない早さで、2016年11月4日に発効したパリ協定。最初のパリ協定締約国会合(CMA1)は、11月15日火曜日に開幕し、70名以上の国家元首らも出席しました。会議最終日、気候変動と持続可能な開発に向けた「マラケシュ行動宣言」が採択され、国際社会に対し団結して気候変動に取り組むよう呼びかけました。CMA1は、最初の決議を行いましたが、気候変動枠組条約締約国の半数程しか批准が間に合わず、CMAに正式参加できなかったことにより、議論はCOPを通じて非公開で行われました。

会議の結果、CMA1は一時中断し、2017年と2018年に再開する事になりました。また、先進国と小島嶼国連合が緩和中心の議題設定に成功し、適応に関しても緩和と同等の扱いと定め、途上国に対して貢献と支援を求めるパリ協定の条項(パリ協定3条)への言及を削除しました。一方、途上国の団結した努力と要望により、京都議定書の下の適応基金をパリ協定の下で2018年から継続させる事に決まりました。

後発開発途上国グループと小島嶼国連合は、CMA1は、準備ができている議題に関しては2017年にでも決定を行うべきと主張しましたが、先進国は2018年にすべての議題をまとめて採決することにこだわりました。

会議の一週目は、パリ協定のルールブック作りに焦点が置かれました。忘れてはならないのは、パリ協定は2020年から運用されるということです。パリ協定のルール作りはまだ初期段階で、ほとんどがパリ協定特別作業部会(APA)の下で行われました。パリ協定に関する重要な項目に対する各国の意見等はファシリテーターノートにまとめられ、次の補助機関会合に送られました。マラケシュでは重要な決定は行われず、次のAPAの場で議論が続けられるということになります。COP22は、APAは遅くとも2018年に作業を完了する事、2017年半ばまでの作業計画について採択しました。

今年5月に採択されたAPAの議題は、パリ協定の下での排出量削減や報告義務など、先進国が優先したい議題が中心でした。マラケシュ会議中に行われたAPAでは、共通だが差異ある責任の原則のもと、報告に関するルールに途上国に対する柔軟性を取り入れるかどうか、国別目標に係るアカウンティングの共通ルールづくり、先進国による適応への貢献と途上国への支援が削減目標の進捗とともにパリ協定の下で評価されること、などが課題としてあげられました。半数以上が国別目標に適応の貢献と支援の必要性を明記しているにもかかわらず、先進国は適応を国別目標の任意的な要素とすることを要求しました。

国別目標における農業セクターの役割に関してはSBSTA(科学上及び技術上の助言に関する補助機関会合)において、EUがバイオ燃料生産のために農地を利用するべきとする見方を示しました。グローバルな炭素取引に関してもSBSTAで議論されましたが、結論はでず、次の補助機関会合において議論が継続されます。気候資金に関する議論や支援メカニズムの議論は先送りされ、緩和のみを議論する先進国の意図が表れていました。途上国への能力強化支援に関しては、野心と支援のための促進的対話の中で、パリ協定のための途上国能力強化「透明性に関する能力開発イニシアティブ(CBIT)」が発表され、多数の先進国が資金拠出を表明しました。

気候資金

途上国は、緩和への資金との不均衡を是正するため、無償資金支援をベースとした適応資金の強化の議論を重視しました。またアフリカグループは支援を4倍にするよう求める意見を提出しましたが、先進国は同意しませんでした。採択されたCOP決定文書は、先進国に対し、無償資金協力をベースとした適応資金の強化を呼びかけましたが、明確なステップや目標設定はなされませんでした。

COP/CMA決定では、京都議定書の下にある適応基金について、パリ協定の下に継続する事を決定し、次回のAPAで詳細な議論を続けることが合意されました。この基金はコミュニティーや地元レベルのプロジェクトを直接支援する適応支援に特化した基金です。

先進国は、途上国支援のスケールアップに前向きな姿勢を見せませんでした。国別目標に示されている途上国の必要資金だけでも4兆ドルを越えると試算されており、途上国の取り組みが確実に実施されるか懸念されます。さらに先進国は「1000億ドルへのロードマップ(Roadmap to 100 Billion) 」と題するレポートを発表し、2020年までに年間1000億ドルの気候資金を拠出するという目標(COP16決定)が順調に進んでいることを強調。しかしこのレポートはUNFCCCで認められた方法論を用いず、商業レートでのローンや民間資金、既存のODAなども含んでいます。そのため、途上国はUNFCCCの第4条に定義される「公的資金で、先進国から途上国に流れ、既存のODAの転用ではない新規かつ追加的な」気候資金をカウントすべきであると強調。先進国が提出したレポート(ロードマップ)に関する言及は最終的に本文から削られ、脚注に言及されるにとどまりました。

