エネルギー基本計画見直し―原発や石炭火力依存から脱却し、システムチェンジを!
日本のエネルギー政策の根幹となっているエネルギー基本計画の見直しの議論が、10月13日、総合資源エネルギー調査会基本政策分科会で始まった。
これまでもFoE Japanを含む環境団体や市民団体は、市民に開かれた民主的で透明なプロセスを要求してきたが、今回も従前と変わらず産業界に関係するメンバーが圧倒的多数を占める審議会で世論から乖離した議論が行われている。
気候危機が日本でも現実のものとなり、原発事故の被害もいまだ続くなか、エネルギーを大量に消費する経済のあり方や生活、化石燃料・原子力依存を続けることは許されない。菅首相は10月、「2050年にカーボンニュートラルに向かう」と宣言した。しかし現在の議論は、原発や、石炭火力など化石燃料の使用を残しながら、炭素回収・貯留・利用(CCUS)や化石燃料由来の水素利用など不確実で高コストな技術に頼って「実質ゼロ」を目指すというものである。気候危機の現実と気候正義に向き合ったものとは言えない。
FoE Japanは、今回のエネルギー基本計画見直しについて以下を求める。
1.市民に開かれたプロセスを
日本のエネルギー・気候変動政策は、日本に住む人びとのくらしやいのちに関わる重要な課題である。エネルギー基本計画の見直しは、可能な限り多様な立場の市民に参加の道を開き、民意を反映できるしくみを構築して行われるべきである。現在の審議会(基本政策分科会)の委員構成は原発事故以前とほとんど変わらず産業界寄りであり、市民、環境団体、原発事故や気象災害などの被災者の声とはかけ離れた議論が行われている。
形式的なパブリックコメントだけではなく、若い世代の参加確保、各地での意見交換会、討論型世論調査(*1)など様々な形での市民参加プロセスを確保し、その意見を第三者によって検証・とりまとめして(*2)反映すべきである。
2.原子力は気候変動対策として使ってはならない
2021年3月には福島第一原発事故から10年を迎える。しかし事故被害の現状は「収束」とは程遠く、被害者の苦悩は続いている。 放射性廃棄物の処分の候補地選定に関する文献調査が開始されたものの、地震・火山国の日本で処分地を探すことは、科学的観点、技術的観点、またプロセスの観点からも非常に困難であり、まったく見通しは立っていない。
核燃料サイクル政策や原発の新増設、次世代炉の開発は、安全性や倫理の観点から許されないだけでなく、そこにかかるコストも莫大であり、一刻も早く中止・方向転換すべきである。
現在ある原発についても、地震や火山リスク、またコロナ禍により事故時の避難が一層困難となっていることなどから、稼動すべきではない。安全対策費の高騰などから、経済性も失われている。原子力による発電は、すでに日本の電力需要のわずかな割合しか占めておらず、今後電源として頼れる見通しもない。
原子力利用からの脱却を決め、廃炉と放射性廃棄物の処分に向け原子力産業の大改革を行わなければならない。
3.気候危機に向き合い、システム・チェンジを
2018年からの2年間で、気候変動問題は「気候危機」としてすでに広く認識された。2018年の西日本豪雨、2019年の九州北部豪雨や台風15号・19号、2020年の九州豪雨、猛暑など、気候変動の影響で激化したとされる深刻な災害・影響が日本でも相次いでいる。
日本が2020年3月に国連に再提出した気候変動に関する国別目標(2030年までに2013年度比で26%削減(1990年度比で18%削減))の引き上げは大きな焦点の一つである。2050年排出ゼロを目指すためにも2030年目標の大幅引き上げが不可欠である。気候正義・歴史的責任に基づく排出削減分担(Fair Shares)を見れば、先進国として日本は本来2030年までに国内で69% (1990年比)(*3)を削減し、さらに持続可能で人権に配慮したかたちで途上国での削減に大きく貢献しなければならない(*4)。
2019年度現在で、2013年度比14%削減(1990年度比4.3%)(*5)の削減にとどまる現状との深刻なギャップを認識しなければならない。エネルギー需要を大幅に削減する方向に社会を転換する「システム・チェンジ」なしには、大幅な目標引き上げとその実現は不可能である。大量消費や化石燃料依存の経済のあり方こそ見直すべきである。
