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ツアーレポート 四国・木頭村 森林スタディツアー

備長炭は健在? 土佐と紀州の炭焼き釜を尋ねて

村落に住み、そこで生業(なりわい)を営む人たちと交流し、彼らの自然保護と伝統文化の継承への取り組みを学ぶツアーシリーズ。
今回は、7月31日〜8月3日の日程であったが、期間中、台風第10号との縁がとても深く、あまりの豪雨で林道に入ることが危険だと地元の林業家や営林署に助言され、木頭村(木頭杉)と馬路村(魚梁瀬・千本杉)の森林を間近で見ることはできなかったが、重要な地域産業の一つである炭焼き釜を見学してきたため、「備長炭」を中心に報告することとする。

備長炭とは何か? / 日本の炭の需要は激減しているのに、輸入炭は増加? /

紀州・備長炭は頑張っている! / 南部川村森林組合・備長炭博物館 /

室戸市、植田敬子さんの釜を訪問 / 原木・ウバメガシの供給は? / 現地から見えてきた諸問題について

 

四国・徳島県の風力発電設備


備長炭とは何か? −白炭と黒炭−

硬くて火付きが悪いが長持ちするのが白炭の特徴である。原木はカシなど堅い樹木で、備長炭は白炭の王様とされている。軟らかくて火付きが良いがすぐ燃え尽くすのは黒炭で、材はクヌギ、コナラ、ミズナラなど柔らかい樹木である。

> https://www.i-sumi.com/main/sumibi-m/kurosiro.html

備長炭は、鋼鉄に近い硬さがあり、固くてずしりと重い。火が長持ちするため、蒲焼や焼肉の際に遠赤外線が旨味を引き出す。料亭筋からの根強い需要があるようだ。

備長炭となる原木の具体名は「ウバメガシ(姥目樫、馬目樫などと書かれる)」。海岸に近い急峻な傾斜地に自生する背の低い常緑広葉樹である。日本農林規格(JAS)においては、カシの白炭で硬度15〜20度以上が備長炭と呼ばれている。ちなみに鉛筆と鉛が硬度1、鋼鉄が硬度20である。

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日本の炭の需要は激減しているのに、輸入炭は増加?

表1 木炭の国内消費量と輸入量との推移
国内消費量 国内生産 輸入木炭  紀州備長炭
黒炭 白炭
1950 2,002 1,428 438 0 11.3
1970 291 142 37 15 4.7
1990 159 83 28 20 2.5
2000 197 20 4.6 93 1.5
2002 186 17 4.0 104 -

表1に木炭の国内消費量と輸入量との推移を示す。表より1950年代が民生用薪炭生産のピークに当たり、1960年以降は厨房や給湯・暖房に、都市ガス・プロパン・電気が導入・普及して、薪炭需要は急速に後退し、里山が放置されることとなっていった。バブル経済の崩壊と同時に炭が見直され、需要は若干伸びたが、国産は減りつづけ、価額競争力に勝る輸入が伸び続けている。
     

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紀州・備長炭は頑張っている!

備長炭の生産量は現在、全国で約4,000トン、そのうち紀州が35%、日向が20%、土佐が15%である。上記の表からもわかるとおり、全国的には最盛時の100分の1になっているが、紀州では10分の1程度にしか落ちてない。紀州の釜主によれば、紀州の備長炭は現在生産が存続している日向や土佐よりも品質がよいので生産が落ちてないのだと言う。

残念なことに紀州、日向、そして土佐を除く他の生産地では釜の数が激減していると言う。紀州備長炭の稼動釜数は約200基、生産者数約200名は、南部川村、中津村、日置川町、田辺市に偏在している。

     