また、ロードマップは、先進国は2014年に、すでに620億ドルを拠出したとしていますが、途上国は、UNFCCCの下での公式な気候資金に関する委員会である資金常設委員会(SCF)の隔年レポート を引用し、二国間の公的資金を積み上げると266億にとどまるとし、さらに、オックスファムによる調査 (Shadow Report, 2016)では2014年度における贈与相当分換算による額では110億から210億ドルにとどまると指摘しています。

またロードマップは、日本の高効率石炭を気候資金から除外しており、先進国の間で石炭支援を気候資金に含めないのが常識となっていることが改めて明らかになりました。

COP決定は、2018年に次の気候資金の包括的な隔年評価を行う事、支援のスケールアップに関するワークショップと閣僚級対話を促進的対話にあわせて行う事を明記しています。

影響を受ける人々

新たな研究では、土地劣化により1億3500万人が住んでいる場所を追われるリスクにあるとされ、数千万人の生計手段が脅かされ、貧困に陥るリスクがあると示されています。ですが、COP22において、影響を受ける人々への資金や支援に関して進展は見られませんでした。

COP22は、すでに気候変動の影響を現場で受けている人々への新たな支援や行動をとる事なく終わりました。先進国は緊急性を認識せず、必要な議論は2019年に先送りにされました。損失と被害のためのワルシャワ国際メカニズムは5カ年計画を採択し、次のレビューは2019年に予定されています。計画には、人口移動に関するタスクフォースの活動、救援機関のコーディネートや、保険などに関する情報集約サイト、そして初めて損失と被害に関する資金の需要のアセスメントが行われることが含まれています。損失と被害の資金面とあわせ、2019年にレビューを行う予定です。

SBSTAでの9年に及ぶ農業に関する交渉は一週目に決裂しました。途上国は、現場で気候変動の影響を受けている農民への支援を呼びかけましたが、EU、オーストラリア、カナダ、アメリカ等の先進国がそれを阻止しました。農業セクターは二酸化炭素吸収源としてパリ協定に貢献すべきとの見方を示し、さらにEUは、農地をバイオ燃料生産に転用する考えを示す意見書(ノンペーパー)を提出しました。SBSTAは2017年の補助機関会合で農業に関する議論を再開します。

農業に関する成果がなかったことは、それぞれの国の削減目標を達成するために途上国の土壌炭素を含めたい先進国の意図があったことが背景にあり、農業交渉はAPAにおける国別目標のアカウンティングルール、そして国際炭素取引の交渉と併せてみていく必要があると言えます。

国際炭素取引

炭素取引に関するアプローチ、メカニズム、作業計画については、一週目のSBSTAで意見交換がなされました。それには、グローバルな削減につながるものなのか、純粋なオフセットなのか、「国際的に移転可能な緩和成果」の定義、共通のアカウンティングルール、統治構造(ガバナンス)の必要性、REDD+の扱い、農業、CDMのルールをパリ協定の下での新たなメカニズムに採用するかどうかなどについて話し合われました。これについても、2017年の補助機関会合で議論が続けられる事になりました。

アフリカ再生可能エネルギーイニシアティブ(AREI)
真に追加的な削減をもたらす前向きな成果として、アフリカ再生可能エネルギーイニシアティブ(AREI )が、COP22で軌道にのり始めました。2015年パリ会議で立ち上がったこのイニシアティブは、地域主導のエネルギーと固定価格買取制度(FIT)を組み合わせエネルギー改革を進め、アフリカのエネルギー貧困の問題にも同時に取り組むものです。AREIは2020年までに10GW、2030年までに300GWの再生可能エネルギーを供給することを目指しています。アフリカ連合は、20億ドルの拠出と支援を表明しており、日本を含む先進国も100億ドルの支援を表明しています。

この取り組みは「アフリカ自身によるアフリカのための取り組み」で、FoEインターナショナルなどがかかわっているグローバルなエネルギー改革イニシアチブ(GREEAT)にそったものです。またFoEインターナショナルはAREIに継続的にかかわっています。その他の途上国もこのアフリカ主体のイニシアティブに則り、それぞれの再生可能エネルギーの取り組みを広げようとしており、COP22の場でも議論が行われました。

次回のCOP

COP23は2017年、議長国フィジーの下、ドイツのボンで開かれます。また、COP24はポーランドで開催することが決定しました。

注釈:
1. https://uneplive.unep.org/media/docs/theme/13/Emissions_Gap_Report_2016.pdf
2. ★関連ページ
2016.11.6~18 COP22現地報告ブログ
2016.11.1 2050年温室効果ガス80%削減を実現する具体的長期戦略に向けた提言

 

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