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ツアーレポート 紅葉の北アルプス山麓・長野大町 森林スタディツアー

日本各地の森を訪れ、森林・林業の現状を知る林業視察ツアー。今回は、10月12・13日の1泊2日の日程で森林・林業の状況を見るために長野県を回りました。前回、岐阜県に行ったときと比較しても本当に隣の県なのにもかかわらず、森林の様子や植栽されている樹木がかなり違い、また、林家の考えにも違いを感じ、興味深いツアーでした。また、秋ということもあり始まりつつあった紅葉を楽しむこともできた二日間でした。

城北木材加工 / 「森のくらしの郷」宿泊 / 黒部ダム周辺のブナ原生林 / 林業地見学

 


城北木材のショールーム

城北木材加工(有)
カラマツ材を用いている家具店


松本市にある城北木材加工ではカラマツの材を使った家具を製造・販売している。

カラマツは信州ではふんだんに存在しよく目にする樹種であり、安いが曲がり・ねじれなどの狂いが生じて性質が良くなく、利用しにくく加工に金がかかる材として敬遠されているのが現状だ。

しかし、同社の社長である峯村さんはこの誰からも好まれていないカラマツ材に目を付け、家具材として利用しようと考えた。カラマツは十分な強度をもっており、「やるべきことをきちっとすれば使えるんだ」と言う峯村さんは、カラマツ材に狂いが生じないように充分乾燥を行い、ついには家具材として充分に利用に耐えうるものにし、家具を作っている。カラマツ出てきた椅子・机は非常に強固で長持ちするそうだ。また、家具は木目が春〜夏に成長した白い部分(夏目)と秋〜冬に成長した黒っぽい部分(冬目)で鮮やかなコントラストになっていて、非常に美しいものだった。ちなみに、この夏目と冬目の硬さが全然違うことが、加工しづらく使いにくい材にしているという。

材料となる木材はすべて地元信州の山元から直接買い付けている。どこの何年生の材か出所がハッキリするからだ。ちなみに樹齢は30年でも60年でも80年でも何年でもつかえるそうだ。

また、峯村さんはカラマツ材で作った学習机と椅子のセットを県内の小学校に卸している。キットを作って小学生に実際に作ってもらうようにしている。机の天板を一人の小学生が六年間使って卒業する時に持って帰るという。小学校に納入を始めたときから今までクレームはないそうだ。「子供には本物を使ってもらわなくてはいけない」と峯村さんは言っていた。

扱うのが困難であったカラマツで家具を作ると言った当初、皆から「おまえはおかしい」と言われたそうだ。しかし、当時家具の売値の半分は材料費だったが、カラマツなら25%で済み、「単純に儲かる」と考えていたとのこと。
これまで小学校を中心に6000セットの学習机と椅子を納めた。「子供の使うものは単なる道具ではなく教材なんだ」。

「未来を考えた時、子供が一番大切」、ということで「子供を裏切ることは絶対にしない」との考えから、一人の子供が小学校を卒業するまでの6年間の保証を付けて売っている。

工場から出る鉋クズは豚舎の下敷→肥料にし、その他は燃料にするなど、残材は全てムダにはしていない。「ゼロエミッション」である。
 
城北木材に到着。峯村さんのお話しを聞く参加メンバーたち。
くるう・まがる・われると嫌われるカラマツも、峯村さんの手にかかれば頑丈で木目の美しい材に。
峯村さん。カラマツに情熱をもって取組んできた。難しいカラマツの性質をよく理解しよい所を引き出す名人。
県内の小学校に納める学習用の椅子。とても丈夫で卒業するまでの6年間保証をつけている。
材料となるカラマツは地元長野県内の山元から直接買い付けている。
城北木材の工場の中。残材は肥料や燃料にするなど全て活用している。
 

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武蔵林業「森のくらしの郷」宿泊

この日は北アルプスのふもとに位置している武蔵林業の森にある山小屋に宿泊した。武蔵林業は社有林で施業を行う一方、一般の人を対象としたレクリエーションプログラムを行っている(「森のくらしの郷」)。森の中には樹上に建てられたツリーハウスが点在し、県内外から宿泊客が来ていた。夕方には森に生えているキノコを狩りをした。最初はどこにあるかが全然分からなかったが慣れてくるとありそうな雰囲気がわかるようになってくる。時間がたつにつれ、参加者は次第に目の色変えてキノコ狩りに熱中していった。取ったキノコは晩御飯のキノコ汁とキノコご飯になった。これがまた非常においしかった。

採集したキノコの種類
ハナイグチ、ヌメリグチ、アミタケ、オオギタケ、など

>森のくらしの郷
 
武蔵林業の林分構成:全300ha そのうち人工林は70ha(カラマツ40ha、ヒノキ20ha、スギなど10ha) キノコ狩りに夢中の参加者達。 カラマツの落ち葉の下から顔を出しているキノコ。
ハナイグチをゲット!なめこのお化けのようなキノコでとてもおいしい! ハナイグチの裏側。これはちょっと小ぶり。 苔むした地面にナラタケもみつけた。
     

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黒部ダム周辺のブナ原生林散策

翌日は朝から黒部ダムへ行った。この地域にはクロベ(ネズコ)の木がたくさんあったことからこの地がクロベ(黒部)と呼ばれるようになったとも言われている。ちなみにクロベはヒノキ科の針葉樹である。扇沢からトロリーバスで15分ほど登ると黒部ダムに着く。上で朝食を取った後、ダム湖の周囲のブナ原生林を散策した。ここは樹齢300年以上の大樹がみられるブナの極相林となっている。あいにくの雨模様で肌寒かったが、紅葉が見頃を迎えていた。ブナの他にもいろいろなカエデ、カラマツなどが赤や黄に色づいていて、とてもきれいだった。

