お知らせ
FoE Japan 声明:生物多様性を守るために行動を
私たちは、かつてない生物多様性の危機に直面しています。
IPBES (生物多様性及び生態系サービスに関する政府間科学政策プラットフォーム)が今月発表した報告書では、生物種の多くが人間活動により脅かされ、地球規模での大絶滅が生じていること、およそ 100 万種が、今後数十年間のうちに絶滅する恐れがあるとしています。直接的な原因としては、最も大きいものとして土地利用転換、過剰伐採や乱獲、気候変動、汚染、外来種があげられています。一方で、先住民族や地元のコミュニティによって管理されてきた土地の生物多様性は、比較的守られていることも報告されています。しかし、これらの土地も、資源収奪やプランテーション開発、鉱山開発、運輸、エネルギーインフラの建設に直面しています。
気候変動は生物多様性の危機の主要因のひとつであるとともに、森林や湿地、サンゴ礁などの生態系の消失は、巨大な温室効果ガス排出をもたらすことから気候変動加速の要因ともなっています。さらに森林伐採を伴うバイオ燃料の生産など、不適切な気候変動対策が、生態系を破壊し、生物多様性に大きな打撃を与えています。
言うまでもなく、生物種およびその相互関係の豊かさ、複雑さは、長い時間をかけて形成されたものであり、一度失われれば取り返しがつくものではありません。生物多様性の破壊は、各地の人々のくらしや文化の破壊をももたらし、最終的には、人類全体の存続基盤を脅かします。また、生物多様性の破壊は、とりわけ自然とともに生活をしてきた人々や先住民族の生存と生活、文化を脅かすものです。彼らにとって、自然はさまざまな食物や薬、材を提供する場であり、長い時間をかけて自然を持続可能に利用する知恵と文化を発達させてきたからです。
いまのままでは、国際的に約束された持続可能な開発目標( SDGs )や、愛知県名古屋市で開催された生物多様性条約第 10 回締約国会議 (CBD ・ COP10) の愛知ターゲットの達成はおぼつかないでしょう。いますぐ行動が求められています。
①土地利用転換とバイオ燃料
IPBES 報告書では、人間活動により、世界の陸地の 75%が大幅に改変されたこと、最も生物多様性に富む熱帯では、 1980 年から 2000 年までの 20 年間で、 1 億ha もの森林が失われたことを報告しています。消失の原因は、南米では牧草地、東南アジアではアブラヤシによるプランテーション開発としています。
FoE Japan は、現在まで、違法伐採による木材の流通を監視し、クリーンウッド法( 合法伐採木材等の流通及び利用の促進に関する法律 ) の制定や厳格な運用のために活動してきました。また、パーム油や紙パルプ原料の生産により熱帯林が伐採され、プランテーション化されることにたびたび警鐘をならしてきました。
熱帯林が大企業により囲い込まれモノカルチャー化されることは、生物多様性が失われるだけでなく、先住民族や近隣の住民たちの生活の場をも脅かすことになるからです。
今般、従来の需要に加えて、バイオマス発電の原料としてパーム油や木質チップ、ペレットなどの需要が急増し、さらに森林の開発圧力が強まることも懸念されます。結果として、自然林や泥炭地が破壊され、生物多様性が失われるだけではなく、大量の温室効果ガスを排出し、気候変動を加速させることにもなるでしょう。このような原料を燃やすバイオマス発電は FIT から除外すべきだと考えます。なお、 FoE Japan は現在、気候変動や森林保全に取り組む多くの NGO や市民団体とともに、 H.I.S. 社が宮城県角田市で建設中のパーム油を使用したバイオマス発電の中止のためのキャンペーンを行っています。同社に限らず、バイオマス発電の燃料を海外から大量に輸入することにより、かえって生物多様性を破壊し、気候変動を加速することはあってはなりません。
プランテーション開発のための皆伐(マレーシア・サラワク州)
②気候変動対策の抜本的見直しと具体化
生物多様性保全、また生態系と共存するくらしを守る観点から、気候変動対策は急務です。世界の科学者たちは、気候変動はもはや「危機」であると警告し、自治体が「気候非常事態宣言」を出す動きが急速に世界に広がっています。
日本は、温室効果ガスの大量排出国として、また歴史的責任を持つ先進国として、気候危機に対応する野心的かつ具体的取り組みが必要です。しかし、日本ではいまだに化石燃料発電や原子力発電を重視し続け、大量生産・大量消費の方向を見直しておらず、世界の流れに逆行しています。
③法制度の強化
経済活動を優先とした現在の日本の社会システムでは、生物多様性や生態系の保全が法によって十分守られていません。
たとえば、現在、各地で大規模な太陽光発電による山林の乱開発が問題になっています。
環境省は出力 40MW 以上(事業区域面積 100ha 相当)の太陽光発電所を第一種事業として環境影響評価の対象とする方針を決めましたが、これでは現在問題になっている多くの事業がこぼれおちてしまいます。
さらにゾーニングにより、生物多様性に富んだ保護価値の高い生態系を開発から除外するような仕組みを導入することが必要です。
プラスチックごみなどの海洋の汚染も、生物多様性の大きな脅威となっています。日本はプラスチックごみ削減の具体的な数値を示し、使いすてプラスチックを規制するための行動をとることが求められています。
④住民参加と社会的合意
人間の生活にとって生態系は、食や自然、文化を育むものとしてかけがえのないものです。
日本国内外で、さまざまな名目での開発により、自然が破壊され、住民の生活の場が奪われる事態が生じてきました。中には、反対する住民を弾圧して開発が強引に進められてきた例もあります。事業の必要性が定かではないものもあります。この多くが、税金や公的資金などが流し込まれて進行しました。
事業の早期の段階において、事業の必要性や代替案の検討、情報公開や市民参加と協議、住民の権利を保障するため、法制度を整備し、誠実に実施していくことが求められているのではないでしょうか。
現在、インドネシアで ODA によって進められているインドラマユ石炭火力発電所は、生計が奪われるとして多くの人たちが反対しています。ところがこうした声は無視され続け、反対する農民たちが無実の罪で投獄されるという事態にまで至りました。
また、沖縄県名護市で行われている辺野古米軍基地建設事業には、世界でも類をみない豊かな海洋生態系を破壊するだけでなく、人々が豊かな環境を享受し、未来を選択する権利すら奪うことにもなります。日本政府はこの理不尽な事業をただちに中止すべきです。
⑤一人ひとりが行動を!
私たち一人ひとりにもできることはあります。
大量生産・大量廃棄をやめ、消費生活を見直すこと、フェアトレードや有機産品、持続可能性が認証された産品を購入すること、プラスチックごみを減らすこと、生物多様性に配慮している企業や具体的な方針を示している企業を応援すること、政府や企業に対してものを言うこと、政策を変えること…。
かけがえのない生物や生態系の多様性をまもるために、できることはたくさんあります。行動していきましょう!