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南部川村森林組合・備長炭博物館 ― 訪問記

南部川村には約50基の釜があり、40基前後が稼動している。和歌山県でもトップクラスの産炭地である。炭は「特用林産物」と言い、ここ南部川村は備長炭振興の中心であるため、南部川村森林組合でも本来の業務ではないが、2基の釜を保有し、備長炭博物館の運営を受託して備長炭の販売にも力を入れている。全国の森林組合の中でもユニークな活動をしているところだ。

職員の松本さんに釜を見せてもらいながら説明をいただいた。森林組合所有の2基の釜は、炭焼き後継者養成に応募したIターンの1期生が作業を請け負っていた。「作業はきついがやり甲斐がある」と生き生きとした表情であった。松本さんは、2基の釜への投資500万円を回収すべく、少しでも高く売るために東奔西走して営業活動をしている。代々続いている釜はお得意の卸商がついているが、数年前に事業を始めた森林組合自身は販路の開拓に必死だ。

> https://www.iip.co.jp/minabegawa/STORY/st.html

     

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室戸市・商工観光課の案内で、植田敬子さんの釜を訪問

室戸市東北部の佐喜浜川を遡って5km、周囲が割合に開けている川原のような所に、植田敬子さんの大きな釜があった。植田家はこの佐喜浜の素封家のようで、2〜3基の釜を稼動させ、大阪などの問屋とも行き来しており、中国にまで視察・指導に行ったこともあるそうである。土佐の釜は紀州の釜より大きいため、1サイクルが20日と、10日前後の紀州釜より長い。また室戸市には40基の釜があるとHPに記載されているが、植田さんの話では実際に稼動しているのは10基程度とのことである。

中国産備長炭が輸入されるようになり、安価な中国産との価額差が2倍を越すと、問屋は引き取ってくれないのが現実だ。ただし中国産は品質に問題があるようで、最終製品にする時の歩留まりの悪さが、2倍の値差を許容している。しかしながら中国産は値下がり傾向で、その圧力が原木のコストにしわ寄せしている。室戸岬の東海岸沿いにウバメガシを含む常緑広葉樹林が広がっているが、ここは急傾斜で伐採業者が近付きにくく、現在、原木は高知県西部の比較的アクセスの容易な山から数時間かけて運んできている。原木伐採は重労働なため、就業者が少なく労働力不足が問題となっている。

     

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原木・ウバメガシの供給は?

ウバメガシは備長炭以外には用途のない小高木で、昔は周囲のカシやナラと一緒に伐採されていたが、現在はウバメガシのみが抜き切りされる傾向である。周囲の広葉樹が切られずに残っていると、通常、実生ではなく萌芽により更新するウバメガシの天然更新は順調に進まなくなってしまう。伐採業者は、本来ウバメガシの抜き切りではなく、周囲の雑木も切っておかねばならないことを承知しているものの、自分の山ではないので手入れをしないため、ウバメガシの原木植生は減少の方向に向かっているそうだ。ただし日本の白炭生産量も減少方向なので、ウバメガシの植生減少は顕著には表れていない。

もう一つの問題は、ウバメガシの樹齢と萌芽更新の関連である。30年生前後のウバメガシ原木が焼き上がり太さの関係で最も高く売れるし、30年生の切り株であれば、萌芽更新の勢いが強い。ところがアクセスの良い30年生のウバメガシはほとんど伐り尽くされ、アクセスの困難な所に行くか、40〜50年生を伐採するかのどちらかとなり、いずれも原木のコスト高、あるいは炭の売値が下がってしまう問題に帰結する。和歌山県ではウバメガシの里山が約1,000haあるものの、持続可能な経営が可能であるかどうかという点については疑問符がつく。

     

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現地から見えてきた諸問題について

●炭の消費量(ton)と木材の材積(m3)と植生面積(ha)の関係は?