 
ダムの下流。天気はいまいちだが見事に色づいた紅葉が美しい。

この木が黒部の名前の由来とも呼ばれる“クロベ”。葉がヒノキに似た針葉樹。

ダム湖の周辺を散策。モミジが真っ赤に色づいていた。
ダム湖周辺の原生林を案内してくれた武蔵林業の八木さん。大町市の市議会議員としても活躍中。 2-300年の立派なブナの巨木たちが広がっている。何百回目の秋なのか・・・。 極相林でも土砂崩れなどの跡では多様な樹種が生存競争をしており、数百年かけてブナ林に遷移していく。
     

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長野県のモデル林となっている
80年生カラマツ林

林業地見学

その後企業組合・山仕事創造舎の香山さんの案内で香山さんが仕事をしている林業地を見学した。

武蔵野林業の山からみるとちょうど木崎湖〜青木湖〜姫川を挟んで反対側になるので日当たりや地形などの印象がかなり違った。また、姫川流域の東西は中央構造線を挟んでいて、西側が花崗岩土壌でと東側が火山灰土壌というふうに土壌の性質も異なる。

山仕事創造舎は複数の山持ちの山の施業を請け負っていて、間伐・枝打ち・雪起こしなどの作業をしている。大町は雪が多い土地柄で、植林してからしばらくは春に雪起こしが必要となる。雪起こしをしないと木の根元が曲がってしまって材木の価値が下がってしまうという。また、スギの場合、樹木のまっすぐさの度合いを表す形状比が70以上だと雪害にあいやすい。

まず行ったのは比較的最近に間伐が行われたスギ・ヒノキ林(25年生)だ。地面に光が当たって明るい林だった。案内された場所は比較的傾斜がゆるく伐出がしやすいところだった。香山さんはなるべく切った間伐材は出すようにしていると言う。間伐量は本数で4割、材積にして3割程度と、比較的強度の間伐を行っており、これは材を多く出すためだそうだ。

前回、岐阜県に行った時、間伐材を出している暇があったら手入れの遅れている場所に行ってなるべくたくさんの面積の間伐を行うべきであるという考えで、切り捨て間伐をしているという話を聞いていたので、間伐材に関しては本当に林業家によって市場に出すか出さないの考え方はまちまちなのだな、と感じる。しかし、ここでも間伐材の収入だけでは輸送コスト程度にしかならず、間伐補助金(2〜30万/ha)も利用している。ここでは施業計画も出しているとのことで、施業計画制度による補助(1万/ha)も受けているそうだ。それでも、かかる費用とトントンで、何とかやっていけると言う程度。やはり林業は厳しい。

スギ・ヒノキ林の合間にはナラ、ホオ、カエデ類の広葉樹が入ってきていた。若いうちは間伐時にどうしても邪魔になるので除伐しなければならないが、40年生以降に混交林にしていくという。また場所によって木が充分に生育していない所が見受けられた。場所によって植える木を考えなくてはいけない、と言っていた。古くから林業をしている場所はどこに何を植えたら良いかということが分かっているが、この辺は林業後進地なので、と香山さん。手探りの部分もあるようだ。

それから80年生のカラマツがある森を案内された。カラマツは元々まっすぐ育つ木で80年生ともなると相当な太さで、迫力がある。また、カラマツ林と呼んでよいか分からないほど、ブナ、ナラ、ホオ、カエデなどの広葉樹が大量に入っていて大きく育っているものも多かった。ここは、上層に植栽木の大木があってその下に自然に入ってきた広葉樹が育っている森となっており、長野県のモデル林となっているそうだ。また、この辺りは特に広葉樹が容易に入りやすい土地柄なのだそうだ。それというのもここが林業後進地で本格的な植林事業が行われてから比較的、日が浅いということが幸いしているようだ。人工林一辺倒の森林施業に疑問符がつけられている今、その後進性が逆に追い風になっているようにも思った。このあたりの広葉樹も徐々に色づき始めていて、美しかった。広葉樹は、薪やキノコの原木として出している。

そしてカラマツ40年生林の見学。ここは間伐一度しかしなかったので状態が良くない。最近間伐をして半分にした。いまはまだ樹勢が良くないが、カラマツは幹の途中からでも枝を出すことが出来るので、これから樹勢を回復できるという。

その隣にはかつて皆伐が行われた跡地に二次林が広がる。そこにはもう人が入ることが出来ないくらい多種の木が大量に入ってきていた。haあたり数万本も入るという。二次林の手入れは最初は何もしないこと、と香山さん。時間の経過とともに徐々に残るべき木は残ってゆく、という。現在はナラとリョウブ、ウルシなどが競い合っているが、いずれナラが優勢になるだろうとのこと。


>山仕事創造舎
 
案内していただいた山仕事創造舎の香山さん。もとは神奈川でNGOをしていたそうだ。 間伐後間もないスギの25年生林。下層に広葉樹が育つ混交林を目指した施業を行っている。 同じく25年生のヒノキ林。スギに比べると成長はいまいちのようだ。
80年生のカラマツ林。これがほんとうに人工林?ブナ、ナラ、ホオ、カエデなどが共生している。 こちらは状態の良い40年生のカラマツ林。良質の木材生産と豊かな森林環境は両立できる。 こちらは最近間伐したカラマツ林。となりの伐採跡地には、ナラ、リョウブ、ウルシが競合を始めていた。
     

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