生物多様性条約第10回締約国会議から10年かつてない生物多様性の危機に直面する私たち

バイオマス

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名古屋で開催された生物多様性条約第10回締約国会議(COP10)から10年が経過した。しかし、生物多様性の損失を止めるため、国際社会が合意した20の愛知目標はほとんど達成されていない。生息地の破壊や、種の絶滅の速度はとどまることをしらず、私たちはかつてない生物多様性の危機に直面している。

IPBES (生物多様性及び生態系サービスに関する政府間科学政策プラットフォーム)が昨年発表した報告書によれば、生物種の多くが人間活動により脅かされ、およそ100万種が今後数十年間のうちに絶滅する恐れがある。主たる原因は、土地利用転換、過剰伐採や乱獲、気候変動、汚染、外来種の侵入などだ。

気候変動は生物多様性の危機の主要因のひとつであるとともに、森林や湿地、サンゴ礁などの生態系の消失は、長い年月をかけて蓄積していた膨大な量の炭素を二酸化炭素などの温室効果ガスの形で放出する。各地で頻発する森林火災は、かけがえのない生物多様性大きな打撃を及ぼしているが、同時に気候危機をも加速化させる。一方で、森林伐採を伴う大規模なバイオ燃料の生産など、「気候変動対策」を口実に行われる事業が、生態系を破壊し、生物多様性に大きな打撃を与えている。

世界資源研究所(WRI)によれば、世界の原生林は、文明が始まったとされる8,000年前の状態と比べて、すでにその8割が消滅したとされている。また、国連食糧農業機関(FAO)の最近の評価レポートによれば、1990年以降、1億7,800万haの森林が失われた。森林減少・劣化の主要因は、大規模プランテーションや牧場への転換、鉱山開発、インフラ建設、過剰な伐採などだ。たとえば、アマゾンの森林減少の理由として、大規模な牧場開発や大豆プランテーション開発、鉱山開発、道路建設などが指摘されてきた。東南アジアにおいても、パーム油生産のためのアブラヤシ・プランテーション開発、紙生産のための産業用造林への転換、鉱山やダム開発などにより、豊かな熱帯林が失われていった。背景には、グローバリズムの進展と私たちの大量消費生活による資源需要の拡大がある。

皮肉なことに「環境にやさしい」として推進されている大規模バイオマス発電が、さらにこの傾向に拍車をかけている。日本でも2012年にFIT(固定価格買取制度)が導入されて以降、バイオマス発電所の計画が進んだ。しかし、大規模なバイオマス発電所の場合、海外からの燃料輸入に依存し、結果的に森林破壊に加担している。たとえば、木質ペレットの輸入量は2012年の約7.2万トンから2019年には約161万トンと20倍以上に急増。カナダやアメリカなど主要な生産国では、ペレット生産により天然林が根こそぎ伐採され、丸太ごとペレット工場に運び込まれている状況が報告されている。また、パーム油を燃料としたバイオマス発電所も建設されている。すでに、加工食品など従来の需要の急増を賄うため、インドネシアとマレーシアでは過去20年間に約350万haもの熱帯林がアブラヤシ・プランテーションに転換され、オランウータンやゾウ、サイなどをはじめ、多くの野生生物の生息地が失われた。バイオマス発電燃料による需要拡大は、その傾向に一層の拍車をかけるものである。

紙パルプ生産のためのアカシア造林のために、開発されようとしている泥炭林(インドネシア・スマトラ)(c)FoE Japan
アブラヤシ生産のためのパーム・プランテーション造成のために、伐採された森(マレーシア・サラワク)(c)FoE Japna

バイオマス発電用木質ペレット生産のために伐採された湿地林(アメリカ南東部)(c)Dogwood Alliacne 日本のバイオマス発電事業者も、今後、年間数百万トンレベルで輸入する。

日本でもリニア中央新幹線や辺野古米軍基地の建設など、大規模な生態系破壊を伴う事業が進行している。

生物種およびその相互関係の豊かさ、複雑さは、長い時間をかけて形成されたものであり、一度失われれば取り返しがつかない。生物多様性の破壊は、そこに生活する人々、とりわけ自然とともに生活をしてきた先住民族のくらしや文化の破壊をもたらし、最終的には、人類全体の存続基盤を脅かすものだ。

私たちはこうした危機を直視し、ただちに行動を起こすことが必要だ。大量消費を前提とした社会システムを根本的に変革すること、森林や生態系破壊に加担するプロジェクトがこれ以上進行しないよう、政策を見直すこと、企業や金融機関が意識や投資行動を変えること、市民一人ひとりが消費行動を変えていくことが求められている。

以 上

※関連情報
オンラインセミナーシリーズ:バイオマス発電の持続可能性を問う〜FIT制度への提言
署名>HISさん、熱帯林と若者の未来を破壊するパーム油発電をやめて!

 

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