4.持続可能な再エネ中心社会へ
日本ではこれまでエネルギーの大部分を化石燃料輸入に依存してきたことから「資源の乏しいわが国」と言われ、現在の審議会議論のなかでさえ言われ続けている。また、大規模集中型の電力システムの矛盾や脆弱性は、原発事故や北海道胆振東部地震時の停電などですでに明らかである。
これからは、国内・地域にねざした持続可能な再生可能エネルギーを、電力だけでなく熱や動力も含めエネルギーサービスの中心に据えていかなければならない。各地に遍在する再生可能エネルギー資源をツールとして活用し、豊かな地域づくりを実現していく必要がある。
エネルギー需要・電力需要の大幅な削減をしたうえで、発電量にしめる再生可能エネルギーの割合は2030年までに最低でも50%、2050年までに100%にしなければならない。
また、バイオマス発電については「炭素中立」とされているが、現在、海外からバイオマス用燃料の輸入が急増しており、燃料確保のために森林伐採や泥炭地開発などを伴うことも多く、結果的に大量の温室効果ガスを排出している。こうしたバイオマス発電を専焼・混焼に関わらず推進するべきではない。
5.化石燃料、特に石炭火力からは早期の脱却を
温室効果ガス排出ゼロの社会に向け、化石燃料からの脱却は順次具体的に進めなければならない。天然ガス火力も含めて、これからの新設は行うべきではない。特に、CO2と大気汚染物質の排出の大きい石炭火力については、高効率のものも含め遅くとも2030年には廃止しなければならない。横須賀石炭火力発電所など新規建設は中止し、廃止計画を具体化していかねばならない。
新たな石炭火力発電所の輸出支援は許されるものではなく、計画案件(*6)も中止すべきである。
第5次エネルギー基本計画
https://www.enecho.meti.go.jp/category/others/basic_plan/
総合資源エネルギー調査会「基本政策分科会」
https://www.enecho.meti.go.jp/committee/council/basic_policy_subcommittee/
eシフト:エネルギー基本計画「ファクト・チェック」
http://www.eshift.club/energyb_fc.html
*FoE Japanは、エネルギー基本計画と地球温暖化対策計画の見直しにむけ、多くの市民団体やネットワークと連携し、「あと4年、未来を守れるのは今」キャンペーンを呼びかけます。署名や拡散など、ぜひご参加・ご一緒ください。
http://ato4nen.com
<注>
*1 特定のテーマについて無作為抽出で選ばれた参加者に議論してもらい、その前後で考えがどう変わるかをみる調査の手法。2012年8月に日本でも「エネルギー・環境に関する選択肢を巡る国民的議論」のなかで実施された。
https://www.cas.go.jp/jp/seisaku/npu/kokumingiron/dp/index.html
*2 2012年、エネルギー・環境に関する選択肢を巡る国民的議論について、意見聴取会、討論型世論調査、パブリックコメント、報道機関による世論調査等の結果を踏まえた検証を行うため、エネルギー・環境会議の下に、「国民的議論に関する検証会合」が設置された。https://www.cas.go.jp/jp/seisaku/npu/policy09/archive12.html
*4 2015年パリ会議の前に世界の気候正義の市民団体がストックホルム環境研究所の協力を得て公平かつ歴史的責任に基づく各国の責任分担について、Fair Shareシナリオを開発した
Climate Fair Sharesウェブサイト http://www.climatefairshares.org/
https://calculator.climateequityreference.org/
*5 環境省、2019年度(令和元年度)の温室効果ガス排出量(速報値)
*6 国際協力銀行(JBIC)及び日本貿易保険(NEXI)が支援を検討中のブンアン2(ベトナム)、国際協力機構(JICA)が支援を検討見込みのインドラマユ(インドネシア)及びマタバリ2(バングラデシュ)の3案件。欧州を中心とする21の投資家連合がブンアン2石炭火力発電所計画に参加する三菱商事などに事業からの撤退を要求している。