1m3の木材チップは約1tonと言われる。水の含有量を100%として、蒸し焼きの際に他の色んな成分がガス化・燃焼・灰になると、重量が1/8程度になるだろう。選別・箱積めで歩留まりが20%減ると、原料1m3から100kgの炭製品ができるかと推定される。現在の日本の消費量20万tonから逆算すると原料の材積は200万m3となり、日本の住宅・紙などに使う木質資源年間消費量の2%に相当することが推量できる。

一方で2003年の中国からの木炭輸入の金額の総輸入木質資源に占める率は0.5%であるため、廉価な中国品とであることを考慮すれば、材積では1%くらいとなり、他の輸入炭と国産炭を入れ、材積で2%との推量に達し、前述の算出値を肯定するものである。

ウバメガシの植生面積に換算すると、1haあたり50m3の収穫量があるとして、4万ha程度である。また、日本の生産量から逆算すれば800ha/年の皆伐となり、成長が30年周期と仮定すれば、日本全体で25,000ha程度のウバメガシ林地を持続的に管理できれば需要が満たせるということになる。南部川村は約1,000haを有するため、面積的には充分であるが、問題は育林管理が行き届いているかどうかという点である。

●私が備長炭の産地にこだわる訳 ― 輸入備長炭は、ほとんどが違法伐採材を使ったもの?

表2 通関統計における木炭の輸入量 (単位:ton)

合計 中国 マレーシア インドネシア
1998 66,938 32,067 12,591 15,836
1999 86,136 44,896 18,199 17,084
2000 93,119 48,849 21,853 18,185
2002 104,366 56,582 21,696 21,180
2003 114,718 62,825 22,942 22,830

表2は通関統計の「木炭」に関するデータをまとめたものである。白炭・黒炭の区別が不明で、備長炭に相当する白炭の輸入量は把握できないが、現在の貿易状況を踏まえ、数値の推移より幾つか考えられる点について述べていく。

インドネシアでは、えびの養殖が盛んで、養殖のプールを海岸に数kmに渡り、作り進む過程で大量のマングローブを伐採していた。マングローブの幹はウメバガシ同様、組織が緻密で硬く、焼くと備長炭に非常に類似したものができる。集材が容易なことや、労賃が安いため、10数年前から備長炭代替品として日本への輸出が始まった。乱伐の結果、伐採地が交通の便の悪い地域に移ったり、再植林が義務付けられたりして、日本への輸出は頭打ちになっている。

これに代わって輸出を伸ばしているのがマレーシアと中国である。特に中国については、揚子江流域南部にウバメガシが自生しており、日本から技術指導を行った結果、品質や歩留まりは悪いが備長炭の生産が可能となり、急速に日本への輸出を伸ばしている。表からもわかるとおり、備長炭のみではないものの日本の木炭総輸入量の半分以上を占めている。

また、中国では砂漠化防止と洪水防止のために全国的に樹木の伐採が1998年以降禁じられているのにも関わらず、木炭のみならず木材の対日輸出量は増加している。日本の木炭輸入関係者に聞くと、中国側売り手の説明では「伐採禁止令が出る前に炭に焼いておいたストック品で、違法な伐採による原木は使ってない」とのことである。ただし伐採禁止から6年が経ったものの中国炭の日本への輸出量は禁止直後の2倍に増加している。

●炭の消費者に訴えたいこと ― 少しくらい高くても国産の炭や備長炭を買おう!

マングローブ林は汽水域にあって、ここに生息する様々な生き物を育む一種のシェルターである。南洋の島嶼では地球温暖化による海岸線の後退を防ぐ有力な防波堤でもある。

そこで備長炭を買うときには、是非インドネシア産やマレーシア産かどうか確かめることを消費者の皆様に提案したい。その際、何を原料にしているかどうか十分に注意し、天然マングローブ林からの炭を買うのは避けたい。同じマングローブでも植林されたマングローブ林からの炭が市場に見られるようになってきており、これはまだベターなのかも知れない。

いずれにしても、中国産の炭を買う際は、中国の砂漠化を助長している、あるいは揚子江の洪水にほんのわずかですが間接的に加担している可能性があることを認識していただきたい。
     

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